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026 ちくちく地獄
しおりを挟むスエッコVS竹侍大将サクタ。
カンスケVS竹忍者らと竹僧兵たち。
ふたつの戦い。その様子を同期して観ていたが途中でいったん打ち切る。
いよいよ脅威が差し迫ってきたからだ。よそ見をしながら対応できるようなヤツじゃない。私は目の前の相手に意識を集中する。
ビキリと閂がへし折れ、落とし棒がひしゃげ飛ぶ。
それと同時に大門の扉が格子柵ごとこちらへと向かって押し倒される。
ドスンとの地響き、盛大に砂塵が舞っては風も起こった。
ついに三重の守りが破られた。
ひょいと居酒屋の暖簾でもくぐるかのようにして、ハートが悠々と入ってくる。
――デ、デカい! なんだコレ?
まるで動く山のようだ。
私は気圧される。
おっきいとの報告は受けていたが、実物を間近にするとさらに大きく感じられる。
背丈はキリンさんぐらいだけれども厚みはゾウさん以上だ。
いったい何をどれだけ食べたら、こんなに育つんだ? やはりあの緋色の石か? もしくはカルシウム? そういえばスエッコがひとが漁で捕った魚をバクバク喰ってたし。
「……ってか、いまはそれどころじゃなかった! 迎撃開始ーっ!」
私が腕を振り下ろし合図するなり、一斉に走り出したのは束ねた竹に車輪をくっつけたもの。先端は削って尖らせてある。
これは竹製の破城搥だ。前後にしか動けないけれども、走り出したら止まらない。頭からいっきに突っ込んでは堅い城壁や城門を粉砕する。なお威力を増すために竹の節をくり抜き、なかには土や石をパンパンに詰めてある。本当は鉄を流し込みたかったのだけれども、さすがに必要とされる鉄鉱石の量が多くなりすぎるので断念した。
大門を突破したハートのもとへ、前と左右、三方から破城槌たちが突っ込んでいく。その数は六台。
向かってくる見慣れない物体を警戒してか、ハートはとっさに後退ろうとするも、たったいま通過した大門の上枠である冠木の部分に後頭部をぶつけてしまう。
ゴンっと痛そうな音がして、ハートは「ぐるるる」とちょっと恥ずかしそう。
と、そこへ破城槌たちが押し寄せてきた。
ズゥウゥゥゥゥゥ~~ン!
重たい衝突音が響き渡る。
ひとつひとつが竹の里の防御壁に穴を穿つほどの威力を持つ。
まともに当たれば、いかにハートとてただでは………………っ!?
パンダクマ・ハート、なおも健在。
倒れるどころかしっかりと踏ん張っており、ドスコイとばかりに破城槌らを受け止めているではないか。突端が刺さって怪我を負った様子もなし。
「ちぃいぃぃぃ、バケモノめ! だったらコレならどうだ! バリスタ、撃てーっ!」
破城槌にて足止めをしているところへ、正面からの集中砲火を浴びせる。
竹工作兵たちに頼んで急遽かき集めた、十三台ものバリスタによる一斉射だ。緋色の石があるであろう胸元めがけてゴン太の矢を放つ。
さらに竹から採取した油をぶちまけて火責めにしたいところだが、あいにくとパンダクマは火属性にめっぽう強い。そのことは以前にデカトラとの対戦を観察して判明しているから、今回はパスで。
「その代わりといってはなんだけど、これでも喰らいな」
私の指示により、三人竹官女らが投げたのはふたつの玉を竹縄で結んだアメリカンクラッカーみたいなモノ。
頭上にてぐるぐる振り回しては、存分に勢いをつけてからハートへと投げつける。
投擲されたそれらはハートの首筋や腕、足などにグルグル絡みついたところで、カチリとしてボンッ!
これは焙烙玉だ。
戦国時代に使われていた手榴弾みたいな武器で、本来ならば玉の中には火薬を詰めるところを、今回は準備が間に合わなかったので粘度と燃焼性を高めた特製の竹油に鉄クズを混ぜ込んだものを仕込んである。爆発すれば、当然ながら中身が飛び散って対象に大ダメージを与える。
ちなみに玉の部分は開発した竹紙を貼り合わせて作った。べつにそこまで凝らなくとも、竹筒で代用しても良かったのだけれども様式美を優先する。歴女として、そこは妥協できない。
破城槌、バリスタ、焙烙玉にて一気呵成に攻め立てる。
だがまだ終わりじゃない。
「むむむむむ、滾れリグニンパワー! くたばれ! ちくちく地獄!」
説明しよう。
ちくちく地獄とは、地面から竹槍で獲物をブスリとする技の上位版にて。
通常は一本、ないし二本ぐらいのところを、一挙に数十もの竹槍を繰り出しては相手をちくちくする鬼畜技である。なおネーミングは竹々をもじって命名した。
はるか上空にいる怪鳥を撃ち落とすぐらいの勢いにて。
一本一本が地中より飛び出しては、鋭い切っ先にて獲物へと襲いかかる。
直下からの猛攻、これから逃れる術はない。
突、突突、突突突、突突突突、突突突突突、突突突突突突……
爆煙と竹槍の林に隠れて、ハートの姿はたちまち見えなくなった。
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