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096 王弟暗殺未遂事件

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 女三人にてかしましくしていたら、何やら屋敷内までざわざわとかしましく……。
 わたしが廊下に顔を出してみれば、ジャニス女王のところへと向かったラグマタイトの男勇者の一人が凶報を持ち帰ったことで、大人たちが騒然としていた。

「どうしたの?」

 ちょうどシルト王の姿も廊下にあったので声をかける。

「あぁ、たいへんなことになった。さっきの爆発なんだが、どうやら王弟が巻き込まれて重傷らしいんだ」と神妙な面持ちの王さま。

 王弟アーク・ル・ラグマタイト。
 ジャニス女王の十以上も歳の離れた弟さん。
 あの逞しいメスライオンの背中を見て育ったせいか、人物は確かにて、女王さまってば近いうちに譲位する気まんまんだったそう。
 が、五カ国がそろった国際会議の直前にて、警戒も厳重な最中に爆破事件勃発!
 これってばめちゃくちゃ怪しいよね? 連盟の結束を嫌った何者かの陰謀か、はたまた身内の犯行か、それともまったくの外部の手の者か。陰謀臭がぷんぷんするよ。
 それで肝心のアークさんの容態なんだけども、かなり予断を許さない。
 モロに爆発に巻き込まれたらしく、肉体の破損がひどくて、回復魔法や薬品なんかで懸命に処置を行っているそうだが、あまりかんばしくないんだとか。
 それであわててユリさんを呼びにきたという。
 彼女のギフトは回復系。細胞を活性化させ自然治癒力を高めるタイプらしくって、優秀だけれどもゲームみたいに「ヒール」と叫べば、ピカっと光ってなんでもかんでも治るというものでもないらしい。
 そしてスキルは、なんと! 時間停止だというからおどろきだ。
 もっとも二秒が限界にて、一回使うと十分のインターバルが必要とか、スゴイけど使いどころにものすごく困る性能。
 そんなワケで急遽、王弟さんが担ぎ込まれている病室へと向かうことになったユリさん。
 わたしもルーシーとアルバをともなって同行する。
 状況によってはあのポーションを提供するために。
 シルト王の警護の方はオービタルたちを召喚しておいたから問題なかろう。



 急かされるままに病室へと足を踏み入れたユリさんは、ベッドに横たわる王弟アークさんの姿をひと目みるなり「ひっ」と短い悲鳴をあげる。
 それほどまでにカラダがひどいありさま。
 十年使い古したボロ雑巾のほうがまだマシだ。むしろよく生きていたと感心する。
 お抱えの宮廷医師やらが懸命に回復魔法での治療を試み続けてコレということは、状況はかなり絶望的。
 ユリさんにすがるような目を向けてくるジャニス女王。
 だがユリさんの態度に「ダメか」と諦めの表情を浮かべる。
 そこでわたしの登場です。
 部屋の外に待たしていたルーシーとアルバを呼ぶ。
 青い目をしたビスクドールの手には土色の液体の入ったビン。
 アルバはテキパキと準備を整える。
 何をって? もちろん粗相の後始末のさ。なにせ「だいたいよくなるポーション」は飲んだら、たちまち効果てきめんだけれども、反動がスゴイからね。屈強な魔族の女戦士ですらもがのたうち回って気を失い、ダバダバダーとナイアガラ。
 悲劇が起こることがわかっているのならば、それに備えないのはただの阿呆よ。
 あとちんたらと説明をしていたら、王弟さんが逝ってしまいそうなので、まずは問答無用で口にビンを突っ込む。
 そしてすかさず主従でかこんでガッチリホールド。

「おまえたち! いったい何を」あわてるジャニス女王に「ほら、ぼさぼさしてないで手足を抑えるのを手伝って。このあと激しいのがくるんだから」とわたし。

 経口摂取だけだとちょっとモノ足りないと感じたのか、ルーシーが二本目を開けて、ボロ雑巾のようなカラダにバシャバシャぶっかける。
 その際の雫が数滴飛んで、側にいた宮廷医師の口に入り、彼は「ぎゃあ」と悲鳴をあげてそのまま悶絶、バタンと床に倒れた。
 だが、周囲はそんな軟弱野郎にかまっているヒマはない。じゃまなのでお部屋の隅へと蹴飛ばしカーリング。
 それに前後して王弟さんが全身をビクンバタンと暴れさせだした。

 二十分ほどで救命処置は終了。
 さすがにケガがひどかったので、スヤスヤと安らかな寝息を立てているとまではいかないけれども、とりあえず青っ白い顔にてグッタリのびている王弟アーク・ル・ラグマタイト。改めてしげしげ眺めれば偉丈夫にて、ちょっといい男。
 とりあえず一命はとりとめたので、あとは寝て喰って寝たら治るはずだ。

「助かったぞ。それにしてもあの薬はすごいな。まるで伝説の神薬みたいだ。しかしニオイが、うっぷ、ひどすぎる……」

 しばらく放心状態であったジャニス女王さま、落ち着きをとりもどすなり眉間にシワを寄せて顔をしかめる。
 なお現在、病室にいるのはウチの子たちと女王さまだけ。
 ユリさん他は、全員が廊下に自主避難中。
 ふつうならば瀕死の王族を放り出して逃げたらダメだけれでも、「これはしかたがない」と女王さま。
 うーむ、「だいたいよくなるポーション」の二次被害がかなり深刻。
 マコトくんのときもそうだったけど、やはり屋内での使用は控えるべきであろうか。
 これは今後の運用方法についても改めて検討の余地アリだな。
 できれば味やニオイの改善に期待したいところだが、ルーシーによれば「いまのところむずかしい」らしい。何を混ぜても地獄風味になるそうな。
 とはいえ王弟暗殺を寸前のところで食い止めた功績は素晴らしい。
 はてさて、お礼に何を所望しちゃおうかな。


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