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107 進軍
しおりを挟むギャバナからの駆け落ちカップルがリスターナに転がり込んでから五日目。
やや憔悴気味のリスターナの首脳陣に、追いうちをかけるかのごとく激震が走る。
カーボランダムが誇る空挺部隊が、大挙してこちらに向かっているとの凶報がもたらされたからである。
「なんでわざわざこっちに来るのよ! 行くならギャバナでしょ!」
わたしは抗議の声をあげた。おもわずキーッとなったよ。
なのに従者の青い瞳をしたお人形さんはとっても冷静。
「えー、おもったよりもスコロ・ル・カーボランダムはしたたかだったみたいですね。メローナ姫たちが逃げ込んだのをさいわいに、リスターナを見せしめにするつもりなのでしょう。まだお若いとの話でしたが、なかなかどうして」
カーボランダムの本命はもちろんギャバナ。
だけれども圧倒的な空戦力にて蹂躙しちゃったら、あとに残るのは焼け野原。
それだと後始末がとってもたいへん。
同じ手に入れるのならば、できるだけ無傷であることが望ましい。そうすれば経済から人財から資源や物資に技術など、モロモロが丸っと手に入るもの。
理想は属国化にて自治を認めつつ、うまい汁だけチュウチュウ。
かといっていきなり押しかけたらギャバナだって決死の抵抗を試みる。
なんだかんだで大国同士の戦争。
そうなっては双方ともに被害甚大。むしろ遠征を強いられている分だけカーボランダム側がしんどい。長引くほどに戦勝後のウマ味もみるみる目減り。
だからまずはリスターナでポフンとワンクッション。
辺境のちっぽけな小国だし、とくに惜しくもない。こいつを徹底的にぶちのめして、その悲惨な姿と、武威でもってギャバナや周辺国をビビらせて屈服させる算段。
あとはついでにメローナの身柄を抑えて宣伝利用する気も多少はあるかも。
などなど、以上、ルーシーさん分析。
「いっそのこと元凶を叩き出すという選択は?」
わたしの切なる願望には、シルト王をはじめダイクさんやゴードンさんら大人組のみんなが渋面にて首を横にふる。
「それこそ今更ですよ。むしろ後々になって『リスターナは我が身かわいさに姫たちを放り出した卑怯者』とか言われるのがオチです。基本的に外野のヤジは手厳しいもの。ひとごとだとおもって、やたらと正論を振りかざすのですから。だったら、てめえらが代われよ。って話です」とルーシー。
つまりいかに業腹だろうが、ガマンして懐に囲って、ことに当たるしかないということ。
どうやらコレがライト王子の「すまない」の真意であったようだ。
面倒ごとばかりずらずらと引き連れてやってくるなんて、とんだ呪いの招き猫だよ!
とはいえ……。
ぶっちゃけ、当方ならば余裕で撃退できる。
なにせわが陣営には宇宙戦艦「たまさぶろう」くんがいる。彼のホーミングレーザーにて一括ロックオン。シュビビーンと光線の乱れ撃ちにて戦闘は即終了。おそらく三分とはかかるまい。
が、それが安易に出来ないからこそ、わたしたちはただいま角を突き合わせて、おおいに悩んでいたのである。
だって、こちとらド田舎の小国だよ。世界の空を牛耳ろうという大国をあっさり負かしたら、いくらなんでもおかし過ぎるでしょう。
めちゃくちゃ悪目立ちして、これまでこっそりコツコツと積み上げてきた努力が、すべて水の泡。
そんなヤバい戦力を抱えていることがバレたら、リスターナとしても対外的に非常にマズい立場になる。先の戦争にて国際的な信用が低下しているところにナゾの大量破壊兵器所持が重なれば、危険視された挙句に、大連合で突撃とかされちゃうかもしれない。
まぁ、それでも勝つ自信はあるんだけどね。
でもそんな事態になったら、たぶん国土が屍ランドになってしまう。
お姉ちゃんとしてはリリアちゃんをそんな死臭漂う穢れた国の女王さまには、断じてしたくない。
かといってみすみすヤラれるという選択はもっとない。
ここはやはり先制攻撃か? いっきに強襲して蹴散らしちゃう? それとも地底要塞に保有しているロケットペンシルの出番? そういえばそろそろ新しいのと入れ替えたいとかルーシーが言っていたし、在庫がはけてちょうどいいかも。
わたしがそんなことを考えていたら、宰相のダイクさんがじつに申し訳なさそうに「無理を承知で言わせてもらえば、リスターナとしては勝ちすぎるのも控えてもらえると助かるのだが……」
なにせ彼の国は飛竜やドラゴンの一大生息地。
各国に飛竜そのものや乗り手、飼育員などの人材を多数輩出しているがゆえに、あちこちに太いパイプを持つ。
ドラゴンはともかく飛竜は使い勝手がいいので、どこでも大人気。
それゆえに需要に供給がちょいとばかり追いついていないのが現状。
もしもカーボランダムに壊滅的な打撃を与えてしまったら、そのバランスがおおきく崩れる。元の状態へと戻るのにいったいどれほどの時間がかかることやら。
市場をほぼほぼ独占状態というのが、じつにやっかいだ。
たちまち供給が滞り、その間に生じる不利益たるや、いかほどになるのか、ちょっと考えたくもない。
そしてその不満の矛先は、そんな事態をもたらした相手へと向かうわけで……。
「理不尽だ! 一方的に戦に巻き込まれたというのに、勝っても負けてもダメだなんて。めんどくせー! 国の運営、超めんどくせー! 王さまとか超絶めんどくせーっ!」
そもそも充分に豊かなくせして、更に領土の拡大を欲するとか意味がわからん。
だって国土が増えたら、その分だけ仕事もどっさり増えるんだよ。
倍になったらやることなすこともすべて倍。面倒事とストレスも倍々。
そんな生活にまっしぐらとか、もはや狂気の沙汰である。
わたしが心からの叫びをぶちまけると、シルト王さまがウンウンと力強くうなづく。
「そうなんだよ、とってもめんどうくさいんだよ。ぼくだって代わってもらえるのならば、いますぐに代わってほしい。なんならリンネちゃんが女王になる? そうすれば、遠慮せずに殺っちゃっていいから」
「ぜってー、いやだ。そんな呪いの装備はいらん」
わたしは譲位の要請を全力で断った。
玉座を呪いの装備扱いされて、美中年はややブルーになった。
それを尻目に密かに誓うのは、リリアちゃんが女王となる前になんとしても制度改革を断行して、彼女にはゆったり余裕のあるスロークィーンライフを送らせてあげること。
でもわたしには無理だから、頼んだよ、ルーシーさん。
「とはいえ現状のわが国の素の軍事力では、空の上の相手ではどうしようもない。せめて地上に降りて来てくれれば、まだ歓迎のしようもあるのだが」とはゴードン将軍。
「そうですね。やはり空でのお相手はリンネさま旗下がすることになるでしょう。ですがこちらの正体は隠したいので、ここはギャバナにも協力を仰ぎましょう」
ルーシーはある作戦を提唱。
概要はギャバナにも空軍を派遣してもらって、形の上でだけ対カーボランダム空中大決戦の巻を演じてもらう。
その裏にて、うちの子たちが相手をボコる。
で、パタパタ落ちてきたのをゴードンさん率いる地上部隊がさらにボコる。
そして勝利の栄光はギャバナ空軍にプレゼント。これにて対外的にも問題なかろう。
細かい情報操作はライト王子にやらせる。きっとそういうの得意だろうし。
名付けて「張り子の虎」作戦。
ちなみにもしもギャバナが軍勢を派遣するのを渋ったら、こう脅してやるつもりだ。
「おたくのお嬢ちゃんがこっちにきてから、やらかしたアレやコレの映像を、そっちでゲリラ上映してやる。そうすれば王室の権威は地に落ちるぞ」と。
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