上 下
10 / 88

010 プルス、ウルトラ!

しおりを挟む
 
 森の奥にヤバそうなクマさんがいた!
 ふざけたパンダ柄だったけど、陽気な見た目にダマされてはいけない。
 あれはちょっかいを出したらダメだ。
 小賢しい知恵でどうにかなるレベルの相手じゃない。
 どう逆立ちしたって『いま』の私では勝てない。

 格がちがう……

 ひと目でそのことがわかった、はっきりとわからされてしまった。
 幸いなことにヤツの縄張りはあの渓流の向う側のようだ。
 ちょうど川が境界線となっている。わざわざこちらに渡ってくるつもりはないらしい。

「よかった……。もしもマジもんのパンダで竹とか笹をムシャコラするタイプだったら、私の転生竹林スローライフは早々に終了していたよ」

 ふぃ~、危ない危ない。
 だがこのまま勢力を拡大していけば、いずれヤツとはかち合うことになる。
 それにあのパンダクマだけじゃない。他にも強敵や難敵がいる可能性だってある。いや、きっといるのだろう。

 この世界でも食物連鎖、生態系ピラミッドが成立している以上は、私の天敵だって存在しているはずだ。
 生きることは戦いだ。生存競争の果てには全身全霊を持って挑まねばならぬ相手がきっと立ち塞がる。
 越えねばならない壁、生き残りを賭けた避けられない戦い、来たるべき日はさほど遠くはない。

 そんな予感がヒシヒシとする。
 レベルアップ、自己強化が必要だ。それもできるだけ早いうちに。
 でも肝心の方法がわからない。いまの私はあまりにも無知で、そしておもっていたよりもずっと非力っぽい。

 竹林そのものは光合成と狩った獲物で栄養を補うことで順調に育っている。
 なのに私の意識が宿っているタケノコだけがさっぱりだ。
 いや、いちおう背はのびているんだよ。しかし通常の竹の成長具合に比べると、あんまりにも微々たるものにて……

「異世界の竹……それも意識を持つ特殊なモノともなれば、たんに食って寝るだけじゃ足りないのかもしれない」

 ゲームみたいに敵を倒して経験値ゲット?
 う~ん、それならばすでにけっこうな数を狩っているから、かなり貯まっているはず。
 にもかかわらず、たいして育っていないということは……ちがうか。
 となればエサに問題がある?
 もしくはエサの摂取方法が間違っている?

「あぁ~、もどかしい。せめて自分の足で動けたら、もっといろいろ試せるのに」

 動けぬ我が身を呪いながらぶつぶつ、私はボヤキながらせっせと手を動かしていた。
 作っていたのは竹人形だ。

 竹人形――
 そのものズバリ、竹で作られた人形のことである。
 スンスン匂いをかげば、ほんのり薫るは竹の高貴な香り。和室のインテリアにマッチする素朴な佇まい。さりとて独特の風合いが醸しだす愛らしさ、美しさはけっして他に見劣りするようなこともなく。
 造形は三頭身のコケシみたいにデフォルメされたデザインのモノから、うっとり見惚れておもわずタメ息が零れるような、色香のあるモデル体型のモノまで。
 圧巻なのは細く、くしけずった竹糸による毛の表現技法である。
 雅な女性の人形の場合、多いのだと七千本ほども使用するという。これがまた優麗にて素晴らしいのだ。

 とはいえ私はまだ皮もろくにむけていない未熟な若輩者、職人の超絶技巧を再現するのはムズカシイ。
 だが理想は高く、志を胸に抱き邁進する所存である。
 そしてこれもまた訓練の一環だ。
 細々とした作業をくり返すことで、体と能力を自在に扱えるようになるための。
 嘆いてばかりいてもしょうがない。
 出来ることからコツコツと、である。

「フフフ、かわいい竹人形が完成した」

 かつて見学した竹人形の里の博物館。あそこに展示されていた名工らの作品に比べたら児戯にも等しいが、初めてにしてはなかなかであろう。
 と自画自賛しておく。
 私は褒めればのびるタイプなのだ。でもいまは誰も褒めてくれる人がいない。だから自分で自分を絶賛し褒め称える。

 記念すべき一体目はその辺に飾っておいて、二体目に着手しようとほんの少し目を離したところ――
 アレ? 人形の位置が変わってる。

「……いやいやいや、まさかねえ」

 さすがに作った人形が勝手に動いたらホラーである。
 だから気のせいと流すことにしたのだけれども。

 カタカタカタ……

 作った人形が小刻みに震えていた。
 あんまりにもビックリしたものだから、おもわず二度見してしまったよ。
 でも、たしかにカタカタしている。動きは紙相撲みたいで単調だけれども、けっしてかんちがいとかではない。

「ハッ、もしかして!」

 私はピコンとあることを閃いた。
 それを確かめるべく急ぎ二体目も作ってみたところ、やはりそうだ。こちらもカタカタ動く。
 この事実が私の思いつきが正しかったことを証明していた。

 私はタケノコであり、竹であり、竹林である。
 一にして全、全にして一、この竹林は私の体にして領域、すべてが……とまではさすがに言い過ぎだけれども、ある程度は自由に弄れちゃう。
 好きな種類の竹をポコポコ生やせるし、にょきにょき成長も促進できるし、あれこれといろんなモノに加工もできる。
 しかしこの能力には、さらに先があったようだ。

「プルス、ウルトラ!」

 どうやら私は竹でこさえた物を動かせちゃうっぽい。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝
ファンタジー
「てめぇらに、最低のファンタジーをお見舞いしてやるから、覚悟しな」 異世界ノットガルドを魔王の脅威から救うためにと送り込まれた若者たち。 その数八十名。 のはずが、フタを開けてみれば三千人ってどういうこと? 女神からの恩恵であるギフトと、世界の壁を越えた際に発現するスキル。 二つの異能を武器に全員が勇者として戦うことに。 しかし実際に行ってみたら、なにやら雲行きが……。 混迷する異世界の地に、諸事情につき一番最後に降り立った天野凛音。 残り物のギフトとしょぼいスキルが合わさる時、最凶ヒロインが爆誕する! うっかりヤバい女を迎え入れてしまったノットガルドに、明日はあるのか。 「とりあえず殺る。そして漁る。だってモノに罪はないもの」 それが天野凛音のポリシー。 ないない尽くしの渇いた大地。 わりとヘビーな戦いの荒野をザクザク突き進む。 ハチャメチャ、むちゃくちゃ、ヒロイックファンタジー。 ここに開幕。

とりあえず逃げる、たまに頑張る、そんな少女のファンタジー。

月芝
ファンタジー
光る魔法陣、異世界召喚、勇者よ来たれ。だが断る! わりと不幸な少女が、己が境遇をものともせずに、面倒事から逃げて、逃げて、たまに巻き込まれては、ちょっぴり頑張って、やっぱり逃げる。「ヤバイときには、とりあえず逃げろ」との亡き母の教えを胸に、長いものに巻かれ、権力者には適度にへつらい、逃げ専としてヌクヌクと生きていくファンタジー。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

『あなたに愛されなくても良いのでもう来てくださらなくて結構です』他ハピエン恋愛短編集

白山さくら
恋愛
『あなたに愛されなくても良いのでもう来てくださらなくて結構です』など、すれちがいや両片想いなどを経て最終的にパッピーエンドな恋愛ストーリーをまとめました。 ※他のお話しも随時追加予定です

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

御者のお仕事。

月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。 十三あった国のうち四つが地図より消えた。 大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。 狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、 問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。 それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。 これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。

処理中です...