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010 プルス、ウルトラ!
しおりを挟む森の奥にヤバそうなクマさんがいた!
ふざけたパンダ柄だったけど、陽気な見た目にダマされてはいけない。
あれはちょっかいを出したらダメだ。
小賢しい知恵でどうにかなるレベルの相手じゃない。
どう逆立ちしたって『いま』の私では勝てない。
格がちがう……
ひと目でそのことがわかった、はっきりとわからされてしまった。
幸いなことにヤツの縄張りはあの渓流の向う側のようだ。
ちょうど川が境界線となっている。わざわざこちらに渡ってくるつもりはないらしい。
「よかった……。もしもマジもんのパンダで竹とか笹をムシャコラするタイプだったら、私の転生竹林スローライフは早々に終了していたよ」
ふぃ~、危ない危ない。
だがこのまま勢力を拡大していけば、いずれヤツとはかち合うことになる。
それにあのパンダクマだけじゃない。他にも強敵や難敵がいる可能性だってある。いや、きっといるのだろう。
この世界でも食物連鎖、生態系ピラミッドが成立している以上は、私の天敵だって存在しているはずだ。
生きることは戦いだ。生存競争の果てには全身全霊を持って挑まねばならぬ相手がきっと立ち塞がる。
越えねばならない壁、生き残りを賭けた避けられない戦い、来たるべき日はさほど遠くはない。
そんな予感がヒシヒシとする。
レベルアップ、自己強化が必要だ。それもできるだけ早いうちに。
でも肝心の方法がわからない。いまの私はあまりにも無知で、そしておもっていたよりもずっと非力っぽい。
竹林そのものは光合成と狩った獲物で栄養を補うことで順調に育っている。
なのに私の意識が宿っているタケノコだけがさっぱりだ。
いや、いちおう背はのびているんだよ。しかし通常の竹の成長具合に比べると、あんまりにも微々たるものにて……
「異世界の竹……それも意識を持つ特殊なモノともなれば、たんに食って寝るだけじゃ足りないのかもしれない」
ゲームみたいに敵を倒して経験値ゲット?
う~ん、それならばすでにけっこうな数を狩っているから、かなり貯まっているはず。
にもかかわらず、たいして育っていないということは……ちがうか。
となればエサに問題がある?
もしくはエサの摂取方法が間違っている?
「あぁ~、もどかしい。せめて自分の足で動けたら、もっといろいろ試せるのに」
動けぬ我が身を呪いながらぶつぶつ、私はボヤキながらせっせと手を動かしていた。
作っていたのは竹人形だ。
竹人形――
そのものズバリ、竹で作られた人形のことである。
スンスン匂いをかげば、ほんのり薫るは竹の高貴な香り。和室のインテリアにマッチする素朴な佇まい。さりとて独特の風合いが醸しだす愛らしさ、美しさはけっして他に見劣りするようなこともなく。
造形は三頭身のコケシみたいにデフォルメされたデザインのモノから、うっとり見惚れておもわずタメ息が零れるような、色香のあるモデル体型のモノまで。
圧巻なのは細く、くしけずった竹糸による毛の表現技法である。
雅な女性の人形の場合、多いのだと七千本ほども使用するという。これがまた優麗にて素晴らしいのだ。
とはいえ私はまだ皮もろくにむけていない未熟な若輩者、職人の超絶技巧を再現するのはムズカシイ。
だが理想は高く、志を胸に抱き邁進する所存である。
そしてこれもまた訓練の一環だ。
細々とした作業をくり返すことで、体と能力を自在に扱えるようになるための。
嘆いてばかりいてもしょうがない。
出来ることからコツコツと、である。
「フフフ、かわいい竹人形が完成した」
かつて見学した竹人形の里の博物館。あそこに展示されていた名工らの作品に比べたら児戯にも等しいが、初めてにしてはなかなかであろう。
と自画自賛しておく。
私は褒めればのびるタイプなのだ。でもいまは誰も褒めてくれる人がいない。だから自分で自分を絶賛し褒め称える。
記念すべき一体目はその辺に飾っておいて、二体目に着手しようとほんの少し目を離したところ――
アレ? 人形の位置が変わってる。
「……いやいやいや、まさかねえ」
さすがに作った人形が勝手に動いたらホラーである。
だから気のせいと流すことにしたのだけれども。
カタカタカタ……
作った人形が小刻みに震えていた。
あんまりにもビックリしたものだから、おもわず二度見してしまったよ。
でも、たしかにカタカタしている。動きは紙相撲みたいで単調だけれども、けっしてかんちがいとかではない。
「ハッ、もしかして!」
私はピコンとあることを閃いた。
それを確かめるべく急ぎ二体目も作ってみたところ、やはりそうだ。こちらもカタカタ動く。
この事実が私の思いつきが正しかったことを証明していた。
私はタケノコであり、竹であり、竹林である。
一にして全、全にして一、この竹林は私の体にして領域、すべてが……とまではさすがに言い過ぎだけれども、ある程度は自由に弄れちゃう。
好きな種類の竹をポコポコ生やせるし、にょきにょき成長も促進できるし、あれこれといろんなモノに加工もできる。
しかしこの能力には、さらに先があったようだ。
「プルス、ウルトラ!」
どうやら私は竹でこさえた物を動かせちゃうっぽい。
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