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063 エンドレスドリーム
しおりを挟む魔族である鬼メイドのアルバを連れて帰ったら、シルト王さま「あー、べつにいいんじゃないの。ボクは気にしないし。ってか初めてみたよ、魔族さんを。意外にキレイだねえ」
宰相のダイクさんは「他所の国にも前例があるし、べつにかまわんよ」
将軍のゴードンさんは「ウチに欲しいなぁ。新兵百人と交換しない?」
さすがは辺境の小国、じつにのんびりしたものである。
なおリリアちゃんは「カッコいい」と頬を染めていた。なんだかお姉ちゃん、ちょっとジェラシー。
市井の反応も気になったので、ちょいと街中も連れ歩いてみたが、多少は物珍しげな視線を向けられるものの、それだけ。
酒屋のオヤジに「魔族ってどう思う?」と声をかければ、「魔族なんぞ知ったこっちゃねえ。それよりも野盗の方がよっぽど性質がわるい。人間の敵は人間だ」とのこと。
かつて国内を席巻した治安悪化の嵐をよくおぼえているオヤジからすると、はるか北方にて行われている聖魔戦線なんぞ、完全に対岸の火事。そんなものより身近な脅威こそが大事なのである。
まぁ、日々の暮らしなんて、そんなもんだよねえ。
てなわけでアルバはするりとリスターナに受け入れられた。
だが、ここで一つ問題が発生する。
それはアルバが鬼メイド道を極めるにあたって、指導できる人材がリスターナにはいないということ。
意外なことにラフな見た目に反して、家事全般を器用にこなすアルバ。
母親が娘の武芸一辺倒をよしとしなかったらしく、礼儀作法から何からキチンと仕込んでいたのである。
しかしわたしが欲するのは「できるメイドさん」であって、並みのメイドさんではない。
そこで通信機をつかって、ギャバナのライト王子に連絡を入れる。
いろいろ秘密を共有する協力者となったので、彼にも一式渡しておいたのだ。衛星回線を利用したものなので、超長距離通信でもらくらくサクサク繋がる優れもの。
「ライト王子、ちょいとウチの新入りメイドを仕込んで欲しいんだけど」
「急に連絡を寄越したから何事かとおもえば……。そういえば前に『メイドをくれ』とか言ってたな。よそからパクるのは諦めて育てることにしたか。まぁ、懸命な判断だな」
メイドさんは身の廻りのお世話をしてくれる人。
でもデキるメイドさんは、その範疇にとどまらない。
主人に陰日向に付き添い、互いの裏も表も知り尽くした、それこそ一心同体に近い間柄。中には一度主人と決めた相手と終生添い遂げる者もいるという。そうなれば家族や伴侶よりも共にする時間が多くなり、信頼や信用なんて言葉が陳腐に聞こえるほどの、強い絆で結ばれた主従となる。
それぐらいの覚悟と、それにふさわしい力量を兼ね備えた側近中の側近、それがデキるメイドさん。
そりゃあ、そんな大切な人を「くれ」といったところで、ホイホイ恵んでくれる人なんていないよね。だって機密情報満載のかけがえのない人材なんだもの。
そんなワケで自前で用意することにしたので、お願いすると王子は了承。
ただしタダでお願いをきてくれるほど、この王子さまはいい人ではない。
しっかりと対価を要求された。
「そういえばリリア姫との会合の際に、リンネ殿の身の回りの世話をしていた者をたいそう気に入っていたな。よかろう、あの者を指導員としてあてがってやる。だがその代わりといってはなんだが、少々頼みたいことがある」
ギャバナと同盟関係にあるベリドートという国が東方にある。
両国の関係は非常に良好にて、ギャバナの王族関係者があっちに嫁いでいるほど。
それがライト王子の伯母に当たる人物なのだが、その親戚からなにやら相談したいことがあるとの連絡がきたんだとか。
幼い頃より何かとお世話になった相手だし、何とかしてあげたいと思っていたところに、ちょうどわたしが連絡を入れてきたと。
つまりメイド育成と引き換えに面倒事を丸投げされたというわけだ。
「詳しい話は向こうで聞け」と王子、完全に委託する気まんまん。大切な相手だというわりには、いささか扱いがぞんざいだな。
が、「リスターナとしても知己を得ておいて損のない相手だぞ」とまで言われてはしようがあるまい。それにルーシーさん調べによって、その国ではカカオに匹敵する果実が採取できるという話だし、これは是非ともゲットせねば。
板チョコ、ホットチョコレート、チョコクッキー、チョコアイス、チョコケーキ、チョコパンなどなど夢が広がる広がる。
なにせわたしは健康スキル持ちにて、いくら喰っても太らない。
フフフ、塩っ辛いポテチと甘いチョコのエンドレスドリームが実現可能。しかも夜通しフィーバーできる。
どうするよ、これ? わたしってば、もう無敵すぎるじゃないか!
それに美味しいお菓子が完成すれば、きっとリリアちゃんも喜んでくれるにちがいあるまい。
そんなわけで、いざ、行かん、ベリドートへ。
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