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013 リスターナの都
しおりを挟む見上げるほどの高い壁に囲まれた城塞都市は、リスターナという人間の国の主都。
道中が野盗三昧にて、物や人の行き来が限られるせいか、内部へと通じる門の前は閑散としていた。
料金さえ払えば入れてくれるというので、入場自体は楽々。
ただしここでちょっとしたハプニング発生。
武器らしい物も持たず、荷といえば抱えているのは青い目をしたお人形。しかも若い女が一人きり。
これで「ただの旅人です」と言ったところで、衛兵のおっさんは納得しない。
ぬかった! 旅慣れぬがゆえに、すっかり考えが及ばなかった。こんなことならばダミーのカバンのひとつでも持っておくべきであった。
衛兵のおっさんは、存外に仕事熱心。
というか誰も来ないから暇らしい。ほんの一年ほど前まではわりと往来もあり、忙しかったというが、ここのところ景気がわるくって、閑古鳥が鳴いてるんだとさ。
尋問されているうちに、気づけばおっさんの家庭の愚痴に話が及ぶ。
稼ぎの少ない亭主が妻に虐げられるのはどこの世界でも共通らしいのだが、あいにくとみじんも興味がもてない。
もう、面倒になったので、コインの詰まった小袋を握らせたら渋々解放してくれた。
どうやら衛兵の給金はかなり安いらしい。
いい感じに人心が腐っていてくれたおかげで警備もザル、おかげで助かったぜ。
ついにやってきました華の都。
ルーシーとわたしは並んで立ち、ダァーッと拳を天に掲げ万歳のポーズ。
とくにたいした苦労はしてないけれども、微妙にここまでの道のりが遠かったので、ちょっと感慨深いのだよ。
都は大通りを中心にして碁盤の目のように区画整理されており、道の両端に石造りの建物がびっちりと並んでいる。
かなりのギュウギュウ詰めの過密っぷり。火事になったら延焼が怖いな。
まぁ、壁の外があんな状態につき、生活圏が限られる以上は、こうやっておしくらまんじゅうをしてでも、都の中にこもるしかないか。
それはいい、それはいいのだが、なんだ、これ?
仮にも一国の主都だというのに、通りには人もまばら。寒々とした風が吹き、砂ぼこりが舞って、わらクズの玉みたいなのが、ころころりん。
活気どころかゴーストタウンかと見紛うありさま。屋台のひとつも出ていやしない。
まるでお通夜かお葬式か。
そういえば国のエライ人が亡くなると、みんなで喪に服すことがあると聞いたことがある。ひょっとしたら王さまとか英雄でも死んだのだろうか?
「へい、そこのじっちゃん」
通りの隅っこにてボロをまとって、へたり込んでいるガリガリの爺さまに声をかけ、理由をたずねたら「昔はちがったけれども、近頃じゃあ、いつもこんなもん」との返事であった。
なんだ、たんにシケてるだけか。爺さまにはお礼にコインをにぎらせておく。これでなんか喰え。
「にしても、想像以上の寂れっぷりだね」
「はい、リンネさま。どうやら内政そっちのけで戦に明け暮れたようです。しかしおかしいですね。情報では現王はやり手にて厳しい局面を、外交を駆使してぬるぬるやり過ごしていたハズなのですが」
「ひょっとして女神さまから勇者をもらって、浮かれちゃったのかな」
「かもしれません。スキルとギフトの組み合わせによっては、とんでもない威力を発揮することもありますから。でも、この様子ではあまり結果はかんばしくなかったようですね」
「だよねー」
まばらな大通りを歩くも、半分ほど店が閉じられている。
定休日ってわけでもなさそうだし。メインストリートがこれでは、他の通りはもっと悲惨なことになっているのだろう。
路地裏をひょいとのぞけば暗い目をした子どもたち。おそらくは戦災孤児の類だろうが、放置していることからして、ロクな対策もとられていないと。
かろうじて開いている武器屋に立ち寄るも、棚はスカスカ。たいした品は置いてなかった。うちの亜空間の中のほうがよっぽど在庫が充実している。
店主によれば目ぼしいモノはすべてお上に徴用されてしまったんだと。代金はもちろん未納だ。
古今東西、国中から強引に物資をかき集めての戦にて、勝ったという話をわたしは知らない。
だってそれって物資の入手経路をとっくに絶たれた状態なんだもの。完全に末期状態につき、早晩のうちに詰む。
壁の中の箱庭はすっかり黄昏ている。
放課後タイムに校庭に流れる切ない音楽がどこからか聞こえてきそう。
この都は、いや、この国はもうダメかもしれない。
ちっとも楽しくない異世界観光。
行き当たりばったりの旅の難しさを痛感したところで、角を曲がったとたんにストンと胸の中に転がりこんできたのは、フードのマント姿の小柄な女の子。
やわらかな感触に、ふわりと薫る高貴なニオイ。チラっと見ただけで美少女確定。
そして後ろからはゾロゾロと怪しげな男たちの追手。手にはギラリと光るぶっそうな代物。
すがるような目を向けてくる懐の中の窮鳥。
「どっちにつきますか?」とルーシー人形。
愚問だね。
左の人差し指を構えると、男たちに向ける。
わたしのマグナムが、バンバン火を噴くぜ。
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