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020 竹バンド・オンステージ
しおりを挟むトンカン、トンカン、トントン、トンツカタン。
聞こえてくるのは工事の音。
ただいま建築ラッシュにて、黒鍬衆の竹工作兵たちだけでなく、手の空いている竹武者や竹僧兵らも手伝っている。
みんな汗水垂らしてがんばっている。
にもかからず、お姫さまの私ときたら……
ブゥオォォォォォォ~~~~ン♪
切りそろえられたオカッパ頭を振り乱し、尺八を吹いていた。
ステージにて観客たちを魅了するサックス奏者のごとく、アグレッシブに上半身を前後に揺らしてはパオーンとね。
ご存知のように尺八は竹で造られた木管楽器である。
そして竹製であるがゆえに、竹林をこよなく愛する私のカバー範囲にて、幼少のみぎりより祖父にしごかれた甲斐もあってか、ほれご覧の通りだ、いっぱしに吹けている。
しかし若輩者ゆえに腕前はまだまだ。
なにせこの尺八ときたら『首振り三年ころ八年』と言われるほどに、奥が深いのなんのって。ちなみに言葉の意味は、首を振って音の加減ができるようになるのにまず三年、さらに細かい指の動きによってコロコロよい音が出せるようになるには、さらに八年はかかるということである。十一年かけてようやくスタートラインに立つ資格を得て、そこから果てなき路が延々と続く、もしくは底なし沼。
尺八の構造自体はシンプルだ。
一般的に指孔は前面に四つ、背面にひとつあるのみ。上部の歌口に息を吹きつけて音を出す。
指孔の数は小学校の音楽で習うソプラノリコーダーに比べたら三分の二ほどしかない。
しかし産み出される音色は、吹き込む息の強弱、指孔のふさぎ方、頭の角度、喉や顎の動かし方などによって微妙に変化する。
その組み合わせは無限大! ありとあらゆる音色を創り出すことができるとも言われている。驚くほどに表現が豊かな楽器なのだ。
プロの尺八奏者に比べたら、私の演奏なんぞは児戯にも等しい。
とてもではないが人前で披露していいレベルではない。
せいぜいお正月に親戚一同が揃ったところで、宴会の余興として酔っ払いどもを相手に吹いては、おひねりをくすねるぐらいが関の山だ。
なのに……
ブゥオォォォォォォ~~~~ン♪
ブゥオォォォォォォ~~~~ン♪
ノリノリで吹いているのは、みんなから頼まれたからである。
たまたま手慰みで吹いて遊んでいたら、みんなが「もっと、もっと」とカンカン腕を打ち鳴らしてのアンコール。
どうやらBGMがあるほうが作業がはかどるらしい。
ならばリクエストに応えてやるのがプリンセスというものであろう。
と、私は首を熱心に振り振り。
調、下り葉、松風、獅子、流し鈴慕に鶴之巣籠、浮雲、心月などの古典本曲。
一二三鉢返調、滝落の曲、吉野鈴慕、目黒獅子、鳳将雛、吟龍虚空、芦の調などの琴古流本曲。
木枯や寒月などの都山流本曲。
ばかりか、演歌や歌謡曲に洋楽、アニソンなどを適当にアレンジしたモノまで吹いて、吹いて、吹きまくる。
するといつのまにやら、篠笛、竹琴、お琴を手にした三人官女らも加わっての合奏となっていた。
ちなみに竹琴とは竹で作った木琴みたいな打楽器である。
お琴はそのまんまだけど、弦が絹糸じゃなくて竹縄を細くしたものだから音の響きがちょっと独特、だけどこれはこれで味がある。
篠笛は祭りばやしでお馴染みの横笛である。
姫と三人官女によるバンドのオンステージ。
即席なのにもかかわらず、すぐに息がぴったりになったのは、根っこで繋がっているからかしらん。
ブゥオォォォォォォ~~~~ン♪
キンコン、キンコン、カンコンカン♪
ちりとてちんちん、ちんとんしゃん♪
ピ~ヒャラ、ピ~ヒャラ、ヒャラララ~♪
四重奏に工事の作業音が重なっては、トンカン、トンカン。
それは日が暮れてからも途絶えることはない。
月下の竹林にリズミカルな奏が鳴り響いては、竹人形たちは夜通し浮かれ踊り続ける。
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