上 下
8 / 298

008 究極の電池

しおりを挟む
 
 ただいま宇宙戦艦「たまさぶろう」に乗って、衛生軌道上にて遊泳中。
 敵はあの目玉のお化けだけにて、退治して以降、宇宙の海は静かなもの。
 どこまでも続く星々の煌めき、色とりどりの七つの月、大地の緑と青さに見飽きることはない。
 神鋼精神の持ち主であるわたしは、はじめての環境にもかかわらず、しごく快適に過ごしている。
 もういっそ、ずっとこのままでいいんじゃない? と思い始めているほどだ。健康スキル超すげえ。
 ルーシーの頑張りもあって、情報は着々と集まりつつあるが、精査するのにもう少し時間がかかるとのこと。
 なにせ地球よりも、こっちは星の面積が何十倍も大きいらしいから、それもしかたがあるまい。

「そういえばさぁ、なんでルーシーたちってば、ギフトバーゲンセールのときに、もっと自己アピールをしなかったの? たまさぶろうも富士丸もこんなにスゴイのに」

 ただの可愛い西洋人形かと思いきや、歩くデータベースなルーシーさん。
 彼女さえいれば知識チートがやりたい放題。なにせ一般非公開のアカシックレコードにアクセスできるんだから。それもこちらとあちらの二つの世界分。
 料理なんぞしたこともない、親不幸なわたしですらもがマヨネーズや唐揚げどころか、ソース長者も楽勝だろう。鉄鋼王にだってなれるはずだ。
 ただのサメのぬいぐるみかと思いきや、スクスク立派に育って、いまや宇宙戦艦のたまさぶろうくん。
 彼さえいれば宇宙の海はオレの海状態。ぶっちゃけ天空からの一撃で一方的に敵勢力を葬れる。移動スピードもとんでもだし、水爆っぽいのバンバンだし。
 ただのブリキのロボットかと思いきや、登場するなり単体で魔王勢を一蹴してみせた富士丸。
 小細工無用の拳の一撃が敵を粉砕。魔法全盛の世界にあって純粋な力だけってところが逆にこわい。局地的戦闘では無双を誇り、あげくに最後には自爆して広域殲滅。
 で、何度もぬくぬく蘇る。そしてレベルアップにともなって、ついにその拳が星をも砕くとか、とんでもスペックに。
 だからこそ、しみじみ思うわけよ。
 こんなスゴイのが、よくもまぁ、最後まで残っていたものだと。

「あー、なかには『ちょっと見せて』とかおっしゃる物好きな方もおりましたよ。でもすべて冷やかしの類でして。説明うんぬん以前に、召喚されたワタシたちをひと目みるなり、鼻で笑われたものです」

 露骨に小馬鹿にした表情を浮かべたり、呆れられたり、蔑まれたり、腹を抱えて「うけるー」と笑われたり。
 何度もそんな目にあっていれば、ルーシーたちの態度がかたくなになってもしようがあるまい。
 あげくに大部分は彼女たちを無視してスルー。
 まぁ、ギフトの選択項目に聖剣だの、勇者の恩恵だの、聖女の癒しだの、絶対防御だの、無限魔力だの、魅了の瞳だのと、ズラズラいかにもな品が並んでいれば目移りしちゃって、人形召喚なんてものにはかまっていられなくて当たり前。しかも早いもの勝ちだったしね。

「でも、わたしもかなりゴネたクチだとおもうのだけど」

 ゴネるどころか神さまを締め上げて、めちゃくちゃ抗議した。
 あんなに怒ったのは生まれて初めてのこと。もちろんお年寄りに手をあげたのもあれが初めて。ついでに家族以外に大事なところを見られたのも初めて。
 なんだか思い出すと、無性に腹が立ってきたな。
 やはり一発でも殴っておかなかったことが心底悔やまれる。
 そんなわたしにルーシーは言った。

「リンネさまの場合は、最後の最後ということもありましたが、それでもいちおうはワタシたちをちゃんと見て、手に取り、接したうえでのお怒りでしたので。あれは当然の態度にて、他の方々とはぜんぜん意味合いがちがいます。むしろあの状況で何も考えずに受け入れていたら、それこそ正気を疑うところです」

 褒められたのか、ディスられたのか、ちょっとわからないルーシーの言葉。
 でも話しついでに、わたしはずっと気になっていた疑問も口にする。
 それは彼女たちのエネルギー源について。
 召喚という形式ならば、それらをまかなっているのもわたしなのか、それとも違う方法にて外部より摂取しているのか。ここが剣と魔法の世界なことから考えれば、まずは魔力がこれに相当すると思われるのだけれども。
 どのみち呼び出してからずっと出ずっぱりというのも、やはりふしぎな話であろう。

「あぁ、ワタシたちへのエネルギー供給はリンネさまです。召喚術というのは呼び出して終わりではありませんから。通常は呼び出している間中、ガリガリと魔力が減るものです」
「へー、そのわりにはみんな元気だし、わたしも元気なんだけど」
「そりゃそうですよ。なにせ『健康』なんですから。いくらつかっても目減りしない魔力。しかもとんでもレベルアップのおかげで、総量と出力は桁違い。いまやリンネさまは最強の勇者にして、究極の電池。人類史上、いいえ、全次元において誰も成しえなかった夢の無限クリーンエネルギーを体現されたお方なのです」

 使っても使ってもなくならないハイパー電池女。
 高出力でドバドバでもへっちゃら。しかも排ガスにて空気を汚すことも、廃棄物の処理に困ることも、環境に迷惑をかけることも、なにより使用料金もちっともかからない。
 すごいな、わたし。

「結果的に、我々は相性が最高によかったのですよ」

 そう話を締めくくったルーシーさん。
 うーん、ちょっとおんぶにだっこが過ぎる気もするけれど、わたしとしても楽だから、これはこれでいい、のかなぁ?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生魔王NOT悪役令嬢

豆狸
ファンタジー
魔王じゃなくて悪役令嬢に転生してたら、美味しいものが食べられたのになー。

【R-18】世界最強・最低の魔術士は姫の下半身に恋をする

臣桜
恋愛
Twitter企画「足フェチ祭り」用に二時間ほどで書いた短編です。 色々配慮せず、とても大雑把でヒーローが最低です。二度言いますが最低です。控えめに言っても最低です(三度目)。ヒロインは序盤とても特殊な状態で登場します。性癖的に少し特殊かもです。 なんでも大丈夫! どんとこい! という方のみどうぞ! 短編です。 ※ムーンライトノベルズ様にも同時掲載しています ※表紙はニジジャーニーで生成しました

夫が離縁に応じてくれません

cyaru
恋愛
玉突き式で婚約をすることになったアーシャ(妻)とオランド(夫) 玉突き式と言うのは1人の令嬢に多くの子息が傾倒した挙句、婚約破棄となる組が続出。貴族の結婚なんて恋愛感情は後からついてくるものだからいいだろうと瑕疵のない側の子息や令嬢に家格の見合うものを当てがった結果である。 アーシャとオランドの結婚もその中の1組に過ぎなかった。 結婚式の時からずっと仏頂面でにこりともしないオランド。 誓いのキスすらヴェールをあげてキスをした風でアーシャに触れようともしない。 15年以上婚約をしていた元婚約者を愛してるんだろうな~と慮るアーシャ。 初夜オランドは言った。「君を妻とすることに気持ちが全然整理できていない」 気持ちが落ち着くのは何時になるか判らないが、それまで書面上の夫婦として振舞って欲しいと図々しいお願いをするオランドにアーシャは切り出した。 この結婚は不可避だったが離縁してはいけないとは言われていない。 「オランド様、離縁してください」 「無理だ。今日は初夜なんだ。出来るはずがない」 アーシャはあの手この手でオランドに離縁をしてもらおうとするのだが何故かオランドは離縁に応じてくれない。 離縁したいアーシャ。応じないオランドの攻防戦が始まった。 ★↑例の如く恐ろしく省略してますがコメディのようなものです。 ★読んでいる方は解っているけれど、キャラは知らない事実があります。 ★9月21日投稿開始、完結は9月23日です。 ★コメントの返信は遅いです。 ★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません

【完】互いに最愛の伴侶を失ったオメガとアルファが、遺骨と一緒に心中しようとするけど、

112
BL
死なずにのんびり生活する話 特殊設定有り 現代設定

【完結】よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

妹の方が綺麗なので婚約者たちは逃げていきました

岡暁舟
恋愛
復讐もめんどくさいし……。

婚約破棄されまして・裏

竹本 芳生
恋愛
婚約破棄されまして(笑)の主人公以外の視点での話。 主人公の見えない所での話になりますよ。多分。 基本的には本編に絡む、過去の話や裏側等を書いていこうと思ってます。 後は……後はノリで、ポロッと何か裏話とか何か書いちゃうかも( ´艸`)

【R18/長編】↜(  • ω•)Ψ←おばか悪魔はドS退魔師の溺愛に気付かない

ナイトウ
BL
傾向: 有能ドS退魔師攻め×純粋おバカ悪魔受け 傾向: 隷属、尻尾責め、乳首責め、焦らし、前立腺責め、感度操作 悪魔のリュスは、年に一度人里に降りるサウィン祭に退魔師の枢機卿、ユジン・デザニュエルと無理矢理主従契約を交わさせられた。その結果次のヴァルプルギスの夜まで彼の下僕として地上の悪魔が起こす騒ぎを鎮める手伝いをさせられることになる。 リュスを従僕にしたユジンは教皇の隠し子で貴族の血筋を持つ教会屈指のエリートだけどリュスには素直になれず意地悪ばかり。 でも純粋でおバカなリュスに何だかんだ絆されていくのだった。 人の世界で活動するためにユジンのアレやコレやが無いとダメな体にされたリュスは果たして快楽に打ち勝ち無事にまた闇の世界に帰れるのか!?(ダメそう) ※あほエロ50%、ストーリー50%くらいです。 第10回BL小説大賞エントリーしてます。 励みになるので気に入って頂けたら11月中に☆、コメント、投票お願いします ↜(  • ω•)Ψ

処理中です...