上 下
23 / 88

023 一射絶命

しおりを挟む
 
 パンダクマが竹の里を強襲!

 序盤は空堀を挟んでの遠距離攻撃の応酬となった。
 こちらは防御壁に設置したバリスタおよび、竹武者の弓部隊による斉射にて迎え討つ。
 対するパンダクマは巨岩の投擲にて、無差別爆撃のような攻撃を仕掛けてきた。
 けっこうな数の岩を用意していたことからして、今回の襲撃は思いつきや気まぐれで始めたことではないことは明白であった。

 にしてもすさまじい膂力である。
 腕っぷし自慢なのは知っていたが、よもや何トンもありそうな石の塊をボールのように投げるとはおもわなかった。
 質量をともなう岩はそれ自体が凶器であり、たやすく屋根をぶち抜き建屋を粉砕してしまう。
 だが、そんな攻撃は長くは続けられない。
 あっ、ほら、止んだ。
 弾切れだ。
 いかにパンダクマとて、あれほどの岩を山のように用意することは不可能にて。

 投げる岩が無くなり、他に何かないかとキョロキョロ探すパンダクマ。
 そこへバリスタの極太の矢が幾本も突き立つ。

「がぁあぁぁぁぁぁ」

 パンダクマが怒っては仁王立ちにて猛り吠える。
 だが見上げた先にて、黒い点々が集まっていたもので「ぐる?」
 何かとおもって見ていたら、点々がどんどんと近づいてくるではないか。
 やがてそれが自分へと降り注ごうとしている大量の矢だと気づいたときには、すでに手後れ。ドドドドと降り注ぐ矢の豪雨にその身をさらすことになった。

 直接狙わずに、あえて空へと向けて斜めに放つことで、目標へと矢の雨を降らせる弓部隊の攻撃だ。
 正面のバリスタにばかり気をとられていたら、死角となる頭上から矢が落ちてくる。高所から降ることで加速し、かつ重力をも得た矢は見た目以上の破壊力にて、それが数がまとまっていればなおのこと。大量の鏃は容赦なく獲物をズタズタにする。
 だがしかし――

 モゾモゾと針山が動いた。
 その場でしゃがみ込んでは丸まっていたパンダクマがのそりと立ち上がる。

「むぅん」

 鼻息を荒く吐いたひょうしに、全身に刺さっていた無数の矢がボロボロと抜け落ちていく。バリスタの矢もまたしかり。
 どうやらこれだけの集中攻撃をもってしても、パンダクマの毛皮と肉の表層にまでしか届いていなかったらしい。
 ならばと前線に立ったのは竹侍大将のサクタであった。

 偉丈夫が手にしているのは一張の和弓である。
 全長が4メートル近くもあって、並みの竹武者たちでは四体がかりでも弦を引けないほどの強弓である。威力については言わずもがな。
 そんなシロモノをサクタは平然と扱う。

 体の左横の延長線上に的が来るようにして立ち、両足の爪先を外八文字に踏み開く。幅は肩幅よりもやや広め。
 次いで腰をすえては両肩を沈め、背筋をピンとのばし、重心を腰の中央に置く。
 こうして上体と下半身をどっしり安定させてから、いよいよ弓を構える。矢を番え、弦をギリギリと引き絞る。
 弦を引き絞ったままで、矢を頬のすぐ下あたりに添えては狙いを定める。
 だがまだ射ない。
 射るべきときは矢が自然と教えてくれる。
 だからサクタは、ただその刻が到来するのをじっと待つ。

 戦場にびゅるりと風が吹く。
 竹林の梢が震えてさえずり、枯れ葉が舞った。
 そのうちの一枚がパンダクマの顔にまとわりついたもので、ヤツはそれを邪険に払おうとする。

「へっくちゅん、へっくちゅん」

 デカい図体に似合わずかわいいくしゃみをしたのはパンダクマだ。落ち葉が鼻先をかすめたひょうしにムズかゆくなったらしい。
 くしゃみは体がホコリや花粉、ウイルスなどの異物が侵入するのを防ぐための生理現象である。よってよほど気をつけていないと、ところかまわずうっかりしてしまう。
 二度、くしゃみをしたパンダクマが鼻をすすり顔をあげたところで。

 ストン――

 半開きだった自分の口から一本の矢が生えていたものだから、きょとんと立ち尽くす。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝
ファンタジー
「てめぇらに、最低のファンタジーをお見舞いしてやるから、覚悟しな」 異世界ノットガルドを魔王の脅威から救うためにと送り込まれた若者たち。 その数八十名。 のはずが、フタを開けてみれば三千人ってどういうこと? 女神からの恩恵であるギフトと、世界の壁を越えた際に発現するスキル。 二つの異能を武器に全員が勇者として戦うことに。 しかし実際に行ってみたら、なにやら雲行きが……。 混迷する異世界の地に、諸事情につき一番最後に降り立った天野凛音。 残り物のギフトとしょぼいスキルが合わさる時、最凶ヒロインが爆誕する! うっかりヤバい女を迎え入れてしまったノットガルドに、明日はあるのか。 「とりあえず殺る。そして漁る。だってモノに罪はないもの」 それが天野凛音のポリシー。 ないない尽くしの渇いた大地。 わりとヘビーな戦いの荒野をザクザク突き進む。 ハチャメチャ、むちゃくちゃ、ヒロイックファンタジー。 ここに開幕。

とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝
ファンタジー
光る魔法陣、異世界召喚、勇者よ来たれ。だが断る! わりと不幸な少女が、己が境遇をものともせずに、面倒事から逃げて、逃げて、たまに巻き込まれては、ちょっぴり頑張って、やっぱり逃げる。「ヤバイときには、とりあえず逃げろ」との亡き母の教えを胸に、長いものに巻かれ、権力者には適度にへつらい、逃げ専としてヌクヌクと生きていくファンタジー。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

神造小娘ヨーコがゆく!

月芝
ファンタジー
ぽっくり逝った親不孝娘に、神さまは告げた。 地獄に落ちて鬼の金棒でグリグリされるのと 実験に協力してハッピーライフを送るのと どっちにする? そんなの、もちろん協力するに決まってる。 さっそく書面にてきっちり契約を交わしたよ。 思った以上の好条件にてホクホクしていたら、いきなり始まる怪しい手術! さぁ、楽しい時間の始まりだ。 ぎらりと光るメス、唸るドリル、ガンガン金槌。 乙女の絶叫が手術室に木霊する。 ヒロインの魂の叫びから始まる異世界ファンタジー。 迫る巨大モンスター、蠢く怪人、暗躍する組織。 人間を辞めて神造小娘となったヒロインが、大暴れする痛快活劇、ここに開幕。 幼女無敵! 居候万歳! 変身もするよ。    

【完結】側妃になってそれからのこと

まるねこ
恋愛
私の名前はカーナ。一応アルナ国の第二側妃。執務後に第一側妃のマイア様とお茶をするのが日課なの。 正妃が働かない分、側妃に執務が回ってくるのは致し方ない。そして今日もマイア様とお茶をしている時にそれは起きた。 第二側妃の私の話。 ※正妃や側妃の話です。純愛話では無いので人によっては不快に感じるかも知れません。Uターンをお願いします。 なろう小説、カクヨムにも投稿中。 直接的な物は避けていますがR15指定です。 Copyright©︎2021-まるねこ

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

処理中です...