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131 星空ランデブー

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 宇宙戦艦「たまさぶろう」がノットガルドの空をゆるゆると飛ぶ。
 そこから一気に急上昇、大気圏を突破して星の海へ。
 ここまでは軽いウォーミングアップ。

「よし、ではしばらくは好きにしていいよ。たまさぶろう」

 わたしが許可を与えると、たまさぶろうが尻尾をビチビチふった。
 嬉々として惑星の周囲を思うさまに泳ぎ出す。
 これもまたわたしことアマノリンネ流の家族サービスの一環である。
 なにせこの子は全長百メートルほどもある巨大サメのぬいぐるみがベースとなっているもので、うっかり地上で本気を出したら世界がヤバい。
 ものすごい風速の嵐を巻き起こし、あらかたの文明圏が崩壊する。あと気候変動とかも引き起こしかねない。
 だからふだんの移動ではかなりチカラを抑えた飛び方のギューン。
 でもたまにはおもいっきりカラダを動かさないとなまっちゃう。
 で、宇宙に飛び出して広い場所にてギュギューンと遊ばせるわけさ。
 先日の富士丸くんとのピクニックと同じようなもの。
 そうそう、あの「Gの戦慄」だらけの石のヒョウタンから脱出したら、ひさしぶりに頭の中にキンコンとレベルアップの音がしたよ。
 しばらく鳴っていたから、けっこう危ない連中だったのかもしれない。
 ただし正体やどうしてヒョウタンの中に封じられていたのかは、いまもって不明。
 ルーシーにも調べてもらったんだけど、物証は根こそぎ消し飛んでしまったし、少なくともアカシックレコードには一切記録されていない存在だという。「ひょっとしたら、はじめて宇宙へと飛び出した時に遭遇した、あの異星からの侵略エックスっぽいのと同類なのかも」とのこと。
「そんな相手をやっつけてしまうだなんて、すごいですリンネさま。さすがです」なんて鬼メイドのアルバは羨望の眼差しを向けてくれるけれども。もしもアレが世に解き放たれて大挙して向かってきたら、おそらく各国に散っている大半の異世界渡りの勇者は、一致団結して全力にて立ち向かっていたと思うよ。
 ひょっとしたらわたしは世界平和へと通じる唯一の道を潰してしまったのかもしれない。
 なんて考えるのは、さすがに深読みが過ぎるか。

 アルバにお気に入りの竹の葉のお茶を淹れてもらい、メンマをポリポリつまみながら艦長席にてぼんやりしているうちに、早やノットガルドの惑星まわりを六周したたまささぶろう。
 とりあえず満足したようなので、今度は進路を七つの月の一つへと向けてもらう。
 ちょっと確認したいことがあったのだ。
 ほら、例の石のヒョウタンから脱出する際に、わたしってば魔導砲をぶっ放しちゃったでしょう? 惑星外にまで盛大に飛んでいった破滅の光。
 アレがどうやら月をかすめちゃったみたいで、何げに見上げた夜空のお月さまの形が明らかにかわっていたんだよねえ。
 自分では充填するエネルギー量をかなり抑えたつもりだったのだが、ルーシーからはどえらいカミナリを落とされた。

「あんなモノを地表で放つとか正気ですかっ!」

 なにせ次元の壁をもあっさりぶち抜くような代物。
 ちょいと角度がおかしな方を向いていたら、最悪、ノットガルドが真っ二つとかだったらしい。
 青い目をしたお人形さんがモーレツにぷりぷり怒り、正座にて三時間ほどもコンコンとマジ説教を喰らい、「いい加減にご自分がヘンテコオカシイことを自覚して下さい」とまで言われて、わたし涙目。
 お人形さんの言い草がヒドすぎる、くすん。

 まぁ、そんなことがあったので、いちおうは確認しておこうかなと思い立った次第。
 やったことはやったこととして、被害状況をつぶさに見て、おおいに反省と自戒する所存。我ながらなんて殊勝な心がけであろうか。
 魔導砲がかすったのは、一面が青白いぶ厚い氷で覆われた「エレジー」と呼ばれる月。
 遠目にはわりとキレイに見えていたのだが、近くに来るとその寒々しさよ。眺めているだけでこちらまで凍えてきそうで気が滅入ってくる。
 そんな陰気な月のはしっこ、全体からすると四分の一ほどが、モノの見事に抉れていた。
 まるで箱入りの特大アイスクリームを専用のスプーンでガッツリすくったかのような断面。エレジーの表層部を覆う氷の層を超えて、中にある本来の地表部分がむき出しになっている。

「おぅ、これは……。直撃してたら月が軽く吹っ飛んでいたかも」

 わたしは今更ながらに己が所業にビビる。

「なんというすさまじい破壊の痕跡。ルーシー先輩が怒るのもわかる気がします」

 三メートルの鬼メイドがぶるると肩をふるわす。

「とりあえず魔導砲は勝手に使わないことっ! いいですね!」「くれぐれも自重して下さい!」

 クドいくらいに念を押すルーシー。
 もちろん、わたしはコクコクとうなづく。
 すると「おや?」と声をあげたのはアルバ。「あれって何でしょうか」
 鬼メイドが指し示す地点に目をやれば。そこには抉られてむき出しになった地表から飛び出している、人体の一部のようなモノの姿があった。


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