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082 楽園の主と最凶
しおりを挟む礼節と騎士の国の女兵士たちや女騎士たちは、よく訓練されていた。
だがタロウの魅了の瞳の支配下にあるせいか、それが十全と活かされることもなく、動きや連携とかもいまいち。意に沿わぬことに心が無意識下で抵抗しているのかも。
だからわたしたちの敵じゃない。
兵力にしたって男たちを追い出しているから半減どころか、せいぜい三分の一ぐらい。
そのせいで警備網は歯抜けだらけ。マコトくんみたいにマジメに侵入とかを試みなければ、ごり押しでイケるレベル。
都の大通りを抜けて、城の直前あたりであらわれた女王直属の白騎士部隊の連中だけは、多少マシだったけど、それでも手の平式スタンガンの往復ビンタでみな沈む。
だってせっかくの精鋭部隊も、タロウのお手つきにて散々に慰みモノにされたあげくに、ここのところろくすっぽ鍛錬もしてない状況なのだもの。
せっかくの名馬もゴロゴロただれた生活を送っていれば、駄馬にも劣る。
なおタッチじゃなくて、ビタビタ平手打ちにしたのは、首筋とか胸元あたりにちらりとのぞくキスマークにイラっときたから。
おかげでなるたけ考えないようにしていた、濡れ場を想像しちまった。
なんとも胸くそわるい。
ちょっとイライラしながら城内を歩く。
不意に強烈な殺気を感じてひょいと後方に飛ぶ。
直後にさっきまでわたしが居たところに氷のでっかいトゲが床から生えていた。
これを合図に次々とツララが襲ってきた。
わたしはひょいひょいと軽快なフットワークでかわす。
ルーシーはショットガン二刀流で応戦。タケノコのように、にょきっと飛び出す氷のトゲを、すかさず射撃。モグラたたきの要領にてバンバン吹き飛ばす。
激しい魔法攻撃をものともせずに歩き続ける。
すると天井から剣を手にした女が降ってきた。
気配ですぐに異世界渡りの勇者だとわかったので、今度は横着せずにわたしも応戦。
左の人差し指マグナムを一発お見舞い。見事に胸を貫通する弾丸。
が、とたんに女勇者の姿がゆらりと揺れて滲んでぼやけた。
「えっ、分身の術?」
これが敵の女勇者のギフトかスキル。どっちかは知らないけど、残りはおそらく身体強化の類だろう。でないとこんなクノイチな動き、一朝一夕で身につくわけがない。
気づいたときには、すぐ背後に迫る刃。
とっさに身をひねってこれを前腕式警棒にて防ぐ。
も、手応えナシにつき、またしても分身!
分身自体には攻撃力はないものの、殺気をのせられるのが地味にいやらしい。
接近戦で翻弄される。たぶん健康スキルのおかげで喰らってもへっちゃらだろうけど、なんか気分的に当たるのはイヤ。
とはいえ接近戦は向こうが有利か。
そこでわたしはひさしぶりに右の人差し指をかまえて、轟ファイヤーを炸裂。
かーらーのー、グルグル横回転。イメージは華麗なバレリーナ、でも現実は不細工な人間独楽回し。
さながら炎の竜巻のごとく、ぐるぐる轟々ぼうぼう燃える。
たまらずルーシー、ゴキブリのごとき華麗なるほふく前進にて、シャカシャカ緊急避難。
しかし逃げ遅れた敵の女勇者はまともに炎の餌食に。
しばらくドタバタと床を火ダルマが転がっていたけれども、断末魔の叫びにて、ついに逝ってしまった。
そして王城内にも盛大に飛び火。
ただれた生活の中で掃除とかもサボっていたのだろう。よく見れば隅っことかにホコリが積もっており、これらが導火線のようになって、ずんずん火が走る、燃え広がる。
やっべー、やっぱり室内で火遊びとかしたらダメだな。
ここってスプリンクラーとかないよね?
「ちょっとリンネさま! 使うなら使うって言ってくださいよ。危ないじゃないですか。あやうくドレスの裾が焦げてしまうところでしたよ」
お人形さんからもお叱りを受けた。
いくら多元群体化しているから、同時にすべてが破壊でもされないかぎりは平気とはいえ、壊れるのはイヤなんだってさ。あと手縫いの衣装も大事。
いや、たとえすべてを同時に破壊したとて、わたしのギフト「人形召喚」で再召喚したら、ルーシーってばヌルっと復活するよね?
そう言ったら「それはそれ、これはこれ」だってさ。
ふむ、ならばやむなし! 「それはそれ、これはこれ」は全宇宙全次元不変の法則なのだから。
あと火をつけたのはタロウということにして、えらい人たちには報告しておくとしよう。
いくら不可抗力とはいえ、わたしが燃やしたというのは、あまりにも外聞がわるいからね。
でもこの放火がおもわぬ福音をもたらす。
ふつう火事にあったらどうしますか?
その一、勇ましく消火活動に努めて炎と戦う。
その二、安全第一にて避難誘導。大切な人たちの命を守る。
その三、命あってのものだねだい! 全力で脱出を試みる。
さて、ではこのクソハーレムを造りあげて、やりたい放題しているような性根の腐った外道がどうするでしょうか。
そんなの決まってるよね。
答えは三番です。
いかに絶対防御とかいうスキルがあっても、恐怖心は別腹。いくらへっちゃらでも怖いものは怖い。
おかげで探す手間が省けたぜ。
でも見苦しいモノまで見るはめになってしまった。
だって身一つどころか、パンツもはかずに裸の王様なんだものっ!
炎の中からあたふたと逃げてきた、ぶらぶらタロウ。
獲物が向こうからやってきたので、わたしは右ひじを向けて電磁網を発射。
自ら網へと飛び込んできた魚のように、からめとられるタロウ。すてんと転びもごもご暴れるも、自縄自縛にてより身動きがとれなくなっていく。
あー、やっぱり思ったとおりだったよ。
絶対防御のスキルでいかなる攻撃も通らないのかもしれないけれども、捕まえられないわけじゃないとは踏んでたんだよねえ。
ロープで縛り上げるのはムリでも、大きな網とか袋や箱、あるいは部屋とかに閉じ込めるのはイケると思ってたんだ。だって服を着て家の中でふつうに生活しているんだもの。
女とベッドにしけ込んでる時点で、すくなくとも毛布や上掛けはかぶれるわけだし、きっと足を絡ませながらシーツにくるまったりもしただろうし、おそらくパンツを頭に装着とかもやらかしたはず。
だから直接攻撃は不可でも拘束は可能。
絶対防御って言葉の響きだけを鵜呑みにして、タロウちゃんってばきちんとギフトやスキルの性能の検証をしてなかったな。この愚か者めが。
わたしですらも、ルーシー指導のもとで、異世界転移直後には色々と確認したというのに。
とんだおまぬけさんだな。
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