162 / 298
162 空飛ぶ糸玉
しおりを挟む騒ぎが収まるのを待ってから、ひょっこりと塹壕内から顔をだしたわたしたち。
ダロブリンの王都があった場所には、それはそれは見事なキノコ雲がもこもこ生えていた。
「よもや自分の目で、これを直に拝む日がこようとは」
あまりの光景にて、さすがのわたしもしんみりとなっちゃう。
「いわゆる水蒸気爆発というやつですね。威力は、まぁ、こんなものでしょう」とはルーシー。
お人形さんはあまり興味なさげ。反応がやたらと淡白なのは、彼女の基準が富士丸やたまさぶろうをベースにしているから。
そりゃあ、アレらと比べたら、たいていのモノがイマイチとなるよね。
でもわたしは常識人の小市民なので、十分過ぎるほどにビビッているよ。
「ダロブリン、すっかり無くなっちゃったねえ。せっかくここまで来たのに。わたし、なんもしてねえ」ダロブリンでの旅の想い出、賊狩りオンリー。
「とんだ無駄骨に……。いえ、ごく一部とはいえ賊に攫われていた子どもたちを救えたのですから、今回はソレで良しとしておきましょう。あとは野となれ山となれ、です」
がっくりと肩を落とす主人を気遣う青い目をしたお人形さん。
するとそんな主従の頭上を、大きく飛び越える物体があった。
ナゾの飛来物は離れたところに着地。ポーンポンとゴム鞠のごとく跳ねて、転がり遠ざかっていく。
「えっ! なになに今の? でっかいボール、というよりかは毛糸玉っぽく見えたような」
「どうやら王都があった方角から飛んできたようですね」
爆発によって何かが飛ばされてきたらしい。
野次馬根性にて行ってみたら、そこには大きな玉の姿があった。
運動会の玉転がしに使われるぐらいの大きさ。でも見た目は糸玉というかゴム紐をごちゃごちゃに巻き込んだような姿をしている。
「皮をむいたムキ出しのゴルフボールが、たしかこんなだったよ」
「おや? リンネさまにそのような高尚な趣味があったとは初耳です」
「あぁ、ちがうちがう」あわてて手をふるわたし。「小さい頃にお父さんのヤツをイタズラしたんだよ。ふと中身が妙に気になっちゃって。それでハサミでざくざくと。もっとも高価なボールだったらしくって、あとでめちゃくちゃ怒られたけどね」
鮮明に脳裏に蘇るのは幼い日の想い出。あれは拙い知的好奇心の発露。
あのとき、もしもお父さんがしみったれたことを言わずに「えらいぞ、リンネ。その調子でずんずん好奇心を育てるのだ」と頭をやさしく撫でて「そうだ! えらいリンネちゃんには、ごほうびにお小遣いをあげよう」とか言って札をヒラヒラしていれば、きっと未来はちがっていたはず。末は博士か大臣か……。
あと玉の良し悪し以前に、まずは真っ直ぐに飛ばすことが先決だと、わたしは思います。お父さん。
「いえ、カエルの子はおたまじゃくし。トンビがタカを産むとかありえませんから」
身も蓋もないお人形さんのご意見にて、話にオチがついたところで、巨大糸玉がほろほろと崩れていき、中から姿をあらわしたのは何やら見覚えのある女の人。
「ったく、あのバカガキどもが。後先考えずになんてことしやがる。あやうくこっちまで消し飛んでしまうところだったじゃないの」
よろよろしながら悪態をついていたのは、ブルネット髪の美女。
かつてラグマタイトで殺り合った、第九の聖騎士グリューネであった。
「やぁ」「よっ」すちゃっと手をあげてわたしとルーシーが挨拶したら、「あーっ! あんたはあの時の小娘。なにが『ギャバナの光の勇者アキラ』だ。デタラメ言いやがって。おかげでとんだ恥をかいちまったじゃないかっ」
いきなり激昂するグリューネ。
ここで会ったが百年目とばかりに威勢よく臨戦態勢をとろうとするも、その身がよろけて突っ伏し、そしてオロロロと吐く。
美女のお小水を聖水とか称して珍重する文化が、大人のただれたアンダーグラウンドにはあるらしいのだが、コレはどうだろう? コレはコレで需要があるのか?
少なくともわたしの目にはゲロはゲロにしかみえない。
ルーシーにもたずねてみたが「そりゃあ、そうでしょうとも」とあっさり肯定。それから「たぶん酔ったんでしょうね。あの糸玉、かなり激しく飛び跳ねて揺れていましたから」とも言った。
「うぅ、気持わるい。うぷっ」
すっかり玉酔いのグリューネ。当人のやる気とは裏腹にカラダがいうことを聞いてくれない。
醜態をさらす美女からツツツと距離をとるわたしたち。
だって風下にいると、なにやら酸っぱいニオイが漂ってくるんだもの。もらいゲロとかは、きっぱりノーサンキュー。
そんなわたしたちの態度に「ぢぐしょう」とグリューネ。涙目にてとっても悔しそう。
「で、何があって、いったいどうしたら、あんなことになっちゃうのよ?」
あまりにも残念な美女の姿にすっかり毒気が抜かれたわたしたち。
武士の情けならぬノラ勇者の情けにて、亜空間より取り寄せた冷たい水の入ったコップを差し出し、事情を問う。
はじめは躊躇していたグリューネもコップをしぶしぶ受け取る。どうやら警戒と気持ち悪さを天秤にかけた結果、後者が勝ったらしい。
ガラガラぺっぺっとうがいをしてから、冷水をグビグビあおる。ぷはぁとひと息、「じつは……」と見目麗しき女がことの経緯をぽつぽつ語り出す。
1
お気に入りに追加
636
あなたにおすすめの小説
このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~
夢幻の翼
ファンタジー
典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。
男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。
それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。
一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。
持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。
青のスーラ
月芝
ファンタジー
気がついたらそこにいた。
月が紅く、ドラゴンが空を飛び、モンスターが闊歩する、剣と魔法のファンタジー世界。
挙句に体がえらいことに! わけも分からないまま、懸命に生き抜こうとするおっさん。
森での過酷なサバイバル生活から始まり、金髪幼女の愛玩動物に成り下がり、
頑張っても頑張っても越えられない壁にへこたれながら、しぶとく立ち上がる。
挙句の果てには、なんだかんだで世界の謎にまで迫ることになっちゃうかも。
前世の記憶や経験がほとんど役に立たない状況下で、とりあえず頑張ります。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。
月芝
ファンタジー
光る魔法陣、異世界召喚、勇者よ来たれ。だが断る! わりと不幸な少女が、己が境遇をものともせずに、面倒事から逃げて、逃げて、たまに巻き込まれては、ちょっぴり頑張って、やっぱり逃げる。「ヤバイときには、とりあえず逃げろ」との亡き母の教えを胸に、長いものに巻かれ、権力者には適度にへつらい、逃げ専としてヌクヌクと生きていくファンタジー。
星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!
月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。
その数、三十九人。
そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、
ファンタジー、きたーっ!
と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと?
でも安心して下さい。
代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。
他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。
そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。
はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。
授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。
試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ!
本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。
ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。
特別な知識も技能もありゃしない。
おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、
文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。
そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。
異世界Q&A
えっ、魔法の無詠唱?
そんなの当たり前じゃん。
っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念!
えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命?
いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。
異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。
えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート?
あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。
なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。
えっ、ならばチートスキルで無双する?
それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。
神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。
ゲームやアニメとは違うから。
というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。
それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。
一発退場なので、そこんところよろしく。
「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。
こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。
ないない尽くしの異世界転移。
環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。
星クズの勇者の明日はどっちだ。
転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった
お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。
全力でお母さんと幸せを手に入れます
ーーー
カムイイムカです
今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします
少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^
最後まで行かないシリーズですのでご了承ください
23話でおしまいになります
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる