上 下
70 / 298

070 虎の穴

しおりを挟む
 
 別れ際に固い握手を交わす二人の女。
 一人はこのわたしことアマノリンネ、そしてもう一人は美魔女ことミランダさん。
 試練の塔をめぐる一連の騒動も十日ほどでようやく落ち着き、復興の目処も立ったところで、いざおさらば。
 いろいろあって結局のところ誰が一番の得をしたのかと言えば、それはミランダさんであろう。
 事件を早期解決へと導いただけでなく、ノラ勇者リュウジの捕獲、その能力を用いた新たなタワーダンジョン経営、国全体をも巻き込むインフラ整備計画など、多大な貢献と恩恵をベリドートにもたらした、わたしたち。
 そんな人物を誘致し、ドーンと勝手をさせたのがミランダさん。
 しかも本来ならば莫大な報酬を国に請求されてもおかしくない内容なのに、相手が望んだのはリスターナとの友好関係と、ガガガガの実の大量定期購入権のみ。
 その辺にいっぱい生ってる木の実を「タダで寄越せ」ではなく「売ってちょうだい」
 口約束なんぞではなく、きちんと書面までしたためてあったので、契約書を見た王さまは「何かのワナか?」と疑い、おもわず入念に三度読みもしたという。
 ベリドートにとっては得得ばかりで大フィーバー。
 こうして内心にて小躍りしているであろう王さまからの覚えもめでたい彼女。
 その自分の大手柄の対価として望んだのは、なんと! 新事業の統括者の地位。
 この要望は受け入れられ、ついでだとばかりリュウジの身元引受人にまでちゃっかり納まる。
 テッテレー! ミランダは打ち出の小槌を手に入れた。
 そしてすかさずガッチリ装備。その効果で影響力と権力と財力が大幅にアップした。
 年上妖艶女性の色気にあてられた初心な青年はコロリと篭絡。
 見かねたわたしが「騙されるな。あれでも成人男性三人の子持ちだぞ」と注意喚起するも、時すでに遅し。リュウジくんってば「そうかぁ、心のやさしい人ってのは、いくつになってもキレイなんだなぁ」とかふざけたことを口走っていた。ヤツはもうダメだ。
 だがこれらの結果もよくよく考えてみれば納得。
 だってミランダさんってば、あの大国ギャバナを裏で牛耳るライト王子の伯母さんなんだもの。おそるべしは美魔女、そしてギャバナ王室の血脈。

「ありがとうね、リンネちゃん。それからルーシーちゃんもご苦労さま。新しいタワーダンジョンが出来たら招待するから、ぜひリリア姫といっしょに遊びにきてね」

 たおやかな笑みの美魔女。発足される新組織の主要ポストは、がっちり身内で固めるそうで、まったくもって抜け目がないぜ。



 宇宙戦艦「たまさぶろう」にてゆるゆるギャバナに向かう。
 依頼主のライト王子に報告するのと、メイド修行に預けてあったアルバを引き取るためだ。
 さすがにこの短期間で「できるメイド」に急成長するのはムリがあるけれども、お茶ぐらいは上手に淹れられるようになってたらうれしいなぁ。
 なにせ魔族は皮膚が丈夫な性質らしく、お茶がアッチッチなのだ。お風呂もチャキチャキの江戸っ子仕様。
 いくら健康スキルのおかげで平気だとはいえ、グツグツ煮立つ風呂はノーサンキュー。
 わたしは入浴にて自律神経を落ちつけてリラックスしたいのであって、釜茹での刑にされた石川五右衛門ごっこがやりたいわけじゃない。

「アルバってばだいじょうぶかなぁ。魔族だからってイジメられたりしてなければいいんだけど」

 しばし離れていた仲間の身を案じるわたし。敵に厳しく身内に甘々、それがリンネという女。
 だがルーシーはとっても淡白にて「アレをイジメるとか、なにをご冗談を」と鼻で笑う。
 まぁ、たしかに身長三メートルばかりにて、鍛え上げた武芸者の鬼女をどうこうできる猛者なんて、そうそういないか。脳筋だから遠回しなイヤミとかきっと通じないだろうし、嫌がらせとかされても、たぶん気づかなくてスルーするタイプだろうし。
 そんな心配が余計な取り越し苦労であったことは、ギャバナに到着するなりすぐに知れた。

 依頼完了の報告ののちにライト王子に連れられて向かったのは、メイドの館と呼ばれる虎の穴。
 ここでは日夜、厳しい訓練にて集ったメイドたちが切磋琢磨し、より高みを目指している。アルバは預けられた初日からずっとここに缶詰されていたらしい。

「アルバ、何があっても挫けちゃだめよ」
「あなたならきっとやれるわ、しっかりね」
「負けないから。ともに極めましょう、メイド道を」
「元気でね、手紙書くから、返事まってるから」
「うわーん、アルバちゃん、いっちゃヤダー」

 アルバがメイドさんたちに囲まれて、わちゃわちゃされていた。
 あれ? めっちゃ人気者じゃん。うちの子ってば。

「あぁ、教育を担当した彼女もたいそう褒めていたぞ。ひたむきで、先輩らには敬意を払うし、アドバイスには素直に従う。わからないことがあればとことん喰らいつく根性と忍耐力。主人に対する忠誠心の厚さ。なにより大きな体で『リンネさまのためにがんばる』といったイジらしい姿が萌えてしまい、ついつい指導にもチカラが入ってしまったとか」

 ライト王子の口から語られる修行中のアルバの様子。
 担当してくださっためっちゃできるメイドさん、まさかの大絶賛。
 本日は所用にて宮殿に詰めているので挨拶ができなかったのが残念である。

「あっ、リンネさま!」

 わたしの姿を見つけるなり駆け寄って来る鬼メイド。
 心なしかスカートの裾をひらりはらりとひるがえし、駆ける姿が板についている。以前の似非コスプレとは段ちがい。
 預けるまえとはまるで別人のような足運び。武人のそれがメイドのそれにかわっていた。ほんの短期間でこれとか、虎の穴の指導力、すげえな。
 あとひさしぶりに間近に見たけど、やっぱりデカいなアルバ。
 まぁ、元気そうでなにより。
 気分は旅行の間にペットホテルに預けていた大型犬を迎えにきた飼い主にて、「じゃあね」とギャバナをあとにする一行。
 リスターナに帰ったら、まずは、本格的にチョコレートの開発製造にとりかからねば。
 なお、まじめなアルバの存在がいい刺激になって、同期もおおいに発奮。
 この世代がのちに「栄光の黄金世代」と呼ばれるようになるのだが、それはまた別のお話。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸
ファンタジー
魔王じゃなくて悪役令嬢に転生してたら、美味しいものが食べられたのになー。

【R-18】世界最強・最低の魔術士は姫の下半身に恋をする

臣桜
恋愛
Twitter企画「足フェチ祭り」用に二時間ほどで書いた短編です。 色々配慮せず、とても大雑把でヒーローが最低です。二度言いますが最低です。控えめに言っても最低です(三度目)。ヒロインは序盤とても特殊な状態で登場します。性癖的に少し特殊かもです。 なんでも大丈夫! どんとこい! という方のみどうぞ! 短編です。 ※ムーンライトノベルズ様にも同時掲載しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完】互いに最愛の伴侶を失ったオメガとアルファが、遺骨と一緒に心中しようとするけど、

112
BL
死なずにのんびり生活する話 特殊設定有り 現代設定

【完結】よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

妹の方が綺麗なので婚約者たちは逃げていきました

岡暁舟
恋愛
復讐もめんどくさいし……。

婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生
恋愛
婚約破棄されまして(笑)の主人公以外の視点での話。 主人公の見えない所での話になりますよ。多分。 基本的には本編に絡む、過去の話や裏側等を書いていこうと思ってます。 後は……後はノリで、ポロッと何か裏話とか何か書いちゃうかも( ´艸`)

【R18/長編】↜(  • ω•)Ψ←おばか悪魔はドS退魔師の溺愛に気付かない

ナイトウ
BL
傾向: 有能ドS退魔師攻め×純粋おバカ悪魔受け 傾向: 隷属、尻尾責め、乳首責め、焦らし、前立腺責め、感度操作 悪魔のリュスは、年に一度人里に降りるサウィン祭に退魔師の枢機卿、ユジン・デザニュエルと無理矢理主従契約を交わさせられた。その結果次のヴァルプルギスの夜まで彼の下僕として地上の悪魔が起こす騒ぎを鎮める手伝いをさせられることになる。 リュスを従僕にしたユジンは教皇の隠し子で貴族の血筋を持つ教会屈指のエリートだけどリュスには素直になれず意地悪ばかり。 でも純粋でおバカなリュスに何だかんだ絆されていくのだった。 人の世界で活動するためにユジンのアレやコレやが無いとダメな体にされたリュスは果たして快楽に打ち勝ち無事にまた闇の世界に帰れるのか!?(ダメそう) ※あほエロ50%、ストーリー50%くらいです。 第10回BL小説大賞エントリーしてます。 励みになるので気に入って頂けたら11月中に☆、コメント、投票お願いします ↜(  • ω•)Ψ

処理中です...