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027 上映会
しおりを挟む七つある月のうち、顔を見せているのは二つきり。
まばらな雲が気まぐれにこれをも隠し、いつもより闇が濃い夜だった。
魔王の居城のある都に突如、空の彼方より飛来したのは、隕石のような巨大な何か。
あまりの勢いにて、戦場では無類の強さを誇る竜騎士たちによって構築されていた防空網も役に立たなかった。
都全体を覆うようにして展開されてあった幾重もの防御魔法をも打ち砕くソレは、大地に突き刺さり、衝撃によって周囲一帯を吹き飛ばし、灰塵に帰す。
すり鉢状に深く広く抉れた地面。
舞い上がった土煙が視界を埋め尽くす。
そして地の底からムクリと起き上がったのは異形の巨人。
双眸が光った瞬間、世界を切り裂くように走ったのは閃光。
都中がズタズタに裁断され、爆発が連なり破壊の熱波が地表を蹂躙。
勇敢なる戦士たちが、いきなりあらわれた理不尽な存在に立ち向かうも、そのことごとくが無慈悲に叩き潰され、踏みにじられていく。
ふりまかれる死。瞬く間に都は瓦礫の山と化していった。
この光景に激怒した魔王が自ら武器を手にとり側近の精鋭たちを引き連れて、巨人のもとへと向かう。
他種族にケンカを売り、ノットガルドに覇を唱えるだけあって、魔王のチカラは強大無比。
強者に率いられる兵に弱卒なし。
炎の弾が飛び、氷の飛礫が降り注ぎ、蒼い雷が闇を裂き、魔力が渦をまき狂騒する。
煌びやかな姿とは裏腹に必殺のチカラを秘めた魔法がいくつも放たれた。
だが異形の巨人もまた一歩も引かない。
数多の攻撃に晒されるもビクともせず、剛腕が唸るたびに死が量産され、見るも無残にてまともな骸なんぞ皆無。
互いの攻勢は苛烈を極め、戦場となった都は地獄の炎に包まれた。余波で城もついに倒壊する。
一進一退の戦いは明け方近くまで続く。
さしもの暴虐なる巨人の動きも鈍くなってきた。
が、それは魔王側とて同じ。すでに戦場に立つ者たちは半減し、残りもみな全身が傷だらけにて半死半生のようなあり様。
それでもどうにか押し切って、異形の巨人がついに退治されるかとおもわれた矢先。
巨人の全身がまばゆい光に包まれ、滅却の焔が放たれ、すべてを呑み込む。
そして魔王の居城のあった都は、ノットガルドの地より消滅した。
これにて本編は終了。
続けて壁に向かって放映されていた映像には、スタッフロールが流れる。
監修、ルーシー。
編集、ルーシー。
撮影、富士丸。
ロケ地、魔王城とその主都。
出演、富士丸ほか魔王軍の面々。
エグゼクティブプロデューサー、アマノリンネ。
制作、リンネ組。
いやー、わたしが異世界転移してすぐに、うちの富士丸くんが魔王を討伐しちゃったでしょう。
あのときの映像が残ってたのよね。まさかの録画再生機能付き。ゼンマイ式のブリキのロボットってば、存外にハイテクだった。
で、今夜はそのときの映像の上映会。
あとついでにわたしが魔王討伐者ということも明かして、今後のことについて皆様方とちょいと話し合おうかと企画した次第。
ここはリスターナの王城の奥深くにある特別な場所。
時刻は夜更け。
長い一本道の廊下の突き当りにあって、出入口は正面扉のみ。
屈強な兵らが警護に立っており、立ち入りが許されていない者が不用意に近づけば、問答無用にて切り捨て御免。
室内に窓や明りとりの類は一切なく、四方を分厚い壁にかこまれ、念入りに結界魔法が施されており、防音対策もばっちり。
表には出せないような密談をするのに最適なお部屋にて、リスターナの暗部の歴史はいつもここから生まれてきたといっても過言ではない。
中央に置かれた大きな丸テーブルを囲むのは、五名の人物と人形一体。
一人目はこの国の現王シルト・ル・リスターナ。
美中年にて、混迷する時代の国の舵取りを、のらりくらりと外交にて乗り切っていたが、コンプレックスを拗らせまくった息子に裏切られて、一服盛られて長らく幽閉される。一年ばかり夢の国に旅立っていたところ、目を覚ましてみれば国がえらいことになっていた。その尻拭いのために現在、奔走中の苦労人。
いい歳をした大人が映像を見て、気の毒なぐらいに狼狽して頭を抱えている。
二人目は美中年の娘にして、次期女王の座が内定しているリリア・ル・リスターナ。
ゆるふわとした雰囲気を持つ金髪の可憐な美少女。まだまだあどけなさが残るも、いずれは大輪の華を咲かせることが確約されている才媛。
かつてこの国を混乱に陥れていた外道勇者に、バカ兄貴から払い下げられそうな憂き目にあうも、リンネとの出会いによって人生一発逆転を果たした幸運の持ち主。
若い彼女は富士丸の活躍と迫力の映像に大興奮。初めて触れる映画に夢中にて、「さすがです、お姉さま」と連呼。
三人目はこの国の宰相ダイク・スポート。
長年、リスターナを内助の功にて支えてきた白髭の好々爺。性格は温厚にして、思慮深く、忠義に厚く人望もある。が、それゆえに国家運営のための人質として幽閉されていたところをリンネに救出される。
現在は王ともどもバカ王子によってぐちゃぐちゃにされた国内の建て直しに奔走中。
こちらも不毛地帯と化している頭を抱えていた。
四人目はこの国の将軍ゴードン・ランドルフ。
長年、リスターナを陰に日向にと守ってきた質実剛健な人物。宰相とは同世代ながらも、いまだ衰え知らずの肉体を誇り、胸筋はぱっつんぱっつん。
現在はバカ王子と外道勇者が招いた敗戦によって、すっかりガタガタの歯抜け状態となった軍部の建て直しと、組織再編に四苦八苦。
さすがに武の人である将軍はとり乱すこともなく落ち着いている。
ように見えて、軽く気を失っていた。
リリアちゃんに肩を揺すられて、はっとなり「夢か?」と口走るも、すぐに現実とわかって顔をくしゃくしゃにして、心底イヤそうな表情を浮かべる。
苦虫を噛み潰すとは、ああいう表情のことを言うのであろう。
で、残りが今夜の上映会の主催者であるわたしことアマノリンネとそのお供の人形のルーシー。
「じつは魔王死んじゃってましたー。わたし魔王討伐者でーす」との種明かしの後に、今後の方針などを話し合う予定だったのだが、おもいのほかに大人たちが受けた精神的ダメージが大きすぎて、まるで話し合いにならなかった。
リリアちゃんは「お姉さまがいてくれて心強いです」と言ってくれたけれども、協議の結果、当面の間、わたしのことは自主的に機密扱いにしてくれと、王さまたちから懇願された。
ただでさえ弱っているところに、分不相応な勇者を囲っているってバレたら、どうなるかわかったものじゃない。
いくら当人が「所属してない、自分はノラ勇者だ!」と主張しても、きっと信じてもらえない。
強すぎる武力は相手の疑心を招く。
最悪、総攻撃とかされたら国としては目も当てられない。
いや、ケンカになれば勝つ自信はあるけどね。
でもそのせいで連日、死体漁りと処理に追われるとか、ちょっとイヤだし。
こちらとしても何を考えているのかよくわからない女神さまがおっかない。あまり目立ちたくはないので、これを了承。
時期がくるまではこのまま水面下にて活動し、リリアちゃんには「いざとなったら、お姉さんがついてるから、ドーンといっちゃって」と声援を贈っておいて、今回はお開きとなった。
イベントとしてはとりあえず成功、かな?
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