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032 断罪と決別
しおりを挟む翌朝、難民キャンプ大パニックの巻。
なにせ周囲を武装したビスクドールたちにずらりと囲まれ、上空には巨大な魚影がふよふよ浮かんでいるんだもの。
そして拡声器を手にしたわたしが「あーあー、テステス。これより重大発表がありますので、みなさまご静粛に」と声をかける。
ザワつく難民たちや、動揺しながらも懸命に落ち着こうとするユーリス、モランの母子には、やさしく微笑みかけて「悪いようにしないから」と安心させつつ、なおもうるさいイゴール以下には、ルーシーさんがショットガンの銃床フルスイングをお見舞いして黙らせた。
いちおう妻のユーリスさんは地面に無様に転がる夫の身を案じるも、それ以外の全員が冷たい眼差し。
一度にみんなからここまで嫌われるのも、なかなかどうして。
因業ここに極まれりといったところだな。
静かになったところでリスターナへの移民の説明会を開催。
言葉だけだと信用されないかと思って、設置した布のスクリーンにて実際の移住先の映像を流しつつ、みんなには用意しておいたパンフレットと朝食のサンドイッチセットをご提供。
安心安全の生活を保障、夢の新生活を懇切丁寧にプレゼンテーション。
しっかり質疑応答の時間も設けたおかげで、説明会が終わるころには、みなさんすっかり乗り気になってくれた。
よかった、何度も打ち合わせと予行演習を重ねたかいがあったというもの。
が、ここで一つわたしから残念なおしらせ。
「すっかりホクホク顔にて、しめしめとほくそ笑んでいるところ悪いんですけど。イゴールさん以下の近しい友人の方々は、ご遠慮していただきますので。なおユーリスさんとモランくんは問題ありませんので、ご安心を」
この発言に、えっと驚いたのはユーリスさん。
ちょっと戸惑いつつも笑みを浮かべたのはモランくん。
そして移民計画から外されたイゴールその他は、当然のごとくブーイング。
「はぁ? どういうことだ! なんでオレさまたちだけ、のけ者にされなくちゃいけないんだ」
「そうだ、そうだ、横暴だ、差別だ」
「ウマい事言って、結局、みんなをダマす気なんじゃないのか?」
予想通りの反応にて、だけれども無責任な発言というのは、ときに人心を乱し不安をあおるもの。
ぎゃあぎゃあ喚く彼らの姿に、「やっぱり話がうますぎるかも」といった心配の声が広まり始めたところで、スクリーンに新たな映像が流される。
それは昨夜の尋問シーンから一部を抜粋編集した内容。
さすがにそのまま流すには、いろいろと問題があった。なによりあんなショッキングホラーな映像、身重の母体とお腹の赤ちゃんに絶対によくないからね。
スクリーンの中では男たちが泣きながら罪を告白している。
その罪状の中にはユーリスさんの前夫のことについても言及されていた。
醜い嫉妬と妬み嫉みからの犯行の犠牲になった前夫。そんな悪辣な男の奸計にまんまと落ちていたことを知って、ショックのあまり泣き崩れるユーリスさん。
そんなお母さんの身を守るように抱きしめて、キッと義父を睨みつけるモランくん。
難民たちからも非難の声が轟々。
そしてこれまでの悪行の数々が露呈したイゴールは、顔を赤くしたり青くしたりと忙しい。つるんでいる無頼の男たちもどうしたものかとオロオロ。
「うちに腐ったミカンはいらない。だからあんたたちはここに捨てていく」
わたしが改めて宣言すると、無頼漢の一人がヤケになって剣を抜いて襲いかかてきた。
その剣を避けることもなく二本指にて挟み、なんなく受け止める。
いやあ、一度、この攻撃の止め方、やってみたかったんだよねえ。
難民のみんなは呆気にとられているけれども、内心ちょっと気持ちいい。「ふっ、ぬるいわ」とか、なんだかどこぞのマンガの主人公になったみたいだよ。
ちなみに、わたしとコイツとではレベル差がすごいからね。たとえこの男が伝説のエクスカリバーとかデュランダルとか持っていても、毛筋ほども傷つかないから。
「ったく、せっかくみんなの手前、見逃してあげようとおもったのに。こんなヤンチャをされたら、こちとら、もう、ムクしかないじゃないか」
剣をうばいとった後に蹴飛ばして男を転がす。
わたしが指をパチンと鳴らしたら、即座に数体のビスクドールたちが動いて、寝ている男に群がり、スポポポポーンと処置を施す。
まぁ、パンツぐらいは残しておいてやろう。あんなの貰っても使い道ないしね。
あと友だちの罪はみんなの罪。ここぞとばかりに連座制を導入。
イゴール以下の身ぐるみをすべて剥ぐ。荷物ももちろん全部没収。
これらはユーリスさん母子に慰謝料としていただいていく。
断罪と決別の儀式が済んだところで、難民たちを順番に宇宙戦艦「たまさぶろう」に乗艦させていく。
そして最後の最後に残ったのはユーリスさんとモランくんであった。
母子と相対するはパンツ一丁になった太鼓腹のイゴール。
おそろしく冷たい目を男に向けるユーリスさんは、恨み言のひとつでも言うでなく、ただ「ごきげんよう」とだけ口にした。
もはやただのひと言すらも言葉を交わすのもイヤだという明確なる拒絶を受けて、イゴールは項垂れるばかり。
そしてモランくんなのだが……。
彼はルーシーから借り受けた木製バットで、イゴールをボッコボコに!
そんな息子を母親は止めるでもなし、じーっと無言で眺めている。
まぁ、大好きなお父さんを殺されて、大好きなお母さんを穢され、散々にいちびられた息子としては、これぐらいは大目に見てあげないと、ねえ。
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