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120 禁忌の魔導書

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 石の台座の上に安置されてある本。
 大きい……、タタミいち畳ほどもあろうか。
 素人目にでもわかる、ただならぬ雰囲気。
 なにせゴテゴテした装飾だらけの黒革の表紙の中央には、血走った目玉がぎょろり。
 本そのものが開けられないように、太い鎖にて幾重にもグルグル巻き。
 そしてこちらと目が合うなり、いきなり頭の中に響いてくる声。

《我を手にとれ、さすれば魔導のすべてが汝の手に》

 なにやら究極の魔法のチカラを授けてくれる本らしいけど。
 とりあえずわたしは撃った。
 理由はなんなくだ。
 いや、だってこんなところに閉じ込められている時点で、まともな本じゃないもの。
 そもそもまともな本はしゃべらない。目ん玉もない。なによりこの風貌からして、うっかりページを開いたら、なんか呪われそうだし。
 だというのに魔導書はとっさに身をよじってかわしたっ!
 むむっ、このわたしの抜き撃ちに反応するとは、なかなかやりおる。
 感心したルーシーもショットガンをジャキンとポンプアクションにて、ズドン。
 室内で散弾をぶっ放すとか、お人形さんが容赦ねえ。
 が、またしても本はよけた。
 台座の向こう側に転がり落ちてどうにか、ではあるが。

《ちょ、ちょっと待て。なぜいきなり攻撃してくるのだ? せっかく英知を授けてやろうというのに》

 尊大だった魔導書の口調と態度がやや軟化した。

「なぜって、だってとっても胡散臭いんだもの」とわたし。左の人差し指マグナムにチュッと口づけをしてムダにポーズを決める。
「疑わしきは殺れ! それが人生という名の荒野を渡る者の掟」とはルーシー。お人形さんはショットガンを肩に担ぎ、やはりムダにかっこうをつけた。
 主従にて女ガンマンを気取る。
 そんなわたしたちの姿に魔導書がおののく。

《なんてこったい! いまどきの娘はそんな過酷な荒野を渡っているのか》

 しばらく閉じ込められているうちに、世の名がそんなヒドイことになっていたのかと、独りぶつぶつと魔導書。
 どうやらルーシーの戯言を真に受けたようだ。魔導の極みみたいな大言をしていたわりには案外阿呆だぞ、コイツ。
 つぶやきからデカ本がかなり長いこと、ここに封印されていたことがわかる。
 では何をやらかしたら、そんな目にあうのであろうか?
 少々、興味がそそられたので、そこんところをたずねてみる。

《よくぞきいてくれた。我は神の英知に触れることが許された存在。だがそれは同時に世界の不都合な真実についても触れることになる。これを危惧した新女神の神託によって、教会の者どもに不当にも封じられてしまったのだ》

「どうだ、すごかろう」ふふんと得意げな魔導書。「もっと敬え、恐れ、ひれ伏せ、媚びよ。先の無礼を詫びて、教えを請うのであれば、我の英知を授けてやってもよい」
 なんだか鬱陶しいことをのたまい出したところで、わたしとルーシーは「じゃあね」と部屋を出て行こうとした。
 だってこれってアカシックレコードにアクセスできるってことだよね?
 それならもう間に合っている。ルーシーの分体は全員が可能にて、しかもこちらとあちらの二つの世界のやつにアクセスできる。だからいまさらデカくて重くて場所をとる劣化版の存在は不用。
 バイバイしようとしたら魔導書が「えらそうにしてごめんなさい。ひさしぶりに人と会ったんでちょっと舞い上がっただけなんです。もう孤独はイヤっ! どうか置いてかないでっ!」と念話で泣いてすがってきた。
 ったく助けて欲しいのなら、最初から素直にそう言えばいいのに。

「しょうがないなぁ。でもこのまま持ってかえっちゃたら、じきに盗んだのがバレるよね」
「そうですね……、とりあえずニセモノでもかわりに置いておきましょうか」

 待つこと十分ほど。
 亜空間経由にて届けられたダミー本。
 制作部渾身の作品は見た目は本物そっくりにつき、魔力を発しつつ、目玉もぎょろと動く。あと「われこそは、まどうしょなりー、うやまえー」とか「のろうぞ、のろっちゃうぞー、ひゃははは」などと、いささか棒読みながらも適当に台詞を発する機能付き。
 この短時間でよくぞここまで仕上げたと感心する出来栄え。
 満足したわたしは、さっそくダミー本を台座に飾る。
 それを見た魔導書が「我はもう少しかっこいいはずなのだが」とか念話で寝言をほざいたけど、聞えないふりをした。
 で、ついでに魔導書を封印している鎖もぶちぶち切って、中身をちょいと拝見。
 ……なんだこれ?
 下手くそなイラストとか、痛い詩とか散文とかが書きなぐりされてあるだけの、ラクガキ帳じゃないか。
 いや、まぁ、この本の真価は情報端末としてであって、本としての役目は求められていないから、べつにこれでもかまわないのだろうけれども。
 ならばどうしてわざわざ鎖で封印していのかという疑問がわく。

「おそらくはコレが原因でしょう」

 ルーシーが小さな指先でトントン叩きながら指し示したのは、ページの隅っこにあった女神っぽいイラスト。ぶっちゃけかなり下手くそだ。
 だがこの絵はパラパラマンガになっており、ページをめくると女神っぽいのがクネクネ腰をふって艶めかしく踊っているかのように見える。
 これが教会のえらい人の逆鱗に触れたらしい。
 まぁ、信仰の対象を茶化したらダメだよね。
 それにしてもちょいと小突いただけで、ボロボロとボロが出まくるな、デカ魔導書。
 こうなると先ほど言っていた「女神の神託うんぬん」という御大層な話も、どうにも信憑性に欠けてくる。
 改めて「世界の不都合な真実とはなんぞや」と問い詰めたら、魔導書はしぶしぶ「女神の個人情報」と答えた。
 どうやらこの魔導書を最後に手にしたどこぞの阿呆が、興味本位にて女神のスリーサイズや体重なんかについて調べようとして、相手が憤怒したようだ。
 ふむ、魔導書はそのとばっちりを受けたと。
 だがそんな悪行に手を染めては、封印されてもしようがあるまい。むしろビリビリに破られて焼かれなかったのがふしぎなぐらいだ。
 とりあえず二度とそのような非道かつ破廉恥な行いはしないとの誓いを立てさせ、もしも約束を破ったときには便所紙の刑に処すと厳命してから、デカ本をルーシーと二人でおっちら前後に担ぎつつ、大図書館の最深部をあとにした。


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