110 / 298
110 空の男たちと最凶
しおりを挟むハイエンドペンLGマイルドが頭から敵の旗艦へ、ドカンと突っ込む。
ルーシーの操縦には一切の躊躇がなかった。
でもわたしはめちゃくちゃこわかった。
ほら、自動車の安全テストで、壁に衝突するショッキング映像があるでしょう? 木偶人形が衝撃でぐわんぐわんしちゃったり、フロントガラスを突き破って車外に放りだされたりする、アレ。
ずんずん迫ってくる船の側壁。さらにグンと加速する機体。
突撃をかます瞬間、あの映像がありありと脳裏に浮かんだね。
平気だからとか、安全だからとか関係ないの! ジェットコースターとか乗ったら誰だってこわいでしょ! あれと同じなんだから。
当然のごとくわたしはルーシーに抗議した。「だろう運転ダメ。かもしれない運転を心がけて」
すると青いお人形さんはこう言ったよ。「わかりました、次からは気をつけます」
「次もあるのかよ!」とわたしは心の中でビシッとツッコんだ。
よっこらせと機体の外へと降りれば、すでに周囲は大きなフォークみたいな槍を手にした首長族にかこまれていた。
それらを睥睨し、わたしはつぶやく。
「これがウワサのドラゴロート族か。なんか目が死んだ魚みたい」
白目の部分と黒い部分がくっきりしたドングリ眼。
だからそう称したのだが、身体的特徴についてどうこう言うべきではなかったとすぐに反省した。だって、みなさんむちゃくちゃ怒ったんだもの。
どうやらわたしは知らないうちに彼らの地雷を踏んでしまったらしい。
「ダメですよリンネさま。それはマナー違反です。彼らは空バカなんですから、よりにもよって水の中でびちびちしているのと同じにしたら、そりゃあ怒られますよ」
ルーシーにやんわりたしなめられた。
いや、あんたもさりげにヒドイこと言ってない?
でもわたしのときとはちがって、お人形さんの言葉には大きな拍手がパチパチ、口笛ヒューヒュー。
どうやら「空バカ」は彼らにとっての誉め言葉に相当するらしい。
うーん、異種族間交流ってムズかしいね。
まぁ、同じ種族同士でもケンカしまくっているから、それも当たり前か。
それはそれとして、なんか憎めないものがあるよね、ドラゴロート族ってば。
バカにされたらぷりぷり怒る。ちょっと褒められたらヒューヒュー口笛を吹いてよろこぶ。感情の起伏が明瞭というか、竹をスコンと割ったみたいな気質というか。
これが空に生き、空に恋焦がれ、空に夢中になっている空バカども。
今回はその想いがちょいと暴走しちゃったみたいだけど、そもそも飛竜とかドラゴンの面倒をちゃんとみている時点で、中味はけっこうまともだと思うんだ。
よく犬好きに悪い人はいないとか、猫好きに悪い人はいないとか言っちゃうペット愛好家っているでしょう。でもあれは正しくは「きちんとイヌやネコのお世話ができる人に悪い人はいない」だとわたしは考えている。かわいがるだけならば誰にでもできるから。
そういった理屈では、ドラゴロート族は悪い人ではないわけで……ムムム。
「ルーシー予定変更。無力化するだけで殺傷はナシの方向で」
「了解です。各員にも通達。麻痺弾とスタンガンにて対応します」
キリリと真顔にて従者に命じるわたし。
さぁ、ここから派手なドンパチの始まりだ!
なーんてことはいたしません。
だってここは船内なんだもの。つまりほぼほぼ閉鎖空間にて、これってガス類には最高の舞台。
よってわたしは右手の小指をピンと立てる。とたんに指先から大量に噴出したのは、怒れる鬼も腹がよじれるぐらいにケラケラしちゃう笑気ガス。
すぐさま乙女を中心にして広がる笑いの輪。
いい感じで場が和んだところで、床に転がり笑い死なんばかりに悶絶している面々の長い首筋に、ポンポンと判子でも押すかのようにスタンガンっぽい武器を押し当てるルーシー。
以降はこれのくり返しにて、サクサクと艦内を制圧。
そしてついにラスボスである敵の大将スコロ・ル・カーボランダムがいる部屋へと到着。
いかにもな面構えの扉をまえにして、わたしは左手の人差し指マグナムをズドンと一発。
扉に穴を開けると、そこに右手の小指を突っ込み、シューッ。
「あれ、ラストバトルは? 勇者との対決は? クライマックスシーンは?」とルーシーに言われたけど、「パス」と答えた。
だってさ、このあとにもいろいろとやることいっぱいあるでしょ。
落ちた飛竜たちやその操者とかの捜索やら保護やら、あちこちに大量に転がるゼロ戦の残骸の回収、もちろんそのパイロットたちの身柄も確保しないといけない。それから制圧したこの艦を含めてカーボランダム軍の面倒もみなくちゃならない。
とっとと戦後処理をすませて、お引き取りをしてもらわないと、いくらリスターナが食糧豊富とはいえ、これだけ大飯喰らいのごくつぶしどもを抱えていたら、すぐに干上がってしまう。こちとら辺境の小国なんだよ。大国の戦争遊戯につき合ってる暇もお金もないの。
「だから戦いません」と言い切ってから扉をあけたら、泣き笑いしながら槍をブンブンふりまわしてる男と床で白目をむいている男がいた。
寝ている方が勇者だな。笑い転げるあまり気を失ってしまったらしい。この分だとあまり戦闘向きではなさそうだね。ゼロ戦を組み上げたことからして技術チートの類かな。
で、元気な方がスコロ王さま。「おのれーっ、ヒヒヒ」「くそー、オレたちの夢はこんなところで、あはははは」とがんばっている。でも動くほどにガスの回りがよくなるから、余計に苦しくなるんだよねえ。
ほらいわんこっちゃない。
見ている前で、ついに耐えかねて槍を放り出す王さま。
続けて口から泡をふいてバタンと倒れた。びくんびくんと痙攣。なにやら危険な状態にてじきに動きをとめ、ついにピクリともしなくなった。
試しに口元に手をやったら、息をしてないっ!
どうしようと、わたし大慌て。いざとなったら人工呼吸とか心臓マッサージなんてまるで思いつけやしない。
するとルーシーが「おまかせください」
お人形さんは王さまの上に馬乗りとなり、その胸元にてスタンガンっぽいモノをバッチバチ。
これにてスコロ王さま、奇跡のカムバック。
やれやれ、最後の最後でビビらせやがって。
おかげでこっちの心臓まで止まりそうになったよ。
さて、お空の上はとりあえずこれにてひと段落。あとは地上の方か。
1
お気に入りに追加
636
あなたにおすすめの小説
【R-18】世界最強・最低の魔術士は姫の下半身に恋をする
臣桜
恋愛
Twitter企画「足フェチ祭り」用に二時間ほどで書いた短編です。
色々配慮せず、とても大雑把でヒーローが最低です。二度言いますが最低です。控えめに言っても最低です(三度目)。ヒロインは序盤とても特殊な状態で登場します。性癖的に少し特殊かもです。
なんでも大丈夫! どんとこい! という方のみどうぞ! 短編です。
※ムーンライトノベルズ様にも同時掲載しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
夫が離縁に応じてくれません
cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫)
玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。
アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。
結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。
誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。
15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。
初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」
気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。
この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。
「オランド様、離縁してください」
「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」
アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。
離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。
★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。
★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。
★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
【完結】よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
婚約破棄されまして・裏
竹本 芳生
恋愛
婚約破棄されまして(笑)の主人公以外の視点での話。
主人公の見えない所での話になりますよ。多分。
基本的には本編に絡む、過去の話や裏側等を書いていこうと思ってます。
後は……後はノリで、ポロッと何か裏話とか何か書いちゃうかも( ´艸`)
【R18/長編】↜( • ω•)Ψ←おばか悪魔はドS退魔師の溺愛に気付かない
ナイトウ
BL
傾向:
有能ドS退魔師攻め×純粋おバカ悪魔受け
傾向: 隷属、尻尾責め、乳首責め、焦らし、前立腺責め、感度操作
悪魔のリュスは、年に一度人里に降りるサウィン祭に退魔師の枢機卿、ユジン・デザニュエルと無理矢理主従契約を交わさせられた。その結果次のヴァルプルギスの夜まで彼の下僕として地上の悪魔が起こす騒ぎを鎮める手伝いをさせられることになる。
リュスを従僕にしたユジンは教皇の隠し子で貴族の血筋を持つ教会屈指のエリートだけどリュスには素直になれず意地悪ばかり。
でも純粋でおバカなリュスに何だかんだ絆されていくのだった。
人の世界で活動するためにユジンのアレやコレやが無いとダメな体にされたリュスは果たして快楽に打ち勝ち無事にまた闇の世界に帰れるのか!?(ダメそう)
※あほエロ50%、ストーリー50%くらいです。
第10回BL小説大賞エントリーしてます。
励みになるので気に入って頂けたら11月中に☆、コメント、投票お願いします ↜( • ω•)Ψ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる