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月芝

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第十一の怪 かごめかごめ その四

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 日中であれば、小学校には教師たちがいるし、校門のところには防犯カメラや警備員も配置されており、外部の人間が許可なく敷地内に立ち入ることは禁じられている。
 夜間の防犯については警備会社に一任されており、もしも窓ガラスを割ったりして校舎内に侵入すればたちまち警報機が作動して、屈強な警備員たちが駆けつけ対応してくれる。
 とはいえ玉川小学校の敷地は広い。
 かつてのマンモス校の名残りにて、そのすべてに対してつねに目を光らせることは難しい。学校は監獄ではない。
 だから外部の者が本気で敷地内に忍び込もうとおもえば、できなくはないのだ。
 さすがに校舎にちょっかいを出したらすぐにバレるが、グランドや校舎の周りをうろつくことは可能である。

 何者かが夜更けの玉川小学校へと侵入し、飼育小屋にて暴挙に及ぼうとした?!

 学区内での不審者の目撃情報も増えている。
 もしも一連の出来事がすべて同じ人間の仕業だと仮定して――
 これまでは声かけや、小突く程度で済んでいたが、その矛先が飼育小屋のウサギへと向かったことは、とてもではないが看過できない。
 なぜなら、この手の悪意はたいてい膨張してエスカレートしていくからだ。
 危険な兆候を感じたがゆえに、職員室にいる教師たちはピリピリしていたのである。

 すぐ目の前に迫っているかもしれない現実の脅威。
 こいつを前にしては、うしろの花子さんどころではない。
 第二編集部は顧問の赤松先生と、次号の注意喚起を促す特集記事についての打ち合わせを行った。

  ◇

 知らな人について『いか』ない。
 声をかけられてもクルマに『の』らない。
 知らない人に連れていかれそうになったら、『お』おごえをだす。
 声をかけられたり、追いかけられたら、『す』ぐに逃げる。
 怖いめにあったり、見たら、すぐに大人に『し』らせる。

 安心の登下校、五つのお約束「いかのおすし」
 これは警視庁の生活安全総務課が提唱している、子どもたちを犯罪から守る基本だ。
 かなり無理くりにてちょっと首を傾げたくなるのは否めないが、言ってることは正しい。
 これを漫研の子が描いたシチュエーション四コママンガとともに大々的に掲載する。
 あとは防犯ブザーをつねに持ち歩いたり、寂しいところに近づかない、極力ひとりにならない、日が暮れる前に家に帰ることなどなど、補足説明を追加する。
 集団下校の開始や、地域や保護者らの協力による見守り活動などについても言及しておく。

 さらに第二編集部はもう一歩踏み込んで、学級だよりだけでなく「やってみよう!登下校見守り活動ハンドブック」なるものを作成した。
 ブックと銘打っているが、手のひらサイズのペラペラのパンフレットにて、内容はハザードマップの防犯版である。
 つねに大人たちの目が届く安全な通学路や、死角が多くてとくに注意すべき場所、いざというときに駆け込むべき場所などを記しており、周囲からは「よく出来ている」「わかりやすい」となかなかの好評を博す。

 学校側からの熱心な働きかけ、ホームルームでは教師から、家では親から何度も注意喚起され、町中でよくパトカーやパトロール中のお巡りさんを見かけるようになったこともあり、子どもたちの防犯意識はかつてないほどに高まっている。
 そのかいあってか、ここしばらく不審者情報はあがっていない。
 さりとて人物が特定されたり、捕まったりしたわけではないので、まだまだ油断はできない。

  ◇

 学級だよりとハンドブックの制作を立て続けに行っておかげで、ここしばらくはずっとドタバタしていた第二編集部も、ようやくひと息つけたところで……

「う~ん、せっかくノウハウを得たんだから、こいつを活かして調査してみるか」

 編集長の上杉愛理がそんなことを言い出した。
 なにごとかとおもえば、忙しさにかまけてすっかり忘れていた、うしろの花子さんの件である。
 目撃……というか、それっぽい現象に遭遇した者は多々。
 それらの証言を集めては、うしろの花子さんマップを作って出現ポイントを絞り込む。
 もしくは出現条件や環境についての検証を行う。

「えー、ここのところ忙しかったんだし、少しはのんびりしましょうよぉ」

 里見翔がげんなりするも、その声を愛理は無視した。
 まずは自分たちのクラスにて聞き込みをし、そこから同学年へと手を広げ、これが終わったら手分けして、低学年の方を当たることになった。

「ただし、くれぐれも慎重に、さりげなく話を聞いてくれ。前にもいったが集団ヒステリーを誘発しては目も当てられんからな」

 愛理の言葉に、部員たちはうなづいた。


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