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016 成長

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 狩った獲物の体内から回収された緋色の石。
 どういった理屈にて、これが何なのかはわからない。
 けど、タケノコにくっつけると吸収することがわかった。
 取り込むたびに感じる火照りと手応え。
 緋色の石に含まれていた成分は、たしかに私の糧となっているようだ。
 だから残り105個の石をガーッとまとめて喰らうことにする。

 サクタ率いる竹武者一同および、竹忍者や竹僧兵らがカンカン手拍子にてイッキコール。
 みんなの応援を横目に、竹女官が三方を杯のごとく掲げてはゆっくりかたむけていく。
 ジャラジャラ転がる石たち。
 私はそれをゴキュゴキュゴキュ……

 タケノコに触れたはしから緋色の石が消えては、私の体内へとじゃんじゃん吸収されていく。
 たちまち血沸き肉踊るかのような感覚に見舞われて、私はカッと刮目する。
 あ~、いや、あくまで体感とイメージでね。

「ムムム、感じる、感じるぞ! 私の中で様々な成分たちが沸き立っていくのを」

 かつてないほどに滾っているリグニンパワー。
 でもそれだけじゃない。
 炭水化物、たんぱく質、脂質、リボフラビンやパントテン酸に葉酸などの各種ビタミン、カリウムにカルシウムや鉄分にリンや亜鉛などの各種ミネラル、食物繊維、チロシンなどのアミノ酸などなど。
 すべてが爆上がりしてはアゲアゲにて体内をパラリラパラリラと駆け巡っている。

 見た目もキレイで柔らか、吸い物や和え物にすると美味しい姫皮部分が「イエ~イ」と喜んでいる。
 柔らかいけれどもちょっとアクが強い、てんぷらにすると美味しい穂先部分も「ひゃっほう」とはしゃいでいる。
 適度に柔らかく食感もいい、煮てよし揚げてよしの中央部分も「キタコレ!」とガッツポーズにて。
 繊維が密でちょっと硬いけど歯ごたえが楽しいから、焚き込みごはんの具や炒め物に最適である根元部分も「それワッショイ! ワッショイ!」とお祭り騒ぎ。

「いや~ん、皮かむりの奥がむずむずしちゃう」

 ミルフィーユ状の層になっている内部の節々がうずいている。
 たまらず私はモジモジ。
 が、次の瞬間のことであった。

「あっ!」

 ドクンと胸の奥が大きく跳ねて、頭に血がのぼったような感覚に襲われたとおもったら、そこでプツンと意識が途切れた。
 どうやら急激な体の変化に精神の方が耐えきれなくて、ショートしてしまったらしい。
 うう~ん……

  〇

 空にはまん丸お月さま。
 目を覚ましたら夜になっていた。
 でもって、なぜだか私の周りを竹イヌが「ハフハフ」と駆け回り、竹ヘビもにょろにょろ這い回り、竹ウマがパカラパカラと軽快なステップを踏んでは、竹人形たちが輪となって「えらいやっちゃ、えらいやっちゃ、よいよいよいよい♪」と踊っていた。

「どうしてみんな踊っているのかしらん?」

 小首をかしげる私だが、その時になってようやく気がついたのが、自分の視点の変化である。
 踊る阿呆どもを見下ろしていた。
 いまの私は盆踊りの中央に陣取っているやぐらのようなもの。
 麾下の者どもが踊っていたのは、私の成長を祝ってのことであったようだ。
 どうやら寝ている間にスクスク育ってしまったらしい。
 にらんだ通りであった。
 あの緋色の石を吸収することこそが成長のカギであったのだ。

「やれやれ、ようやく私もひと皮むけてタケノコを卒業か」

 これで私も一人前の青竹だ。
 だが浮かれることなかれ。あくまでスタートラインに立ったのに過ぎないのだから。
 あのパンダクマと戦うにはまだまだ力が足りない。もっともっと緋色の石を吸収して力を蓄えねばならぬ。

「首を洗って待っていろよ、パンダクマ」

 いずれ駆逐してやる。そして渓流の向うをも我が領土としてくれる。
 ばかりか、ゆくゆくは見渡すかぎりを青々として広大な竹林にしてくれようとも。
 そしてその中心にて私は世界樹みたいなビッグな竹となり、大竹林の女王として君臨するのだ。

 壮大な野望を胸に私は「ハーッハッハッハッ」と高笑い。
 これに呼応して竹人形どもも「えい、えい、おー」とばかりに拳を突きあげ気勢を揚げる。

「諸君、竹林の夜明けはちかいぜよ!」

 ますます盛り上がる我ら一同。
 だがしかし、その時のことであった。
 ふと我が身を見た私は目が点になった。
 てっきりタケノコを卒業して青竹に進化したものとばかりおもっていたのに、そこにあったのはドデカいタケノコだったから。

「……って、あれ?」

 大きいけれども、まごうことなきタケノコである。
 だからあいかわず皮にくるまれた坊やのまま。
 まさかの展開に私はショックのあまり固まった。


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