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128 カネコとハイボ・ロード

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 カネコ。
 後ろ姿はデカいネコっぽい種族。
 でも正面に回ると、顔の真ん中にはおおきな目玉がひとつ、口から飛び出している見事な前歯が特徴的。
 知能はふつう。性格は温厚ながらも基本的に生産性に乏しくやる気もない。
「労働? なにそれ、美味しいの?」といった連中。でもわりと計算高く、のらりくらりと世渡り上手な一面もある。
 魔法にて空を駆けるようにして飛ぶ。あと姿を周囲にまぎれさせるカモフラージュも可能。それから夜になると目が光る。
 体内から殺虫成分のあるニオイをふりまいており、そのへんをフラフラしているだけで害虫駆除効果が期待できる。
 かつてはギガン島という絶海の孤島にてのほほんと暮らしていたが、諸事情につき現在はリスターナにてのほほんと暮らしている。

 ハイボ・ロード。
 ノッドガルドに数多いる種族の中でも抜きんでた一部の種族の総称。
 ある程度まで行き着くところまで行き着いてしまった種であるがゆえに、自己完結しており他者との交わりをほとんど必要とせず、基本的に僻地にて引きこもっている場合が多い。
 めったに人前に姿を見せることがないので、伝説の存在として扱われて久しい。世界八不思議にも数えられている。
 かといって別に他種族を見下しているとか、排他的といったわけではない。
 グランディア、オービタル、セレニティなどのようにロードの名を冠する種族に虫型の発展系が多いのは、もともと昆虫類が生物として優れているからである。他には植物系のハイボ・ロードなども存在している。

 カネコとハイボ・ロード。
 片や進化する気も発展する気もさらさらない、やる気のない種族。
 片や一切の無駄を削ぎ落し、徹底的に錬磨を重ねた刃のごとき種族。
 ある意味対局に位置するような存在が、なんの因果か辺境の小国リスターナの地にて会合する。
 ここで懸念されるのがカネコの体質。
 歩く除虫菊のような面々とムシムシした面々。

「ちょっと、いっしょにしちゃってダイジョブなの?」

 わたしも当初は少しばかりそんな心配をしたものである。
 でもそれは取り越し苦労であった。
 そもそもカネコたちはグランディアやオービタル、セレニティたちに極力近寄ろうとはしないから。
 理由は単純にして明快。
 だっておっかないんだもの。
 いかに虫よけスプレーを手にしていても、ふつうは凶悪なスズメバチの巣にズンズン近よろうとは思わない。ましてや短パン一丁とかであったのならば、なおさらであろう。
 のんべんだらりと他者に依存し、人の情けに全力ですがる。「寄生暮らし、最高!」がモットーなカネコたちは、それゆえに自己愛も強い。それすなわち高い危機察知能力へと直結している。だからちょっとでも自分に不利益となる相手からはササッと遠ざかり距離をとる。うかつに近寄ったりはしない。
 もっともカネコがすぐ側に来たところでハイボ・ロードたちは意にも介さないであろうが。
 彼らにしてみれば、カネコの除虫効果なんぞ、せいぜい「ちょっとイラっとくるかも」レベル。肌についた小さなホコリとか、毛クズみたいなもの。フゥと吹き飛ばすか、ポリポリ掻くぐらい。
 ぶっちゃけハイボ・ロード級をどうにかできるような除虫効果ならば、あらかたの生き物は死滅している。
 だからなんの問題もない。
 でもその「ちょっと」をカネコたちは恐れているのだ。
 ほら、目の前にブーンと小さな羽虫が飛んで来たら、ついパシンと手で叩いてしまうことがあるでしょう?
 アレと同じで、無意識下でイラっとされて、ついプチっとされてはたまらない。

 そんな関係のカネコとハイボ・ロードたちだが、三ヶ月に一度だけ面とむかってガッツリと関わることがある。
 それはカネコどもの爪切りと散髪のため。
 デカい図体なので、爪もそこそこ立派。なのに街中とかでガリガリ爪とぎをされてはたまらない。抜け毛だってサッカーボールほどの毛玉となってころころ。じきにホコリ玉へと成長し、これが風であおられてうっかり顔面にバフンとでもしようものならば、「うげぇ」となる。
 風の強い日などに事故が多発。ちょっとした社会問題化しそうになったとき、爪や抜け毛からも除虫成分が抽出されることが判明。以降は税金代わりに納付義務を課している。
 リスターナ国内にいるカネコの総数は三千と二百二十九。
 その全てが対象ともなると徴収作業は丸一日がかり。
 これを担当しているのがハイボ・ロードたち。
 ふだんは「うにゃうにゃ」してウネウネ騒ぐカネコたちも、ハイボ・ロードたちの手にかかると文字通りの借りてきたネコ状態。
 言われるままに手足を差し出し、腹を見せておとなしく毛を剃られる。
 ある意味レアなこの光景。
 なによりこれだけのカネコが一堂に会することも珍しいので、作業のときには会場周辺にカネコ愛好家の見物客もそこそこ集まり、けっこうなお祭り騒ぎとなる。
 そんな客たちを相手に食べ物の屋台やグッズ販売をしているのはルーシーの分体たち。
 ちなみに屋台の一番人気は「カネコ焼き」である。
 まぁ、タイ焼きのカネコ版みたいなもの。中身は特製チョコクリーム。
 薄皮ボディをひと口かじれば、ドバッと溢れる濃厚チョコがクセになると大評判にて、開店と同時にイベント終了時まで客の列が途切れることはない。
 グッズ販売ではカネコの姿を模した手の平サイズのぬいぐるみ型ニオイ袋が好評。
 価格はお手頃。
 しかしその販売方法がえぐい。
 ぬいぐるみにはいろんな種類があって、クジ引きによって当たるという悪辣な売り方なのだ。これによりお目当ての品を当てるまで、ついつい何度もクジに挑戦して散財してしまう者が続出。
 次回からはガチャポンの機械も導入予定なので、さらに集金システムが加速されることであろう。
 なおこのイベントでの収益はすべてわたしことリンネさんのポケットにがっぽり。
 というのはさすがに気が引けるので、半分は教育のための基金に積み立て中。
 けっこうたまってきたし、そろそろドーンとマンガ図書館でも造ろうかと考えている。
 なぜだかわたしの元の世界のアカシックレコードには、その手のデータが網羅されているだよねえ。しかも随時更新中。
 ルーシーさんいわく「並々ならぬ情熱を越えた妄執、いや狂気すらも感じられる」とのこと。
 きっとデータ入力係の担当が相当にヤバい方なのだろう。
 でもそのおかげでわたしは異世界ノットガルドに居ながら、ルーシーに頼めばあっちの週刊誌の最新号も読めてしまうというわけさ。
 宇宙戦艦「たまさぶろう」の内部に設置した図書館の前身となる「ダメになる部屋」は好評を博している。
 ハイボ・ロードたちも興味深げにちょくちょく立ち寄っているし、鬼メイドのアルバなんて暇を見つけては入り浸っているし。
 しかしながらそれゆえに心配もするわけで……。
 夢中になるあまり、一歩間違うと社会秩序を崩壊させる劇薬になりかねない気もする。
 だからとりあえずは、どこか他所で試験運用してからとも考えている。


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