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129 玉拾い
しおりを挟む頼んであったメンマが完成したという連絡を受けたので竹姫ちゃんのところに顔を出したら、竹林の中に和風の屋敷が出来ていた。
「自分で建てたの?」とたずねたら、コクリとうなづく竹姫。
どこぞの老舗料亭みたいな造りにて、玄関の上がりかまちから板張りの長い廊下を進んだ先に母屋がある。
途中が渡り廊下となっており、両脇が庭園となる予定らしいのだが、あいにくとまだ手つかず。
奥の座敷にてふるまわれた竹の葉茶を飲み、メンマをコリコリかじる。
どちらも美味い。ちょっとクセがあるけどほのかな甘味のあるお茶。メンマもやみつきになる歯ごたえがたまらん。
屋敷の周囲は竹林にて、聞こえてくるのは風にてカサリと枝葉をふるわせる音ぐらい。
差し込む陽光はやわらかく、これを受けていっそう鮮やかさをます青竹たち。
うーん、平和だなぁ。
ここにいると世俗の喧騒がウソのようだ。ほどよい静謐が心に染みる。
ひょっとしたら竹には心を和ませる幸せ成分でも含まれているのかもしれない。
大人の隠れ家的雰囲気が気に入って、古民家カフェ代わりにちょいちょい通っていたら、いつの間にか住人が増えていた。
衛士みたいなゴツイ門松が、薙刀を手に表門にて仁王立ち。
作務衣っぽいかっこうをした竹男が竹ぼうき片手に敷地内の掃き掃除。
裾の長い衣を羽織った女官風の竹女が、静々と屋敷内にて奉公。
どうやら竹姫ちゃんの使用人らしい。
「これも自分で作ったの?」とたずねたら、コクリとうなづく竹姫。
バンブー・ロードの匠っぷりに、わたしはおどろかされてばかりである。
このように着々と身の廻りを整えていく竹姫ちゃんではあったが、あいかわらず中庭はそのまんま。
理由をたずねたところ、なんでもルーシーに見せてもらった禅寺の枯山水の資料にたいそう感銘を受けたとかで、それを再現したいらしいのだが、なかなかお眼鏡にかなう玉砂利が見つからないという。
ふむ、たしかに竹林の風情と枯山水はたいそうよく似合う。
そこでわたしがひと肌ぬぐことにした。
で、やってきました、どこぞの海辺。
ルーシー調べでは、この辺りで上質な玉砂利が採取できるらしい。
いつもは宇宙戦艦「たまさぶろう」でギューンとだけど、今回は富士丸くんの手のひらに乗り彼の背中のロケットにてギューンと飛んできた。
乗り心地はけっこう悪い。なにせ風がびゅうびゅうモロ当たりだし、背もたれはカチカチだし、お尻も冷える。
だがあえて富士丸で飛ぶ。
これはいわば家庭サービスの一環である。
四六時中いっしょにいるルーシーや、移動の際にお世話になるたまさぶろうと違い、局地的決戦兵器級の彼は、どうしても出番が少なめ。
たまに呼ばれても腕だけとかだし。
いずれは存分に修行の成果を披露してもらうつもりだが、いまはまだ女神に目をつけられたくないので秘密。
そのことは富士丸くんもよくわかっている。
だからとて、いくらしっかり者の子どもでも、それに甘えて放置していたら、いい加減にムクれてグレる。星砕きの拳を持つ息子の反抗期とか、お母さんちょっと想像したくない。
だからわたしは定期的にいっしょにいる時間を設けるように心がけているのだ。
浜辺にほど近い岩山を富士丸がパンチ。
軽い地響きの後に土砂崩れ。なかからパールホワイトな岩肌がお目見えする。
小さな欠片をひとつ手にとり、しげしげ眺める。
「へーえ、キレイな白だねえ。これを加工して玉砂利にするんだ」
「はい。天然モノを集めるのはたいへんですからね。いい機会ですし少し多めに回収しておきましょう」
わたしが拾った小石を太陽にかざしていたら、ルーシーがそう言った。
富士丸がまるで子供が砂山をほじくるようにして、カリカリ掘っては、せっせと亜空間にとり込んでいく。
するとちょいとチカラ加減をまちがえたのか、ゴリガリと強めな音がして、ちょっとした崩落が発生。
衝撃にて盛大に粉塵が舞い、モコモコした土埃が津波となって押し寄せ、あっという間に視界が塞がれる。
これにがっつり巻き込まれたわたしとルーシー。
ようやく解放されたときには、主従揃って頭の上からつま先まで小汚い化粧が施されていた。
「ケホケホ……。うー、口の中に砂がはいった。ペッペッ」
「油断してました。おかげでドレスが砂だらけです」
ペコペコわびる富士丸くんには「気にすんな」と手をふっておき、全身についた砂を払っていると、ふと目についたのは、崩れた岩壁のあと。
なにやら珍妙なモノがひょっこり姿をあらわしている。
「なにあれ? でっかいヒョウタンかな」とわたし。
「たしかにそう見えなくもありませんけど。はて……」と首をかしげるルーシー。
ボン、キュッ、ボボン。
バインとお尻の大きな女性の後ろ姿のようなシルエット。
突如として山の中から出土した石の瓢箪。
ルーシーズがわらわらと亜空間経由にて登場し、さっそく調査の準備を始める。
わたしは富士丸くんの手の平に乗せてもらい、近づいて観察する。
見ればみるほどにヒョウタンだ。
が、何よりもわたしが気になったのが口の部分。
しっかりと栓がされてある。あとそれを覆うかのように貼られたお札っぽいモノの姿が。
「……むちゃくちゃ怪しい。これは触らぬ神に祟りなしだね。くわばらくわばら」
ノットガルドに渡ってきてからこっち、数々の迂闊な所業を仕出かしてきたわたしはそれなりに学んだ。後先を考えない行動は、だいたいロクでもない結果しか招かないということを。棚から降ってくるのは甘くて美味しいぼた餅なんぞではなくて、たいていホコリ玉。
だからおとなしく引き下がろうとしたのに。
ふいに気まぐれな風が吹く。そしてどこぞより飛んできたのは一枚の葉っぱ。
顔のそばへと飛んできたので、つい手で払ってしまう。
たかが小娘の愛らしい仕草。ただしその小娘が超高レベル生命体とあれば幾分意味合いが変わってくる。
無意識下での行動ゆえに、ちょっとチカラ加減を間違えた。
その結果、スパッとお札の端っこが切れてしまう。
そしてそこからミチミチと広がっていく切れ目。
あわてて抑えようとするも、時すでに遅し。
お札がバックリといってしまい、そしていきなりポンと栓が勢いよく抜けちゃった!
空高く打ち上げられた栓を見上げて、わたしは「たまやー」
で、次の瞬間には富士丸くんといっしょにヒョウタンの中へと吸い込まれていた。
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