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月芝

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第十一の怪 かごめかごめ その二

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 ある日の給食の時間のことである。
 メニューはソフトめんだ。
 スパゲッティでもうどんでもない、不思議な食感のめん料理。
 なんでも学校給食用にと、わざわざ生み出されたんだとか。
 子どもたちの好きな給食ランキングでも、つねに上位に入っている人気メニュー。
 そのため今日はいつにもまして給食中の教室内がにぎやかである。

 美空がソフトめんをじっくり味わっている時のことだ。
 どこからともなく聞こえてきたのは、クラスメイトたちのこんな会話。

「ねえねえ、うしろの花子さんって知ってる?」
「知ってるよ、この頃、ウワサになってるやつでしょ」
「そうそう。じつはわたし……会っちゃったかも」
「えぇーっ、本当なのぉ!」

 廊下を歩いていたり、教室に居残っていたりすると、ふと誰かの視線を感じたり、背後を横切る影があったり、気配がしたり……
 でも、ふり返ったら誰もいない。
 な~んてことがたまにある。
 ただの勘違い、気のせいといえばそれまでなのだろうけど。
 誰が云いだしたのか、その現象を指して「うしろの花子さん」と。

 玉川小学校の七不思議に、いよいよニュースターが誕生か?
 とはいえ、小学校で花子さんとはいかにもありきたりにて新鮮味がない。
 だから美空もこの時は「毎度のことだけど、また妙なものが流行りだしたわね」ぐらいにしかおもっていなかった。
 だがしかし――

「え~と……じつはわたしも、それらしい笑い声を聞いたことがあるかもしれない」

 放課後になり、第二編集部の部室へと向かっている途中で美空と麟はトイレに立ち寄った。
 用を済ませ手洗い場にて、鏡を前に身だしなみを整えているさなかのこと。
 たまさか話題が例のうしろの花子さんのことになったところで、麟から告白されて美空はたいそう驚いた。
 しかもそれが以前、いっしょに社会科準備室に行ったときに遭遇したらしいと知って、二度驚く。
 なにせあの場には自分も居たのだから。

「もう、だったらすぐに教えてくれたらよかったのに」

 美空が唇を尖らせる。

「ごめんごめん、でもあの時はちょうど授業のチャイムが鳴ったからバタバタしていて、つい」

 麟はペコペコ平謝りしつつ言った。

「もしかしたら、自分でも気がついていないだけで、案外、遭遇している人が多いのかもしれないね」

 なんぞというやりとりを続けていたふたりであったが、その時のことである。
 そろってビクリと固まった。
 鏡の中に第三の人物の姿があったからである。
 いつの間にやらふたりの背後に立っていたのは――うしろの花子さん! ではなくて上級生の武田麗華であった。

 麗華は六年生で、ここ玉川小学校にて彼女を知らぬ者はおそらくひとりもいないはず。
 女王の異名を持つ才気活発な黒髪ロングの美少女にして、地元有数の名士の家系の娘、家は大地主にてガソリンスタンドにコンビニエンスストア、不動産業、建設業、造園業、運送業、タクシー会社などなど、いくつも事業を手がけている。
 財力、美貌、能力を兼ね備えたパーフェクトお嬢さま。噂ではいくつもの芸能事務所からスカウトを受けて入るとか。
 そんな麗華だが、我ら第二編集部のライバルである第一編集部の編集長でもある。
 でもって第一編集部および『パンダ通信』の大躍進の陰には、やり手の彼女ががっつり絡んでいる。
 なお第二編集部の編集長である上杉愛理とは幼馴染みながらも、馴れ合う関係ではない。互いに認めているからこそ、本気で勝負するような、仲がいいのか悪いのかよくわからない間柄なのが、ちとややこしい。

 第一編集部と第二編集部は別にいがみ合っているわけじゃない。
 というか、校内に君臨する学級だよりの王者に、一方的に自分たちがじゃれついているような格好である。
 とどのつまりは、面と向かって顔を合わせるのはちょっと気まずい相手であるということだ。
 麗華に見つめられて、麟と美空はまるでヘビににらまれたカエルのようになる。
 恐縮しきりの後輩ふたり、麗華は困ったようにやや眉根を寄せつつ……

「いまの話だけど私にも覚えがあるわよ。場所は、ちょうどここだったわ。あれはたしか三日前だったかしらね」

 その日は朝からやや蒸し暑かった。
 だから麗華は授業の合間に顔を洗ってさっぱりしようと思い立つ。
 水道の蛇口からジャアジャア流れ落ちる水の音を聞きながら、トイレの手洗い場にて前屈みになっていると、途中で自分の背後を横切る何者かの気配を感じた。
 とはいえ、ここは女子トイレだ。場所柄を考えればべつに不思議なことじゃない。
 おおかた誰かが用を足しにきたのであろう。
 だから麗華はさして気にすることもなかった。
 でも、ハンカチで濡れた顔を拭っていたところで、ハタとあることに気がつく。

(音が聞こえなかった……)

 女子トイレは全室個室だ。だから利用する際にはバタンと扉を閉める音がする。
 それがまったくしなかったのだ。
 よほど行儀のいい子なのか、あるいはたんに自分が聞き逃したのか。
 身だしなみを整え終えた麗華は小首を傾げつつ、トイレを去る際になにげに背後をふり返った。

 トイレ内の個室の扉はすべて開かれたままであった。


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