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第七の怪 雛形パークの幽霊屋敷 その二
しおりを挟むじつは雛形パーク……けっこうな宅地の中にある。
というのも、もともとパークを建造したのが鉄道を運営している会社だからだ。
線路を敷いて列車を走らせただけでは、乗客は増えない。
だから線路沿いや駅の周辺を開発することで、その路線の価値をグンと高めては、より多くの人、物、金を集めようとした。
遊園地を作ったら、みんな電車に乗って遊びに来るはず。
動物園を作ったら、みんな電車に乗って遊びに来るはず。
歌劇団を作ったら、みんな電車に乗って見物に来るはず。
住宅地を作ってお手頃価格で売り出したら、夢のマイホーム目当てで人が集まるはず。
そうしたら住人もわんさか増えて、電車の利用客もドドンと増えるだろう。
……などなどの思惑にて、湯水のごとく資本を注ぎ込んだものである。
驚くべきスケールの壮大なビジネスモデルと言えよう。
しかしかつては日本各地で似たようなことが行われていた。
いまからは想像もつかないほどに、バブリーな時代であった。
◇
ゲートを一歩くぐれば、色鮮やかなファンシーな夢の国。
いざ、パーク内に入場したところで――
「さてと、ではこれからどうしようか?」
立ち止まり、上杉愛理がみんなの方をふり返る。
このまま集団行動をとるのか、各々好きに遊ぶのか。
せっかくみんなで来たのだから、いっしょに遊びたいところだが、上杉愛理と村上義明ら六年生たちを筆頭に、五年生の里見翔、四年生コンビの松永美空と明智麟、麟の弟の蓮(れん)は二年生で、義明の妹の千夏(ちなつ)にいたってはまだ幼稚園児である。
男女混合にて、上は十二歳から下は五歳だ。
性別のちがいと七歳差はデカい。趣味趣向もバラバラ。
せっかくのフリーパス券だ。まったり系から絶叫系まで、アトラクションも乗り放題である。
なのに周囲に気兼ねをして、ちまちま遊ぶのはいささかもったいないだろう。
「だからさ。午前中は好きにして、昼食時に合流して、午後からいっしょに遊ぶのはどうだ?」
愛理の提案に一同賛成する。
というわけで……
「それじゃあ俺は千夏を連れてイベント会場へ行ってくる。千夏が行きたがっているんでな」
そう言ったのは義明だ。
園内のイベント会場では現在、魔女っ娘戦隊ヒーロー展が開催されている。
日曜の朝にテレビで放送している特撮番組なのだが、可憐な魔法少女たちが、地球征服を目論む悪の秘密結社の醜悪な怪人どもを、バッタバッタと薙ぎ倒す爽快な内容にて、男女問わずちびっ子たちに大人気だ。
もちろん千夏ちゃんも大好きである。
そして愛妹にはデレデレなお兄ちゃんの義明は、今日という日をすべて妹に捧げるつもりのようだ。
これを聞いて麟が手をあげた。
「あっ、だったら村上先輩、うちの蓮もいっしょにいいですか? ほら、あんたも前から気になるって言ってたじゃない」
いきなり話をふられた蓮が「なっ! いいよ、べつに。ボクはひとりでまわるから」と遠慮するも、このままでは結局自分が付き合わされることになりかねない姉は、嫌がる弟の背をぐいぐい押す。
これに対して、義明は「べつにかまわんぞ。蓮もいっしょに行こう」と快く応じたもので、蓮もついに観念して同行させてもらうことになった。
では、他のメンバーらはお昼までどう過ごすつもりなのかというと――
上杉愛理は乗り物には興味がないから、園内の一角にて開催中の菊人形展をじっくり見てまわるんだとか。
菊人形とは菊の花を使った細工のことで、菊の花や葉などで作った衣装を人形に着せたものである。江戸時代後期に誕生したというが、これがけっこう奥深く、たんに花で着飾るのではない。
園芸師が専用の茎が細くしなやかな「人形菊」という小菊をわざわざ栽培し、人形師が専用の人形を作成し、菊師が人形に花を飾りつける。
人形一体につき百株以上もの小菊が必要で、使用されるのが生花であるがゆえに、見頃、咲き頃、日照時間に温度などにも絶えず気をつける必要がある。十日から二週間ほどで菊の付け替えもせねばならない。
かつては雛形パークでも屈指の人気を誇る見世物にて、これ目当てに大勢の来場客が季節になると押し寄せていたものである。
だがそれも昔のこと。明るく極彩色豊かな現代社会においては、やや地味に映り、後継者不足にも悩まされて、縮小の一途を辿っている。
いずれそう遠くない将来にて消えゆくもの……
でも、だからこそ「いまが見頃なんだよ」と愛理は言う。
里見翔は初っ端からジェットコースターに乗るそうな。
雛形パークのアトラクションは、大型テーマパークのものに比べるとこじんまりとしている印象を拭えない。だが、スリルならばひけをとらない。
なぜならこちらはどれもこれも年代物にて、いつ壊れるかとドキドキハラハラしながら乗ることになるもので。
誰よりも可憐な見た目のマッシュルームカットの草食系男子は、こと遊びになるとアグレッシブであった。
松永美空は園内にある蝋人形の館に行くという。
雛形パークをよく知る常連客たちからは「園内にある幽霊屋敷よりも幽霊屋敷している」「下手なお化け屋敷よりも、よっぽど怖い」ともっぱらの評判の場所だ。
「どうしてそんな所に?」
との麟の疑問に美空は「等身大の生き人形が入荷したって聞いたから」と答えた。
生き人形とは、もちろん本当に生きているわけではない。
まるで生きているがごとく、本物そっくりの木彫りの人形のことである。純和風のマネキンといえばわかりやすいか。幕末から明治の頃に見世物として一世を風靡(ふうび)する。驚くべきはその超絶技巧にて、現代の技術をもってしても再現不可能と云われている。
そんなシロモノが、どうして雛形パークの蝋人形の館にまぎれ込んだのかは、さておき。
これを見逃す手はないと美空は力説する。
話を聞くうちに興味を覚えた麟も美空にいっしょについていくことにした。
かくして一同はいったん散開し、各々の目当ての場所へと向かった。
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