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061 残党狩り

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 アルバが鬼メイド道を極めるのは、まぁ、いいとしよう。
 その前に彼女にはどうしても告げておくべき事がある。
 それは、わたしが例の怪事件の犯人だということ。
 さすがにコレを知ったら、怒って勝手に大自然に帰ってくれるかと、ちょっと期待したのだけれども。

「それは僥倖! よくぞ殺ってくれました。あのクソ魔王、ことあるごとに男だ女だなんぞと、ムカつくヤツでしたので。そろそろ寝首をかこうかと自分も真剣に考えていたところでした」

 ダメだった……、リリース失敗。
 元魔王軍東方面第六部隊師団長さまは、かつての上司を蛇蝎のごとく嫌っていた。
 部下から「自分の手で殺してやりたかった」とか言われるのって、よっぽどだぞ。死んだ魔王、おまえ何してんだよ。
 そんなムカつく相手をかわりにぶっ殺したわたしに対する、アルバの評価が目に見えてグングン上昇中。
 もはや遠くに捨てても、勝手に戻ってくるレベルにて、わたしは諦めて面倒をみることに決めた。
 そして面倒をみる以上は、いろいろちゃんとしておかないといけない。

「そういえばアルバはどこに向かっていたの? 実家」
「はい、リンネさま。とりあえず一族のところに身を寄せてから、今後の身のふり方を考えるつもりでした」
「そっかー、じゃあ、とりあえず挨拶だけでもしとこうか。いきなりいなくなったら身内の方とか心配するだろうし」

 わたしがそう言うと、アルバ感激。「なんとお優しい! わたしはリンネさまにお仕えできてしあわせです!」
 いかにも大切な娘さんを預かるんで、ちゃんと筋は通すぜみたいなことを言ったが、その真意は、連れ去ったとか、メイドとしてこきつかってるとか誤解されて、こっちに矛先が向かわないようにするためである。
 彼女を見ていればおわかりであろう。
 これは脳筋タイプだ。そして彼女をこんな風に育てた第四氏族ダイアスポアの連中もきっと同類にちがいあるまい。そんなのに誤解されて押しかけられるとか、迷惑この上なし。それどころかなし崩し的に魔族との戦争に巻き込まれるのとか、絶対にイヤっ!
 そんなワケで彼女の生家があるという集落を目指すことにした。

 ルーシーとわたしとアルバが並ぶと、小中大と揃い踏み。
 すぐさま露見したのは歩幅の差。なにせ下は身長六十センチ、上は三メートルなんだもの。
 当然のごとく足並みがまったく揃わない。
 しかたがないので途中から移動方法を変えた。
 わたしがルーシーを抱いて、それをアルバがひょいと肩に担いでノシノシ歩く。
 三メートルを超える高さからの景色はなかなかだが、いかんせん乗り心地は悪い。鬼女が一歩動くたびに視界が上下にゆれるゆれる。
 健康スキル持ちのわたしでなければ、たちまち酔うことであろう。
 なお、あれ以来、襲撃はない。
 それどころか森で遭遇したクマっぽいモンスターが、遠目にこちらを見かけるなり脱兎のごとく逃げて行った。
 てっきりわたしの高レベルを野生の勘にて察知したのかとおもったら、ルーシーが「いや、あれはたんにヘンな集団がいるんで、関わり合いになるのを避けただけでしょう」と言った。
 鬼メイドに担がれるビスクドールを抱く女。
 フッ、たしかにわたしでも森の奥で遭遇したら、全力で逃げるな。
 絵ずらがヤバすぎるもの。

 魔族領内を歩くことしばし。

「あの山を越えれば、うちの集落です」とアルバ。

 たしかに煙がモウモウと上がっている。
 でも、煮炊きなどによる生活のものとは、しょうしょう煙の趣きがちがうような……。
 案の定だよ。
 到着した先で待っていたのは、痛々しい襲撃の跡だらけにて、無残な廃墟と化した村。
 どうやら一足遅かったようだ。
 アルバが逃げ出した段階で先手を打たれたか、もしくははなから潰すつもりであったのか。
 彼女を罠にハメた勢力が、第四氏族ダイアスポア全体を敵に回す気なのか、ここを見せしめにして言うことを聞かせる算段かは、現時点では不明。
 ただはっきりしているのは、アルバが地位や名誉だけでなく産まれ故郷まで失ったということ。
 あまりにも散々な展開の連続。
 さすがに気の毒になってきた。
 アルバもさぞや心を痛めていることであろうと見れば、彼女はルーシー指導のもと、せっせと廃墟をガサゴソ漁っていた。

「いいですか、命はポコポコ増えるけれども、資源は有限。うちでやっていくならば、狩りと採集の技能は必須ですから、しっかりと漁りなさい」
「わかりました。ルーシー先輩」

 青い瞳のお人形さんが、めっちゃ先輩風を吹かせて、新入りをしごいている。
 壊滅した実家を漁らせるとか、とんだ鬼畜先輩だよ。
 とはいえルーシーの言っていることは正しい。
 だからわたしも混ざろうとしたら、不意に周囲に満ちる殺気。
 ゾロゾロと姿をあらわす覆面姿の魔族たち。

「おのれ、残党狩りの連中か! 我が故郷を破壊しただけでは飽き足らず、心配して駆けつけた者まで狙うとは、なんと浅ましき所業か!」

 自分のしていることは棚に上げて、そんなことをキリリと真顔でほざくアルバ。
 もう、すっかりウチのカラーに染まりつつあるようでなにより。
 戦場の白雪の順応力が半端ねえ。
 しかしそうは言ったものの、現在のアルバの手には得物がない。
 薬物も抜けて怪我も全快だから、素手でもやれそうな威勢だけれども、それはルーシーが止めた。

「四の五の十……と、敵は全部で二十二ですか。やれやれ、できれば桁をもう一つあげてくれれば、いい実験になったのですけど」

 言うなり指をパチンと鳴らしたルーシーさん。
 とたんに天空から雲を突き抜け降り注いだのは光のシャワー。
 間髪入れずに残党狩りの胸と脳天を光線が貫き、全員がその場で崩れ落ちて息絶える。
 あまりのことに「これは?」と呆気にとられるアルバに、鬼畜先輩が言った。

「母艦からのホーミングレーザーです。せっかくの新装備のお披露目にしては、しょうしょう相手がショボ過ぎましたね」

 そうえば前に亜空間査察をしたときに、宇宙戦艦「たまさぶろう」にそんな装備をつけたとか言ってたな。
 えっ、最大、同時に一万までターゲットロックオンが可能。出力もいまみたいな極細から極太まで調節可能と。
 ははは、すげえな、たまさぶろう。


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