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087 ダンジョンへ行こう!
しおりを挟む「ねえ、ルーシー」
「なんですか、リンネさま」
「近頃、やたらとアルバから熱視線を向けられるんだけど、何か知ってる?」
そう、何故だかアルバがやたらと瞳をキラキラさせながら、こちらを見つめてくるのだ。
彼女は鬼メイドであるがゆえに、わりとしょっちゅうわたしの側に侍っている。
だもので、常に三メートル上空からキラキラした目で見られるのは、けっこうしんどいんです。
「さぁ? おおかた何かまた勝手に勘ちがいでもしているんでしょう。そもそも脳筋の考えることなんてワタシの認知外ですから」
主人がお悩みだというのに、青い目をしたお人形さんは「知らん」と素っ気ない。
仕方がないのでこの問題はいったん棚上げにして、次の話題へ。
「だったらダンジョンに行きたい」
「なんですか、またやぶからぼうに」
わたしの発言にルーシーさんがぐりんと首だけ回して、こっちを向いた。
ファンタジーといえばダンジョン。
ダンジョンといえばファンタジー。
数多の宝物が眠りモンスターが蠢く場所に、果敢にも挑む冒険者たち。
いや、ノットガルドに冒険者なんぞという珍妙な職業がないことは、ちゃんと覚えているよ。
が、ダンジョンというモノは確かに存在しているそうな。
この前、リリアちゃんに学校の教科書を見せてもらったときに、たまたま目にしたページにそのことが載っていた。
以前にベリドート国にてリュウジくんがギフトで造った試練の塔のようなタイプではなくって、洞窟やら坑道、または遺跡タイプのモノが各地に点在しているんだとか。
でもどうして内部の空間がおかしくなっているのか、モンスターや宝物が次々と出現しているのかはわからないとかなんとか書かれてあった。
おおいなるナゾにてノットガルドの八不思議みたいな感じで。
ちなみにノットガルドの八不思議とは以下のこと。
その一、森の賢人グランディア・ロードは実在するのか!
その二、伝説の戦闘種族オービタル・ロードは実在するのか!
その三、死の乙女セレニティ・ロードの桃源郷は実在するのか!
その四、植人バンブーの超絶技巧!
その五、世界三厄災の封印の地はいずこ?
その六、ダンジョン、そのふしぎロマン。
その七、女神交代劇の舞台裏。
その八、七つの月の大罪。
これを知った時のわたしの心情はこうだ。「やっべー、世界の八不思議の三つ、すでにうちにあるよ。あとその五はもうない、このまえ海に沈んだ。その七と八はめっちゃ気になる」
でもとりあえずは、せっかくだしダンジョンへ行ってみたいとおもった次第。
なのにルーシーさんってば「ダンジョンですか? あぁ、アレの正体は……」なんぞと、いきなり盛大にネタばれに走ろうとしたものだから、わたしはあわてて彼女のお口を抑えたよ。
「世界のナゾをあっさり暴露しちゃダメじゃない!」
せっかくみつけたオモチロそうな暇つぶし。それを速攻でつぶそうとしたお人形さんにプリプリ怒るわたし。
だがそのおかげでルーシーが「やれやれ、しょうがありませんねえ」と折れてくれた。
なおダンジョンの場所はアルバが知っていてた。
以前に修行で潜っていたことがあるんだとか。奥に行くほど敵がわんさかで殺り放題なんで、存分に楽しめたとかいう怖い感想がいささか引っかかるが、とりあえず案内してもらうことにする。
薄暗い石造りの通路。
内部の空気は外よりも数段ひんやりとしており、湿り気とカビ臭さが鼻について、ちょっとムズムズ。
歩くごとに反響する足音。それが回り回って、まるで背後からヒタヒタとついてくるかのような錯覚を覚え、ついつい意味もなく後ろを何度も振り返ってしまう。
慣れない環境下にて、それらがいっそうの足枷となり精神と体力を削ぎ落すかのように消耗させていく。
周囲の暗闇からいつ敵が姿をあらわすのかもわからないので、あまりの緊張感からつい明かりをつけたい衝動にかられるが、それこそがダンジョン探索での分水嶺となる。
安易に明かりに頼り逃げたが最後、闇の中に蠢く者たちからは格好の標的。
そして一度でも明かりに目が慣れた時点で、闇への対処が致命的に遅れる。
もしも明かりを奪われたが最後、瞬く間にダンジョンにて露命を散らすことになろう。
アルバに案内されたダンジョンは、魔族領の端っこの方にある深い森の奥にひっそりと佇んでいた。
内部は整えらえた古代遺跡っぽいタイプらしいのだが、入り口は蔓草におおわれており、ぱっと見には気づかずに素通りしてしまいそうな状態。
その様子からアルバは「おそらくは戦時下ゆえに、魔族の戦士たちもあまり訪れていないのでしょう」と言った。
で、ワクワクしながら、わたし、アルバ、ルーシー、それからオービタルの赤と黒の女王たちをともなっての探索に乗り出す。
話を聞いた彼女たちが「たまには外で羽をのばしたい」と念話で言ったので、女王たちの同行を許したのだが……。
「敵というか、モンスター、ちっとも居ねえ」とわたし。辛気臭い雰囲気がダラダラ続くばかりにて、開始三十分足らずでもう飽きた。
「おかしいですね、一層目はともかく次の階からは、わりとにぎやかだったと記憶しているのですが」とアルバ。おかしいなぁとキョロキョロ。そのたびに彼女の頭部の一本角がギラリと鈍いかがやきを放ち、その姿が日本刀を連想させる。こんど造って持たせてみるか? そして鬼メイドが剣鬼メイドに進化するのだ。
「いえ、おそらくはいるのでしょうけれども。たぶんリンネさまにビビって出てこないだけですよ」とルーシー。
そうだった! 賢いモンスターたちは本能で敏感に相手の強弱を察して、ヤバイ相手にはケンカなんて売らないんだった。
誰彼かまわず噛みついてくるのは野卑た賊や股間を膨らましたバカばかり。
とはいえ、これではちっともダンジョンを満喫できやしない。オービタルクィーンたちも「話がちがう」とブーブー文句を垂れる。「冒険寄越せ、敵寄越せ」と仲良くシュプレヒコール。連中の念話は頭の中に直接ひびくので、やかましい。
ぐぬぬぬ、そうなのだ。わたしは特異体質につき、ちっともファンタジーがエンジョイできない宿命を背負わされた者。異世界転移の醍醐味をことごとく潰されたかなしき女。
だからってダンジョンからも相手にされないなんて、ヒド過ぎる。
だがしかし、ちょっと待てぃ!
よくよく考えたら、あんたらもこっち側だかんな。赤黒クィーンども!
ぜったいにあんたらだけでも、モンスターは出てこないかんな!
むしろその魔王も真っ青な覇王面をまえにして、堂々と姿をさらす勇敢なモンスターがいたら、わたしは裸踊りでもなんでも披露してやろうとも。
危うくそんな言葉を口走りそうになった矢先のこと。
出たよ、勇敢なモンスターが。
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