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117 空賊のうわさ

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 オレの父ちゃんは空賊をやっている。
 獲物を見つけたら、仲間たちといっしょに相棒の飛竜を駆って、空をギューンと飛んでいき、お宝をせしめるのだ。
 ついさっき連絡がきて、父ちゃんはいそいそと出ていった。
 なにせ空賊の仕事は早いもの勝ちだから。のろまはご褒美にありつけないのだ。

 あと誤解している連中が多いけど、空賊は地べたをコソコソと這いまわっている野盗どもとはちがう。そこんところまちがわないように。
 まず空賊は遠慮と自重を知っている。
 だから基本的には持って帰れるぶんだけをいただく。根こそぎとか品のないことはしない。
 なにより欲をかけば重くなりすぎて、動きが鈍くなったり、相棒がツバサを痛めたり、ヘタをすると墜落しちまうから。
 飛竜乗りとして、それはとっても恥ずべきこと。
 あと奪うといったって何でもかんでもじゃない。
 ほら、親の形見とか先祖伝来の品とか、特別に大切にしている物があるだろう? そういうのには手を出さない。なぜならそのような品には、しがらみや執着がまとわりついているから。
 この手の品は後々に災いを引き寄せることが多いのだ。
 ずっと昔にある空賊がさる貴族が大切にしていた宝剣にちょっかいをだしたことがある。なんでもお家の継承権に関わる品であったらしく、その結果、首に多額の懸賞金がかけられて、討伐隊やら賞金稼ぎやら、裏のヤバイ仕事を生業としている連中にこぞって襲われた。
 似たような話は他にもあって、どれもこれも末路は悲惨。
 ゆえにこれを戒めとして、空賊たちは肝に銘じている。
 それから女や子どもに乱暴をふるったり、かどわかすのなんて論外。もしもそんな破廉恥な真似をすれば、ツバサを取り上げられて問答無用で空へと叩きだされる。
 勇ましい空の男は弱い者イジメはしないのだ。

『無法とて無道ならず』

 たとえ法や社会の仕組みの枠外に生きる者とて、完全に人の道を外れてよいというわけではない。
 これが空賊の鉄の掟。
 ツバサの誇りを穢すような行いは断じて許されない。
 そしてこの掟が生きているからこそ、空賊は王さまよりお目こぼしをされている。
 オレたちが住むカーボランダムの現王は、まだ若いながらもたいした男だと空賊の間でも一目も二目も置かれているような人物。
 オレも一度だけ遠目に姿を見たことがあるけれども、紅い飛竜にまたがる姿がまるで物語に登場する英雄みたいで、すっげーかっこよかった。
 とはいえオレたちもたんに御上の情けに甘えているわけじゃない。
 空は広大だ。
 カーボランダムは空に浮かぶ島にある国なので、四方を遮るものは何もない。それは強みでもあるかわりに弱みにもなる。
 すべてを完璧に監視防衛しようとすれば、どれだけ兵や飛竜がいてもちっとも足りやしない。
 そこでオレたち空賊の出番となるわけさ。
 主な航路などは国の連中が見張り、それ以外の目の届かないところをオレたちが担当する。
 また空賊には裏社会との独自の繋がりもあるから、表には出にくい情報なんかもいち早く入手することができる。それを流すことでも密かに国に貢献しているんだ。

 そんな空賊たちの間で、近頃よく話題にのぼっていることが三つある。
 ひとつめはゼロ戦と呼ばれる飛行機械のこと。
 はじめは飛竜乗りたちも小馬鹿にしていた。飛竜船や飛行船とかは一度に多くの荷や人を運べるけれども、動きが遅い。
 だからてっきり似たようなモノだろうと舐めていたところ、実際に間近で接すればその性能におどろくことになる。飛竜のように急制動とかは無理だけれども、その分、旋回などが軽やかにて、直線での速度もかなりなもの。だがなによりもみんなを驚かせたのは、飛竜のようにヘタることがないこと。ずっと同じように飛びつづける。それが空の上でどれほどの脅威になることか。
 飛び上がったり着地をしたりするのに広い場所が必要だったりと、不便な点も多いけれども、訓練次第でほとんどの者が乗れるようになるということにもびっくりした。
 空に憧れていても、いろんな事情にて飛竜乗りになれない者たちにとって、どれほどの希望となることか。
 開発したのは王さまの友人の勇者だという話だけれども、すごい男だとおもう。
 ふたつめはゼロ戦部隊を揃えた王さまが、世界中の空を制覇するために、いよいよ国をあげて乗り出すという情報。
 なんてどでかい話なんだろうか。まだ飛竜に一人では乗せてもらえないオレには想像もつかないや。この話を聞いて、興奮しない奴は空の男じゃない。正直、ちびりそうなほどにビビビときた。
 空賊でも命令に従うのならば参加してもよいとのお達しが回ってきており、男たちが顔をあわせたら「おまえ、どうする?」というのが、近頃の合言葉みたいになっているという話だ。
 そして最後のみっつめだが、これはくだらない与太話さ。
 なにせ空飛ぶ魚を見たっていう話なんだから。
 しかもとてつもなく大きな魚が、流れ星みたいな速度で飛んでいくとか、星の海から降ってきたとか、いくらなんでもおふざけが過ぎるだろう。
 おおかた酔っ払っていたか、空酔いでもして幻覚でもみたのだろう。

 あっ、父ちゃんが帰ってきた。
 おかえりー、首尾はどうだった?
 えぇ、なんだってっ! 
「空飛ぶ魚を見た」とか「世界の空はとっくに奴に制覇されていたんだ」って、何をバカなことを言ってんだよ。
 父ちゃん、いったいどうしちまったんだよ。なぁなぁ。
 うわーん、お母ちゃーん。父ちゃんがおかしくなっちまったよー。


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