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013 炎のデカトラ
しおりを挟む竹林の静寂にふさわしくない声が響く。
「うひゃひゃひゃひゃ、圧倒的ではないか、我が陣営は」
壮観な眺めに、私は斜め四十五度での高笑いが止まらない。
ズラリと居並ぶのは竹武者たち、その数六十体。
剣、槍、弓で武装した者を二十体ずつ、三部隊編成だ。
これとは別に五体からなる竹忍者たちの斥候部隊もいる。
兵を率いるのは騎馬武者に出世したサクタである。
だかこれだけじゃない。
私のお世話をしてくれる竹女官、身辺警護を担う竹僧兵などもいる。
いっきにラインナップと数が増えたのには、ちゃんと理由がある。
最初のうちは、手づからちまちま作っていた。
でも、さすがにちょっと飽きてきたところで、私はピコンとグッドアイデアを閃く。
「そうだ! 製造も竹人形にやらせりゃいいじゃない」
かくして作り出されたのが竹工作兵であった。
細々とした身の回りの小物から、陣地の構築などの土木工事までを担う黒鍬の上位版だ。
彼らにほぼ丸投げすることで、私はオートメーションの生産ラインを手に入れた。
とはいえ製造スピードがアップしたから、せっせと材料を提供することになって、私はかえって忙しくなってしまったけれども。
ただいま戦力を増強中。
順調である。さりとてまだ渓流の向うにちょっかいを出そうとはおもわない。
なぜならあのパンダクマが、私の想像をはるかに超えるヤバさであったことが判明したからだ。
あれはつい三日ほど前のことである。
着々と充実していく陣営の発展ぶりに、すっかり気が大きくなって調子に乗っていた私は「そろそろアイツのタマ、獲ったるかのぉ」とニヤリ。
いまおもえば若気の至り、厚顔無恥にて穴があったら入りたい。
けど、とにもかくにもあの時の私はそう考えた。
だからとていきなり押しかけるほど無謀ではない。
まずはパンダクマの様子を探ろうと、竹忍者を斥候に差し向ける。
で、渓流沿いをうろちょろさせていたら、都合よく対岸の川原にてパンダクマの姿を発見する。
そして竹忍者と同期した私は、彼の目を通じて驚愕の光景を目の当たりにすることになった。
〇
「グルルルルルルル……」
うなり声をあげて猛っていたのはトラのような肉食獣。
にしても大きい……中型のトラックほどもあるではないか。
こんなのアリなの? もはや怪獣じゃない! でもトラと竹林って絵になるよね。
見るからに凶暴そうな面構えにて、黒い爪は鉄をもたやすく切り裂き、白い牙は岩をもガリガリと噛み砕きそう。
そんなおっかないデカトラと対峙しているのはパンダクマだ。
パンダクマはグリズリーと似たような体格なので、体重こそは500キロを越えているだろうけど、立ち上がったところで、背丈はせいぜい二メートルちょいといったところ。
単純にサイズだけを比べたらデカトラが圧倒している。
だというのに二頭の様子がおかしい。
パンダクマは悠然と立っており、その周囲をデカトラが右へ左へとうろうろしているではないか。
これではまるでデカトラの方がビビっているかのよう。
かとおもえば、そんなデカトラの全身の毛が突如として逆立り、ボウッ!
その身が真っ赤な炎に包まれた。
ファイヤーデカトラに変身しちゃった!
川原に転がる石の表面がじゅわりと溶けるほどの高熱ゆえに、渓流の水の一部も蒸発してしまい、一帯が蒸気に包まれた。
それすらもがただの蒸気じゃない。
うっかり吸い込んだら、たちまちノドがただれ、肺をやられるほどの熱を含んだもの。
死へと誘う蒸気の靄にまぎれて、ファイヤーデカトラが動く。
大きな体からは想像もつかないような俊敏さにて、シュタタタタ。
地を駆けたとおもったら、跳躍にてパンダクマへと躍りかかった。
パンダクマの身がゆらり。
無造作にのばしたのは左腕だ。炎や熱なんてものともせず。
むんずと掴んだのはファイヤーデカトラのノド元である。下方からすくい取るようにして、ひょいとね。
かとおもえば、グキリ。
鈍い音がして捻じれたのはファイアーデカトラの首。
支えを失い頭部の天地が逆転する。全身にまとっていた炎も消えてしまった。
ファイヤーデカトラとパンダクマの世紀の対決。
が――フタを開けてみれば戦いにすらもなっちゃいない。
圧倒的であった。
文字通り片手でひと捻りである。
竹忍者を通じて戦いの一部始終を観ていた私は愕然とする。
「いくらなんでも強すぎる……ヤバいなんてもんじゃない」
デカトラとてかなりの強者だったというのに、なんだこれは?
あんなバケモノ、本当にどうにかできるの?
のびていた私の鼻はぺっきり根元からへし折られた。
しかし、真なる恐怖は直後に襲ってきた。
不意にバッとふり返ったパンダクマがこっちの方を見たのである。
渓流を挟んでかなり離れたところから、こっそりと監視していたのにもかかわらずに、気づかれた!?
一瞬、目が合ったような気がした。
心臓をぷちりと握り潰されたかのような感覚と恐怖に襲われて、ゾゾゾゾゾ。
考えるよりも先に生存本能が働く。
私の意識はタケノコへと逃げ帰り、竹忍者は脱兎のごとくその場を離脱した。
……とまぁ、非常にショッキングなシーンを目撃してしまった私は猛省したという次第。
ね? とてもカチ込みをかけようとか思えないでしょう。
いくら竹人形を改良して増やしたとしても、勝てなさそうである。
ここはやはり私自身が成長するしかない。
はやくひと皮もふた皮もズルむけないと……
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