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180 ビーチの女神
しおりを挟むなんだかちっとものんびりできないアルチャージルでのバカンス。
モランくん絡みでのビスコ家騒動。海獣大戦争プラス。ちなみにプラスは空から落っこちてきたアレのことね。
アレってば「ナガナガラ」とかいう幻のモンスターらしくって、雷雲を住処にして気まぐれにてノットガルドの空を彷徨っているとのこと。
アカシックレコードにそう記載されてあるってルーシーが言ってた。肉はまるでダメだけどウロコは価値が高いらしくって、「空から大金が降ってきた!」ってお人形さんはよろこんでいた。まぁ、たしかにキレイだったし、得したことは素直にうれしい。
が、おかしい……、なにかヘンだよ。
だって、どうしてこうもトラブルが続発するの?
偶然、星の巡り、運のなさ。
ちくしょう。どれもこれも思い当たる節がありすぎて、否定できない。そもそも異世界渡りの勇者に選ばれてる時点で、運を貯めておく瓶の底がとっくに抜けてる。わたしが口座を作っていたハッピー銀行は経営破綻。
それでもって極めつけのトラブルが、ビーチに待ってたよ。
海獣騒動の翌朝。
波がすっかり落ち着きをとり戻したので、みんなで浜へと遊びに来てみれば、なにやら一角に野郎どもが群がって男祭り状態。
いくら常夏のビーチとて、なんともむさ苦しいことこの上なし。
何ごとかとおもい、鬼メイドのアルバにひょいと肩車をしてもらい高みの見物。
そして目に飛び込んできた光景に、「げっ!」と声をあげたのと同時に肩から下げていたポーチ内にて、スマートフォンっぽい通信端末がぷるぷる。
視線はそのままに「もしもし」と出れば、相手は宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦橋にいるクルーの分体であった。
「おはようございます、リンネさま。少々お耳に入れたい情報がありまして。じつは……」
たまさぶろうのホーミングレーザー。その地獄の追尾機能を応用して、マーキングした相手の位置情報を把握する監視システム。
現在、リンネ組及び、わたしの周辺の主要人物たちの情報の他に、敵対関係にある者の情報も登録されておりずっと追尾していたのだが、先日の海獣騒ぎのおりに荒れた気象の影響を受けて、これのシステムの一部に障害が発生していた模様。激しい雷雲のせいで電波状況がずいぶんと乱れていたらしい。
そのせいで位置情報の伝達が途絶えていた監視対象が発生。
今朝になってシステムは完全に復旧し、データも更新されたのだけれども、どうやらその間に不用意にもかなりの接近を許してしまったと。
「あー、それならすでにこっちでも把握したよ。なにせ対象はいま現在、ビーチの視線を独り占めしているからねえ」
わたしの視線の先にいたのは、ビーチチェアにて優雅に寝そべっているブルネット髪の美女。
ちょっと動いたら、あちこちがポロリしちゃいそうなきわどい水着姿にて、白磁器のような肌を惜し気もなく晒しているのは蠱惑の女スパイ、グリューネ。
わたし発ライダースーツを着せたらめっちゃエロいはず部門ランキング、ぶっちぎりの一位の女にして、歩くエロスの化身のような女。文字通り数多の国を破滅へと誘った傾国の美女。
リスターナではニアミス、ラグマタイトでは戦闘、オスミウムでもニアミス、ダロブリンでは見たくもないゲロ面を拝まされた。
改めて思い返せば、何かとご縁がある九番目の聖騎士。
鼻の下を伸ばした数多の男たちに囲まれ、これを侍らし、かしずかれ、まるで逆ハーレムのような状況を、当たり前のように涼しい顔にて受け入れているグリューネ。
にこやかな笑みを浮かべて、周囲に軽く愛想を振り撒いていた彼女が、男どもで構成された人垣の上からひょっこり顔をだしているこっちに気がつき、「ぎょっ」と一瞬だけ顔をしかめる。
瞬間的に、それこそ一秒にも満たないわずかな時間だけ、彼女の中で殺気と怒気が膨れ上がった。が、すぐに霧散する。
どうやら、ここでことを起こす気はないらしい。
だからこちらもへらへら笑顔にて「やあやあ」と近寄ってやった。もちろん彼女がこの地へときた目的を探るためである。またぞろ男をたぶらかして悪さでもする気なのか。聖騎士どもの外部拠点特定のために泳がしているけれども、さすがにこれ以上は見過ごせない。殺るときは殺る女。それがわたしことアマノリンネ。
「やぁ、ひさしぶりゲロ子」
挨拶がわりに、わたしは軽く挑発をかます。
初手にて相手の黒歴史をえぐる。我ながら愉快に悪辣。
「黙れ、乳貧民。今度言ったら殺す」
すかさずドスの効いた声で挑発し返すグリューネ。
軽いジャブをかましたら、強烈なボディブロウで反撃された。
「お前こそ次に胸のことを言ったら、殺す」とわたし。
「いいや、わたしがお前をくびり殺す」とグリューネ。
会話開始一分にて、早くも両者の関係が破綻、険悪な空気に。
しょせん我々は敵同士。ある者とない者の間には、とてつもなく広く深い溝が横たわっているのだ。いかに表面を取り繕ったところで、ひと皮むけばこんなもの。相容れぬ星の下に産まれた者が交わるのは戦場だけよ。
互いをにらみつけ、ぶつぶつ「殺す」「ころす」「コロス」「泣かす」と言い合うわたしとグリューネ。
なにやら異様な空気を察して、周囲をかこんでいた男たちの人垣がささっと下がり、輪が拡がる。
それによって生まれた隙間から、ひょっこり遅れて顔を出したのはルーシーさん。
お人形さんはここにグリューネがいることに気づいて、すぐさまリリアちゃんたちを亜空間内に緊急避難させていたのだ。
だって彼女と一緒にいるところを見られたら、さすがにわたしがリスターナの関係者だとバレてしまうからね。
リスターナが聖騎士どもの攻撃に晒されるのは、こちらとしても面白くない。せっかくキレイに整え育てた土地を荒らされるのはイヤだもの。
わたしは自分が一方的に押しかけるのは好きだけれども、向こうから押しかけられるのは嫌いなのだ。ちゃんと事前にアポイントメントをとって欲しい。
ワガママだと笑わば笑え。イヤなものはイヤなのである。
で、冷静なお人形さんが間に入ることで、とりあえず一触即発の事態は回避された。
そして改めてこの地に立ち寄った目的をたずねれば、「何をしにきたのかですって? そんなのバカンスに決まってるじゃないの。ここのところ働き詰めだったし、いい加減に心身ともに疲れがたまってるのよ。ストレスはお肌の大敵なんだから」とグリューネは臆面もなく答えた。
これまでの騒動についても一応たずねてみたけれども「自分は今朝方アルチャージルに着いたばかりにて知らない」とのことであった。
ちっ、てっきり、コイツが裏で手を引いていたのかと勘ぐっていたのに、どうやら空振りだったみたいだ。あと彼女の言葉にウソはなさそうだとは、わたしだけでなくルーシーやアルバも同意見。
なにせアルチャージルはベスパ商連合が運営する一大リゾート地にて、非公式ながらも中立地帯との認識が抱かれている場所。
こんなところで、しかも公衆の面前で騒動を起こそうものならば、ウワサはあっという間に各地に伝播する。
いかに聖騎士が女神イースクロアの神託とやらに従って、盲目的に動くだけの連中だとしても、表向き教会に所属している以上は、彼らの悪名はそのまま聖クロア教会の評判に直結する。
少なくとも現時点において、このリスクを犯すつもりはないらしい。
それは当方とて同じ。
よってここアルチャージルにて滞在中は、「互いに不戦不干渉で」という協定が締結されることとなった。
なお握手はなしである。
それにしてもビスコ家騒動、海獣大戦争プラスに続いて、九番目の聖騎士との遭遇か……。
やはりこれはどう考えてもおかしかろう。
いったい何が起こっていやがる?
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