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154 作戦コード「かると」

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 公私に渡ってなにかとお世話になりっぱなしなのが、ハイボ・ロードの面々。
 対女神戦線の協力関係とか言いながら、彼らの献身をいいことに、かなりのんべんだらりと寄りかかりまくっていることを自覚しているわたしは、ある日、思い立った。

「そうだ! 日頃のご愛顧に感謝を込めて、お土産を持って挨拶にいこう」

 円滑な関係、大切な縁は日々の努力によって維持されるもの。
 で、まず足を運んだのがこの世界最大のゼノタイム大陸。その南端にある広大な樹海の奥に住んでいる、森の賢人ことセミ人間なグランディア・ロードたちのところ。
 こちらにはずいぶんとご無沙汰していたのだが、行ってみてびっくり仰天っ!
 乱立する巨木の上に作られたツリーハウスのような彼らの素朴な集落。
 だったはずなのに、それが近代的なビルやら建物が並んで、まるでどこぞのマンモス大学みたいな様相へと変貌を遂げていたのである。
 その中心には、どこぞの都庁よりも頭一つ分ぐらい飛びぬけている、超巨大な像が祀られてあったのだが……。

「ねえ、もしかしたら、わたしの気のせいかもしれないけど、これってルーシーにそっくりじゃない?」
「そうですね。ちなみに隣にて並んで立っているのはリンネさまにそっくりですよ。このサイズで実物にこれだけ寄せられるとは、たいしたもの。さすがはグランディアたちですね」

 像の前には立派な神殿まで築かれており、中では多数のグランディアたちが参拝中。
 そんなところにふらりとあらわれた、わたしとルーシー。
 そりゃあもう、ドン引きするぐらいに熱烈歓迎をされたよ。

《救世主さま、リンネさま、ルーシーさま、あぁ、ありがたやありがたや》

 飛び交う念話で、ずっとこんな調子で四方八方から伏し拝まれる。
 当初からやたらと協力的であったグランディアたち。でもこの反応は明らかにおかしい。いったいどうなってやがる?
 あと神殿の祭壇にて声高に「リンネさまこそがノットガルドを導く者なりー」とか「リンネさまこそが我らの光なりー」とか「ビバ! リンネさま」「よっ、究極電池、最高」などと叫び、ヨイショして、大衆を扇動している司祭服姿のルーシーの分体。
 あれってはじめてこの地を訪問した際に、友好の印としてグランディアたちに贈った子だよね?

「じつはこれもまた対女神戦線構築の一環なのです」とルーシー。

 青い目をしたお人形さんいわく、「なぜそこに宇宙があるのか? それは宇宙と認識する存在がいるから。神もまたしかり。信仰があり信じる者がいるからこそ神足りえる。これがあるからこそ女神は女神でいられる。ならばその信仰をガリガリこそげ落として、奪ってしまえば女神のチカラもずんずん低下。……するかもしれない。するのかな? してくれたらうれしいな」

 うーん。なんとなくわかるような、わからないような、この理屈。
 そしてなんら根拠のない希望的観測にて、見切り発車した信仰奪取作戦。
 万事につけてぬかりのないお人形さんにしては、どうにもあやふやな物言い。
 わたしが胡乱げな視線をじーっと向けると、ルーシーはついと顔をそらした。

「で、その心は?」

 タメ息まじりにわたしが追及すると、お人形さんはこう言った。

「てっとり早く組織の結束を固めるには、カルト化がラクなんです」

 特定の対象に熱狂し、崇拝したり礼拝したり貢いだり全身全霊を捧げちゃったり。
 あまりに対象にのめり込むあまり、周囲がまったく見えなくなって、いろいろとやらかしちゃうから、世間一般的には極めて悪いイメージの集団。だけれどもその結びつきは呆れるぐらいに非常に強固で粘着ねちゃねちゃ。
 そんな強固な組織造りを目指すために発足されたのが、作戦コード「かると」
 いつの間にかえらいことになっていたよ!
 どうりでこの頃、みんながやたらと愛想がいいはずだよ!
 どうすんのコレ? どうなるのコレ?
 狼狽するばかりのわたしにルーシー「だいじょうぶ。何ごともなるようになる」
「逆に考えれば、もうどうしようもないってことだよねぇ!」
「そうともいう」
「うぅ……、このままだと生き神さまコース確定だよ」

 自分の知らぬ間に教祖に祀り上げられていたわたしは、しゃがみ込んで頭を抱える。
 そんな主人の背中をお人形さんは、慰めるようにポンポンと優しく叩いた。

 とりあえずグランディアの長老に挨拶をすませて次へ。
 変身ヒーローっぽいアリ人間なオービタル・ロードたちが住む荒野には「あれ? ここが魔王城なんじゃないの」というような厳つい城がポツンとだが、ででんと建っていた。
 その強靭な肉体と「日々これ修行」みたいな脳筋思想ゆえに、「住環境なんざ興味ねえ」とばかりに、洞穴やら土で作ったドームの中で半野性生活をしていたというのに。
 内部の大聖堂には、わたしと富士丸くんの立派な銅像。
 富士丸くんに関してはいろんなポージングの像が多数展示されており、多くの参拝客がわらわらいっぱい群がって大人気。
 祭壇ではまたしても司祭服を着たルーシーの分体が声高に叫んでいる。
 拳を天へと突きあげ「おまえら! 強くなりたいかー。ならばリンネさまを敬えー!」とか「チカラと書いてリンネと読む。リンネ最強!」とか「見よ! 抉れた夜空の青い月エレジーを。アレもリンネさまのご威光である」「てめえらが憧れる富士丸をも黙らせる存在、それがリンネさま」などと叫んでいる。
 そんな場所にのこのことあらわれたので、わたしたちはここでも熱烈歓迎を受ける。
 もはや何も言うまい。
 赤と黒の女王たちに挨拶をすませてとっとと次へ。
 艶めかしいスズメバチっぽい乙女なセレニティ・ロードたちが住んでいるのは、とある垂直に切り立った断崖絶壁。彼女たちはそこをくりぬいて住居とし、高層住宅にて集団生活を営んでいる女系種族。
 場所が場所だし、さすがに巨大な銅像はないだろうと油断していたら、岩壁に超巨大な芸術的レリーフが刻まれていたよ。わたしとたまさぶろうの……。
 ここではただいまベビーラッシュの真っ最中にて、かわいい幼女たちが元気いっぱいにて子育てにてんてこまい。
 なんとも微笑ましい光景に、わたしの荒んだ心が癒される。
 とか気を緩めていたら、視界に飛び込んできたのは、穢れを知らぬ天使たちを相手に絵本の読み聞かせをしている、司祭服を着たルーシーの分体の姿。
 絵本の内容はノットガルドにきてからわたしが仕出かした、アレやコレをかなり脚色したモノ。

「ほぅら、みんなぁ。リンネさまってばとってもスゴイでしょう? えらいでしょう? たまさぶろうくんも、ものすごーくカッコいいよねえ?」

 まさかの幼児洗脳教育!
 これまでで一番、悪辣だよっ!

「いやいやいや、さすがに、コレはダメでしょう」

 わたしはルーシーに猛抗議。
 だが青い目をしたお人形さんは言いました。

「教育方針に関しては親御さんたちが納得しているのですから問題ありません。むしろ彼女たちも喜んでいます。ほら、子どもたちもあんなにはしゃいで楽しそう。みんなしあわせ、ウィンウィン」

 二つのピースサインをくっつけてWの文字を手で作り、そうのたまったルーシー。
 うぅ、そのみんなの中にわたしの意志がみじんも含まれていないのは、なにゆえ?

 セレニティの女王さまに挨拶をすませて、お土産にハチミツ味のアメ玉をもらった。
 あいかわらず美味しい。
 最後に訪れたのは、バンブー・ロードのところ。
 竹姫ちゃんを派遣してくれた竹浪人がいる竹林だけは、まえと変わらず静かであった。
 今回、唯一、心穏やかに挨拶が出来たのがここだけであった。
 静謐が心に染みて、ちょっとホロリとしてしまった。


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