上 下
114 / 298

114 バンブー・ロード

しおりを挟む
 
 バンブー・ロードが住むという竹林はとても立派だった。
 どれくらい立派かというと、茶色く枯れたヤツが一本もなくて、適度な間隔が維持されており、枝葉越しの柔らかな陽光が足元にまでちゃんと届いており、落ち葉でフカフカな地面がちっともジメジメしていない。うっとうしいヤブ蚊とかもいないし、風が通り抜けると青竹の清涼さがふんわり漂い、えもいわれぬ幸福感に満たされる。
 ぶっちゃけ二時間ぐらい、ここでぼんやり立ち尽くしていたいぐらいには快適な空間。
 三角座りならば三時間はいける。
 だというのに、そんな静謐なる地の奥では、等身大アライグマと竹人形みたいなのが異種格闘技戦をくり広げていた。

 でっかいベアーなアライグマ。
 これがシャモンティーガーという、えらそうな名前のモンスターにて、造形はリアル志向。けっして着ぐるみ風とかデフォルメされたデザインではない。
 見た目は愛らしいくせに性格が狂暴な森のお友だち。それをそのままおおきくしたような容姿。
 かつて数多の幼子たちの夢と幻想を無残にも打ち砕いた伝説のケモノが、いま目の前にっ!
 これと対峙しているのは竹人形っぽいヤツ。
 こちらがバンブー・ロードみたい。
 ゆらゆら青竹が竹の皮を着物っぽく粋に着こなして、まるで腕に覚えありなデキる浪人のよう。そいつが剣のように一本の竹をかまえている。
 こう見えてロードの名を冠する、ノットガルドでも有数の優良種。
「なのにどうして竹?」とわたしが首をひねったら、青い目をしたお人形さんが教えてくれました。

「いいですかリンネさま。竹はその繁殖力、強靭さでは植物界随一。成長速度も環境適応能力もズバ抜けており、他の追随を許さないほど。そのくせアイデア次第で使い道は無限大。それはイコール彼らの未知の可能性をも意味しているのです。そんなわけで、彼らは植物系のハイボ・ロードになるべくしてなった存在なのです」

 なんとなくわかったような、よくわからないような……。
 でも確かに竹って放っておいたら、とんでもない状態になるよね。
 雨後のタケノコと称されるのは伊達じゃない。
 庭とかで放置していたらあっという間に征服されちゃう。ときには家の床下から出現して、部屋のタタミどころか屋根をも突き抜けるというし。
 実際に、むかしむかしに忍び込んだあばら家が、庭どころか家の中もぜんぶ占領されていたっけか。
 あとタケノコご飯最高。でもわたしはメンマも好きです。
 そういえばお米がまだ完成していなかったな。いや、原種はとっくに見つけてあるんだけど、そこから品種改良がとっても難航しているのだよ。
 なにせ美味しいお米が誕生するまでには、膨大な時間と試行錯誤、多くのお百姓さんたちの血と汗と涙と怨念と妄執がつぎ込まれているもの。
 いかにルーシーやグランディアたちとはいえ、そこは一朝一夕とはいかないのだ。
 そんなことを考えながら勝負の行方を見守っていたら、動きがあった。

 じりじりと間合いをつめるシャモンティーガー。その両腕にはベアークロ―が標準装備されており、まるでカギ爪を装着した二刀流の忍者に見えなくもない。
 竹浪人とアライグマ忍者の決闘。
 ふいに足下を蹴りあげたのはシャモンティーガー。それによって地面の落ち葉が舞って、視界を塞ぐ。
 これに紛れてその巨体が消えた。
 いや、ちがう。奴はその大きなからだからは想像もつかないような俊敏さでもって、付近の青竹に飛びつくと、竹のしなりを利用して更に高く飛ぶ。タンタンタンと軽快に竹林の間を跳ねる跳ねる。
 頭上をとられた形になった竹浪人。死角を抑えられたことを嫌い、すぐさま駆け出す。
 ザザザと竹林を縫うように滑らかに移動していく。
 しかしそうはさせじと、アライグマ忍者が上空を追走。
 しばらく移動したのちに、急に立ち止まった竹浪人。
 手にしていた青竹をしゃらんと抜き放ち、一閃。
 周囲の竹たちがスコンパコンと断ち切られ、バサリと倒れる。
 これにより上空にて竹を足場に跳ねていたシャモンティーガーは、急にはしごを外されたかのような状況に。
 だがそれならそれでとばかりに、落下の勢いを利用して竹浪人へと天空から襲いかかるアライグマ忍者。
 これを迎え撃たんとする青竹の剣。
 二つの影が交差。
 しばしの沈黙の後に、ドサリと地面に倒れたのはシャモンティーガーの方であった。

 時代劇の一幕を見ているかのよう。
 見事なお点前に、おもわずわたしとルーシーは「おーっ」とパチパチ拍手。
 するとまるで「よせやい」とでも言わんかのようにして、竹浪人がカサカサ手をふり照れた。
 じきにムクリとアライグマ忍者が起きあがる。
 そして竹浪人からタケノコを両手いっぱい渡されると、ぺこぺこ頭を下げながら帰って行った。
 どうやら敢闘賞のご褒美らしい。
 ちなみにシャモンティーガーの好物はタケノコ。バンブー・ロードを相手にがんばると貰えるから、ちょくちょく勝負を挑みにきているそうな。
 ノットガルドのアライグマさんは、わたしの元の世界のやつよりよっぽど愛想がいいらしい。あれでもうちょっと小さかったらウチの子にするのに。

 で、肝心の対女神戦線への協力要請なんだけど、竹浪人には断られちゃった。
「自分はこの場所から動けないから」と念話で。
「その代わりと言ってはなんだけど」と渡されたのが、ちょうどわたしの両の手のひらに収まるぐらいの大きさの黄金色の竹筒であった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

青のスーラ

月芝
ファンタジー
気がついたらそこにいた。 月が紅く、ドラゴンが空を飛び、モンスターが闊歩する、剣と魔法のファンタジー世界。 挙句に体がえらいことに! わけも分からないまま、懸命に生き抜こうとするおっさん。 森での過酷なサバイバル生活から始まり、金髪幼女の愛玩動物に成り下がり、 頑張っても頑張っても越えられない壁にへこたれながら、しぶとく立ち上がる。 挙句の果てには、なんだかんだで世界の謎にまで迫ることになっちゃうかも。 前世の記憶や経験がほとんど役に立たない状況下で、とりあえず頑張ります。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝
ファンタジー
光る魔法陣、異世界召喚、勇者よ来たれ。だが断る! わりと不幸な少女が、己が境遇をものともせずに、面倒事から逃げて、逃げて、たまに巻き込まれては、ちょっぴり頑張って、やっぱり逃げる。「ヤバイときには、とりあえず逃げろ」との亡き母の教えを胸に、長いものに巻かれ、権力者には適度にへつらい、逃げ専としてヌクヌクと生きていくファンタジー。

星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン!

月芝
ファンタジー
来たる災厄に対抗すべく異世界に召喚された勇者たち。 その数、三十九人。 そこは剣と魔法とスチームパンクの世界にて、 ファンタジー、きたーっ! と喜んだのも束の間、なんと勇者なのに魔法が使えないだと? でも安心して下さい。 代わりといってはなんですが、転移特典にて星のチカラが宿ってる。 他にも恩恵で言語能力やら、身体強化などもついている。 そのチカラで魔法みたいなことが可能にて、チートで俺ツエーも夢じゃない。 はずなのだが、三十九番目の主人公だけ、とんだポンコツだった。 授かったのは「なんじゃコレ?」という、がっかりスキル。 試しに使ってみれば、手の中にあらわれたのはカリカリ梅にて、えぇーっ! 本来であれば強化されているはずの体力面では、現地の子どもにも劣る虚弱体質。 ただの高校生の男子にて、学校での成績は中の下ぐらい。 特別な知識も技能もありゃしない。 おまけに言語翻訳機能もバグっているから、会話はこなせるけれども、 文字の読み書きがまるでダメときたもんだ。 そのせいで星クズ判定にて即戦力外通告をされ、島流しの憂き目に……。 異世界Q&A えっ、魔法の無詠唱? そんなの当たり前じゃん。 っていうか、そもそも星の勇者たちはスキル以外は使えないし、残念! えっ、唐揚げにポテトチップスにラーメンやカレーで食革命? いやいや、ふつうに揚げ物類は昔からあるから。スイーツ類も充実している。 異世界の食文化を舐めんなよ。あと米もあるから心配するな。 えっ、アイデアグッズで一攫千金? 知識チート? あー、それもちょっと厳しいかな。たいていの品は便利な魔道具があるから。 なにせギガラニカってば魔法とスチームパンクが融合した超高度文明だし。 えっ、ならばチートスキルで無双する? それは……出来なくはない。けど、いきなりはちょっと無理かなぁ。 神さまからもらったチカラも鍛えないと育たないし、実践ではまるで役に立たないもの。 ゲームやアニメとは違うから。 というか、ぶっちゃけ浮かれて調子に乗っていたら、わりとすぐに死ぬよ。マジで。 それから死に戻りとか、復活の呪文なんてないから。 一発退場なので、そこんところよろしく。 「異世界の片隅で引き篭りたい少女。」の正統系譜。 こんなスキルで異世界転移はイヤだ!シリーズの第二弾。 ないない尽くしの異世界転移。 環境問題にも一石を投じる……かもしれない、笑撃の問題作。 星クズの勇者の明日はどっちだ。

転生したら赤ん坊だった 奴隷だったお母さんと何とか幸せになっていきます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
転生したら奴隷の赤ん坊だった お母さんと離れ離れになりそうだったけど、何とか強くなって帰ってくることができました。 全力でお母さんと幸せを手に入れます ーーー カムイイムカです 今製作中の話ではないのですが前に作った話を投稿いたします 少しいいことがありましたので投稿したくなってしまいました^^ 最後まで行かないシリーズですのでご了承ください 23話でおしまいになります

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...