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051 真っ赤な果実

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 リリアちゃんがムクれた。
 おそれていた反抗期の到来。
 というわけではない。
 わたしが彼女を置いて、国内旅行に出かけちゃったからである。
 いや、十日ばかりで帰ってきたけどね。基本、出向いた先にての罪状認否と沙汰を告げるだけの旅だったけど。あと各地の復興具合の視察も兼ねていたので、その辺の調査報告はしっかりとまとめて、王さまたちに提出しておいた。
 それでも「リンネお姉さまだけ、ズルい」とヘソを曲げたのだ。
 重責ある立場にて、学園にも復帰できずにシルト王の手伝いでいそがしい身の上のお姫さま。
 まだまだ遊びたい盛りだけれども、国内はたいへんな状況だし、そうも言ってられない。
 そんな彼女が唯一、素でわがままを言えるのが、このわたしというわけ。
 なんだろう、この優越感は。
 健気にがんばる可憐な花に甘えられるのは、たいそう心地よい。
 そしてかわいい妹分に甘えられ、わがままを言われた以上は、どーんと受け止めてやるのが姉の勤め、いいや、これは責務といっても過言ではなかろう。
 そこでわたしは考えた。
 しばらく城の奥につめていたリリアちゃんを表へと出してあげ、おおいに息抜きをさせてあげる計画を。
 いろいろ考えた結果、お日柄も季節もいい塩梅なので、ここはいっちょう果物狩りにでも出かけて、さわやかな自然の中で、健康的に羽をのばさせてあげることにしたのだが。

 甘く薫る真っ赤な果実。
 生でかじると口の中いっぱいに広がるのは程よい酸味と甘味。
 煮てよし、焼いてよし。
 わたしの中では果物の王さまといえばリンゴ。断じて刺々しいドリアンなんぞではない。あれはただの鈍器。
 だからノットガルドの世界でも存在しているのかとルーシーにたずねたら、「ある」との回答を得たときには、ちょっと小躍りしちゃったね。
 見た目も味もそっくりだと言うから、いっちょコイツをとりに行こうぜ! とリリアちゃんをともなって、たまさぶろうにて遠出。
 目的の果実は東の孤島にあるという。まともに出かけたら往復で半年ほどもかかるというが、宇宙戦艦「たまさぶろう」にとっては、そんな距離はないに等しいので、ギューンと出かけたまではよかったのだけれども……。

「ねえ? これって、どういう状況なのか説明して」
「ご所望の品が、宙を舞っています」
「いや、だから、どうしてリンゴが宙を飛ぶのかな?」
「どうしてって、そりゃあ木が見事なアンダースローにて、ぶん投げているからですよ」

 推定球速三百キロオーバー。
 メジャーリーガーのホームラン王のバットですらも、カスリもしない速度でぶん投げられるリンゴの実が、こちらに向かって飛んでくる。
 もちろん喰らったらえらいことになるので、必死に避ける。
 リンゴの実は勢いもそのままに、背後の岩にべこりとめり込み、ときには砕く。
 どうやら中味はともかくとして、皮が鉄なみに固いらしい。
 ちなみにこんな剛速球を放つ左投げの投手は、リンゴの木っぽい植物モンスターのゴウサワン。
 攻撃方法は見てのとおりだ。我が身を削って、こちらの息の根をとめようと、もの凄い剣幕にて投げつけてくる。ストレートだけでなく変化球も多彩につき、油断していると手元でカクンと曲がった実がズドンと横腹にきて、かなりヤバイ相手だ。
 しかもデッドボール上等! と厳しい内角攻めがえげつない。

「これは……、さすがにリンゴ狩りはムリそうだね。とてもリリアちゃんをバッターボックスに立たせるわけにはいかないよ。ここはおとなしくリンゴ拾いに予定を変更しよう」
「それが無難ですね」

 たどたどしい手つきにて枝になった果実をもぎ、ひと口かじり、その甘酸っぱさに微笑む美少女。
 そんな愛らしいリリアちゃんの姿はとても拝めそうにないので、早々に諦めて、その辺にめり込んでいる果実をせっせと回収。
 オービタルたちがバッティングセンターのように、鉄の棒を構えては楽しそうに遊んでいるのを尻目に、安全なところで実食。
 ずしりと重いゴウサワンの実。十キロのダンベルぐらいはあるか。
 鉄なみの強度の固い皮は、このまえギャバナでくすねた光の剣をバラして解析した成果にて開発された光のビームナイフで、サクサクむく。
 凶悪な見た目に反して、中身はまんまリンゴの実。
 ひと口かじるとシャッキリ歯ごたえにて味も同じで、こりゃあ美味い。

「おいしいです。リンネお姉さま」とリリアちゃんにも大好評。

 皮が固くて密閉状態なので、日持ちもするらしく、こいつはいいめっけモノをしたな。
 その場にて石窯を組み、アップルパイならぬゴウサワンパイなんかも焼いてみたが、これまた美味。熱を通すと甘味と酸味が一段増した。そのくせ歯ごたえは維持とか、とんだ優良食材じゃないか。
 惜しむらくは同時に危険生物でもあるということか。

「この木を持って帰って移植とかしたら、きっと危ないよねえ」
「二百メートル四方を塀で囲ってどうにか……。コントロールも正確ですから、それでも油断は出来ませんけれども」

 わたしはどうにか出来ないかとルーシーに相談するも、実現はちょっとムズかしそう。
 リリアちゃんもモグモグとパイを頬張りながら「とってもおいしいのに、ざんねんです」と言った。ちなみにすでに二ホール目に突入。気に入ってくれたようでなにより。

 しょうがないので今後は、定期的に回収に出向くことにしよう。
 それにしてもさすがは異世界、リンゴっぽい果実ひとつ手に入れるのですら命懸けとはな。
 ハハハハ、こいつは恐れ入ったぜ。


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