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030 竹草や兵どもが夢の跡

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 学習能力を持ち、自律可動する竹人形たち。
 エネルギー源はワイヤレス竹電式にて竹林内であれば、半永久的に稼働し続ける。
 では彼らの体内にあの緋色の石が精製されているのかといえば、答えはノー。
 緋色の石どころか、脳、心臓、内臓、血液もない。
 竹細工ゆえに基本、中身は空洞である。

 では竹人形たちの意思はどこに宿っているのか?

 それは竹林である。
 一にして全、全にして一なる存在なのは私だけでない。竹人形たちも同じ。
 ゆえに私同様に体を失っても再生が可能であった。
 さりとてすぐにはみんなを復活させない。とりあえず身辺警護のために竹侍大将のサクタのみとしておく。
 同じ轍を踏むわけにはいかない。

 前回の場合はずっと手探り状態であった。
 しかし今回はちがう。前回の反省を踏まえた上で、より慎重かつ狡猾にことを進めていく。
 でも、これだけはすでに決定済みだ。
 それは『パンダクマ三兄弟へのリベンジマッチ』である。
 あれは越えなくてはならない壁。
 もちろんあえて危険なことをせずとも、遠巻きにして生きていくことは可能だ。勢力だっていくらでも拡大できるだろう。
 しかしどれだけ繁栄しようとも、つねにヤツの脅威に怯えて、ビクビク過ごさなくてはならない。

 ――それは断じて、否!

 竹林の女王を目指す者がひよるなんてありえないし、あってはならない。
 とはいえ、いまはまだヤツらに勝てない。
 力の差は歴然にて。
 だから私は雌伏する。
 存分に力を養い、雄飛する刻が訪れるのをじっと待つ。

「……っと、その前にまずは、さっさと皮をむかないとね」

 私は「ムムム」と腹に力を込めては、体内にてリグニンパワーを練る練るねるねで、こねこね。
 すぐにでも巨大タケノコへなろうとするも、寸前で「ちょっと待てよ」と作業を中断する。
 エネルギーは問題ない。これまで吸収した緋色の石から得たモロモロはそのまま私のなかに残っている。
 その気になれば、すぐにでも大きくなれるだろう。
 だがしかし、それだと前と同じ竹女童の竹姫ちゃん(小)になるだけだ。

「足りない……なにもかも足りない。あの姿はちょこまかして愛らしいけど、それだけだ。短い手足ではまともに戦えない。せめて幼女体形からは脱しないと。
 となれば、もっとだ。もっと大量に緋色の石がいる」

 だから私は「ふぅ」との深呼吸にて、いったん気を鎮めては、現在の竹林の様子に耳を傾ける。
 そうしたらテリトリー内にて、さっそくいくつかの生態反応を検知した。
 私はしめしめと舌なめずりにて、さっそく「えいやっ!」と地中より竹槍を突き出しては、獲物たちをまとめて仕留める。

「お肉♪ お肉♪ あと緋色の石♪ サクタ、悪いんだけど解体作業の方はお願いね」

 うなづいたサクタはさっそく石を回収しに向かった。
 それを見送りつつ夜空に浮かぶ月に目をやれば、ちょうど怪鳥の群れが飛んでいたものだから、それらもついでに撃ち落としておく。

「まずはしっかり食って寝て英気を存分に養う。狩りはもちろんのこと、それと平行して現在位置の確認もしなくちゃならないし、かつての拠点の状況も知りたいところ。
 あと忘れちゃいけないのがパンダクマたちの動向だ。里を破壊して満足して自分たちの縄張りに戻ったのであればいいんだけど」

 やることや考えるべきことはたくさんある。
 ひとつずつだ。
 あせらずひとつずつ着実に片付けていこう。

  〇

 お天道さまが昇ったり沈んだりすること百二十三回を数えた頃。
 二体の竹武者らを従え、私はかつて竹の里があった場所へと赴いていた。

 里を囲んでいた壁はあらかた破壊されており、崩れた壁の瓦礫にて空堀も半分埋まっている。まともに残っている建造物はなく、はやくも廃墟は植物に侵されて緑に染まりつつあった。

「竹草や……つわものどもが夢の跡、か」

 わずか三日で滅んだ竹の里の残骸を眺めつつ、私はつぶやく。
 かつて私がはじめて意識を持った生誕の地にして、栄華を誇った場所もパンダクマらに蹂躙されて、もはや見る影もない。
 そんなことは、わざわざ足を運ばずともわかっていたことだけど、どうしても自分の目で一度、ちゃんと見ておきたかったのだ。

 パンダクマらに敗北し、木っ端みじんに破壊されたあと――
 私が次に目覚めたのは、ここより東方に10キロ以上も離れた山間部の竹林であった。
 おもっていた以上に、私の体は広範囲に及んでいたらしい。

 意識を取り戻してからはすぐに復活はせず。
 あえて力を蓄えることを選んだ私はサクタと二人三脚で、ひたすら周辺地理の把握と狩りを続けては、せっせと緋色の石を吸収していった。
 そして三十日目にしてようやくお化けタケノコとなり、さらに三十日を置いて皮をむき、さらにさらに三十日をもって竹人形の姿となる。

 たっぷり時間をかけた。存分にリグニンパワーを蓄え、練りに練ってこねくりまわしては、ギュギュっと圧縮し、また増量するを延々とくり返す日々。
 その甲斐あってか、パッカーンとお化けタケノコを割って出てきたら、竹女童ではなくて竹少女の姿になっていた。
 身長は160センチぐらいだから中学生女子といったところか。
 トテトテ走る幼女だったことからすれば、格段の成長であろう。
 以降、自身を竹姫さま(中)と呼称することにした。
 ここからさらに三十日以上を費やし、己の能力と可能性に向き合っては、あれこれと試行錯誤し、ようやく現在へと至り、いまここに私はいる。


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