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101 聖騎士

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 お人形さんの銃弾によりロープを切られた女ターザン。
 カラダは宙へと投げ出され、強烈な遠心力にて人間手裏剣と化す。
 その身が大通りに面した商店らしき四階建ての建物の外壁に接触。
 以降、ビリヤードの玉のようにあっちに当たり、こっちにぶつかりしつつ失速。
 で、通りの石畳に落下するもまだ勢いは止まらずに、しばし人間耕運機と化して破砕前進。
 広場の噴水に激突し、これを大破してようやく止まった。
 かなりの暴走事故だというのに、ただの一人も通行人が巻き込まれなかったのは不幸中のさいわい。
 どうやら上空にて発生した爆発におどろいて、すぐさま最寄りの建物内へと避難していたためとおもわれる。
 その様子を遠目に眺めていたわたしたち。

「うわー、痛そう。あれならふつうに落ちてたほうが、ぜったいによかったよね」
「因果応報、天罰てきめん。悪党の末路なんてものはあんなモノですよ」

 自分たちが招いた惨事であることはヌルっと棚にあげて、そんな会話をする小娘とお人形。
 セレニティたちには巻き込まれてケガをした人がいないかの確認やら、もしも瓦礫の下敷きになってあっぷあっぷしている要救助者がいたら助けるようにとお願いして、わたしとルーシーは犯人の身柄確保へと向かった。



 壊れた噴水の水溜まりの中に、うつ伏せでぷかぷか浮かんでいる女スパイ。
 まるで溺死体のようだ。
 全身ズタボロだけれどもポロリはなしか……、でもこの調子では完全にグロッキー状態であろう。
 だが油断はすまい。迂闊に近寄ってズブリとか、わりと定番だしね。
 足下に落ちていた小石を拾うと、わたしはこれを投げつけてみる。
 が、当たらない。
 なぜならわたしは野球なんぞろくすっぽやったことがないからだ。いかに高レベル生命体とはいえ、むちゃくちゃなフォームで投げた玉がまっすぐに飛ぶわけがない。
 するとルーシーがお手本を見せてくれた。
 お人形さんはその小さなカラダにて、完璧なオーバースローを披露。
 コントロールもバツグンにて、見事に倒れている女スパイの背に命中。

「腕だけで投げるのではなくて、全身を使うのがポイントです。あとムダにリキまないこと。さながら風にゆれる柳のごとく、しなやかにしなやかに」

 コーチのアドバイスに従いフォームを意識しつつ投石。
 すると今度はちゃんと当たった。

「おぉ、やったよ! ルーシー」
「いい感じですよ、リンネさま。意外とのみ込みがお早い」

 いまの感覚を忘れないうちにと、投石をつづけるわたし。
 すると興がのったルーシーもいっしょになって投げ出した。
 主従での石投げ遊び。
 互いに命中を競い、次第に熱を帯びて、遊びがマジになりかけたあたりで、水死体がムクリと起きた。
 そしてもの凄い形相でこちらをにらみ「聖騎士グリューネの名において、おまえたちは絶対に殺す」と言い放った。

 グリューネが水に濡れたぼろ着を乱雑に脱げば、中から動きやすそうな軽装備の鎧姿。
 最低限の防御力を保持しつつも、ボディラインを損なうことなく、かつ関節とかが動きやすい工夫が施されている、極めて真っ当な鎧。
 よかった、ビキニアーマーとかじゃなくって。
 八頭身美女にあんな格好をされたら、さすがのわたしも目のやり場に困っちゃうもの。
 とはいえ、アレだけの衝撃を喰らって壊れていないということは、相当の業物とみた。
 そしていい装備を持ってるってことは、それ相応の実力の持ち主でもあるわけで。
 ならば用心せねばなるまいと、ルーシーさんに情報を求めたんだけど……。

「聖騎士って何のこと? やっぱり教会絡み?」
「それが……、先ほどからアカシックレコードで検索をかけているのですが、めぼしい情報が出てこないのです。おそらくは隔離隠匿されている類に該当するのかも」
「そういえば一部、情報が操作されているとか言ってたか。で、そこは調べられないの」
「実行は可能です。ですがそれを行うと女神にこちらの存在を把握される恐れがあります」

 つまり今はまだ時期尚早。
 藪をつついて女神さま降臨とか、ちょっとシャレにならない。
 だからここは安全策をとる。
 安全策その一、グリューネ当人から聞き出す。
 安全策その二、たいへんだけど自分で調べる。
 それでもって、すぐに実行可能なのはその一だったんだけど……。

 いささか敵を前にしていろいろと考えすぎていたらしい。
 気づけばわたしの細首にグリューネの糸がぐるぐると巻きついていた。
 あっ、とおもったときには空中にて首つり状態。
 一気に二階ほどの高さにまでカラダをもっていかれる。
 なんとかしようともがくほどに、首にギリギリと喰い込む糸。
 あわてるわたし。
 グリューネがゾッとするような冷笑を浮かべて言った。

「ではごきげんよう、お嬢ちゃん」

 その瞬間、首へと伝わる感触が変化。
 硬くなったとおもったのと同時に、ぶつりとイヤな音がした。


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