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165 ぶらり女王滞在記

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 いろいろと気の滅入ることがおおかったダロブリンへの出張。
 とくに何もしていないけれども、なんだかひどく疲れちゃった。主に心が。
 この疲れを癒すには、リリアちゃんの笑顔に接するしかないとリスターナに帰国したら、何故だかそこにメスライオンがいた。
 優秀な魔法騎士を多数抱えるラグマタイト国。そこの現女王ジャニス・ル・ラグマタイト。炎の魔女王の異名を持つ歩くジェットエンジン。初恋こじらせモンスターにして、愛に飢えたメスライオン。
 しかも供も連れずに一人きりとか、無茶をする。
 えっ! いつものことだからへっちゃらなんだ。へー。
 それでどうしてここに?

「嫁に来た」ジャニス女王もじもじ照れる。
「マジで!」わたしビックリ仰天。
「違うから! ちょっとベリドートへの道すがら立ち寄っただけだから」シルト王、あわてて輿入れを否定。
 これにジャニス女王は「ちっ」と軽く舌打ち。
 どうやらメスライオンは「あわよくばなし崩し的に」なんてことを目論んでいたようだ。ほんのわずかな綻びや穴を見つけたとたん、そこに全力で我が身をねじ込もうとする。さすがに、そこは無理だろうという箇所にも果敢に挑む。
 すべては愛ゆえに。いつでもどこでもまっすぐに愛を叫ぶその姿勢には、呆れを通り越して、もはや感動すらも覚えるよ。

 シルト王とジャニス女王が揃っているので帰還の挨拶がてら、わたしはついでにダロブリンの王都が消滅したことをご報告。
 すると二人は「あー、やっぱりそうなっちゃったかぁ」「むしろ今までよくもったものだ」としみじみ。
 あの国のヤバさはワールドクラスにて有名だったらしく、正直なところいつ逝っちゃってもおかしくないとの認識。
 第七十九次聖魔聖戦の停戦によって、支援金が打ち切られたら早晩のうちに暴発するか詰むだろうなというのが、大方の見解であったらしい。
 それでもまさか木っ端みじんに吹き飛んでしまうとまでは、誰も予想していなかったけれども。

「今後はどうなると思う?」

 わたしがたずねたらシルト王は「ふつうならば近隣の国に吸収合併されるんだろうけど……」と、そこで言い淀む。
 荒廃しきった土地。疲弊しきっている人民。治安最悪にて元気ハツラツなのは賊ばかり。そんなやっかいな場所に手を出すのは、火中の栗を拾うようなもの。
 世の中、すべてが損得勘定で動いているわけじゃないとはいえ、何ごとにも限度がある。そしてとっくに限度を突き抜けている彼の国の未来は真っ暗。ゆえにシルト王のこの反応。
 でもジャニス女王はバッサリあっさり。

「当面放置。ケモノやモンスターと環境が不用なモノをおおかたを間引いてから、再開発に着手だな」

 支配階級はとってもシビア。気の毒がりこそはするものの、同情だけで動くほど安くもない。つねに自国の利益と天秤にかけて物事を判断する。
 一見すると冷たいように見えるかもしれないけれども、だからこそ彼らは人の上に立つ資格があるのだろう。



 ジャニス女王さま、当初の予定では一日だけリスターナに滞在して、魔力と体力の回復をはかってから、すぐにベリドートへ向かうハズだった。
 でもわたしが賭けに負けて、宇宙戦艦「たまさぶろう」にて送迎することになったので、滞在が三日に伸びる。移動時間が大幅に短縮されるので、その分、余暇が生まれたから。
 なお賭けはオセロの三本勝負。
 あぁ、オセロとかトランプとか将棋とかチェスとか、その辺の目ぼしい娯楽遊戯は歴代の異世界渡りの勇者たちの手によって、とっくにノットガルドで普及していたよ。もちろん現地流にある程度はアレンジが加えられているけれども、おおまかなルールはそのまま。その中にあってオセロだけは、そのシンプルなルールと造りのおかげで原型を留めていた。
 で、ジャニス女王、めちゃくちゃオセロが強いでやんの。
 ビックリしたよ。盤面がぜんぶ真っ黒になるのなんて初めて見た。
 ちなみにわたしが白ね。しかも「待った」を十回も行使して、この結果。あまりの負けっぷりにて、ぐぅの音も出やしない。
 ルーシーですらもの盤面をにらみムムム。「ワタシでも三回に一回は負けるかも」とかつぶやくんだから相当な腕前。
 そしてそんな腕前を誇る上で、実力を隠しつつオセロで勝負を持ち掛けてきたことからして、メスライオンは最初っから今回の出張にわたしを巻き込む気だったようである。
 やれやれ、まんまとしてやられてしまったよ。

 リスターナ滞在中のジャニス女王。
 気軽に城下の散策に出かけたり、父親攻略のためにリリアちゃんを始めとする周囲に根回しをしたり、シルト王の寝室に忍び込んだりと、忙しくもおおいに羽を伸ばす。
 その合間をぬって、わたしにも「魔法のケイコをつけてやろう」と言い出した。
 彼女は炎魔法のエキスパートにて、国元では勇者八名をビシバシ指導している。
 この申し出を受けて、わたしは素直によろこんだ。
 っていうか、ノットガルドに来てからけっこう時間が経っているのに、今さら魔法修行? ふつうは剣と魔法のファンタジーに来たら、真っ先に試すでしょうに。我がことながら呆れる。
 リリアちゃんとマロンちゃんはものすごーく羨ましがった。
 炎の魔女王、その逸話は数知れず。男前な女の痛快無比な活躍は世の多くの乙女たちの憧れであるとか。

「なんならいっしょに指導してもらう?」と誘ったら、二人はめちゃくちゃよろこんだよ。ツンデレのマロンちゃんですらもが、素直に「きゃあきゃあ」
 これにはリンネお姉ちゃん、ちょっとジェラシー。
 しかし一方でルーシーはものすごい渋面を見せた。あげくに深いタメ息にて「話はわかりました。でも修行は亜空間内でお願いします」とだけ言う。
 その態度の意味は、実際に修行をはじめたらすぐにわかった。


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