水色オオカミのルク

月芝

文字の大きさ
上 下
257 / 286

257 翡翠のオオカミ対黒まだらオオカミ

しおりを挟む
 
 黒まだらオオカミへと迫った九つの緑氷の剣。
 うち五本はガロンが放った影の槍にて弾かれました。
 ですがのこり四本は間隙をぬって、懐に飛び込む。
 これを待ちかまえていたのは、ガロンの前面に展開されたまるい影の盾。
 切っ先がふれたとたんに、飛んできた刃をすべてのみ込んでしまいました。
 敵に向かい駆けていた翡翠(ひすい)のオオカミ。
 周囲に殺気がふくれあがる。
 いち早くこれをさっしたラナ、すかさず右へとその身をはねた。
 直後に上空より出現した黒い穴から突き出た緑氷の切っ先が、さきほどまで彼女がいた場所を貫く。
 穴のように見えたのはガロンの産み出した影。
 空間を自在に行き来できる彼のチカラを用いた攻撃。
 影を経て、足下や頭上から次々と姿をあらわす刃を、ジグザグに動いてかわしきったラナ。勢いもそのままに口にくわえた緑氷の剣にて、ガロンへと斬りかかる。
 ガロンもまた口にくわえた漆黒の剣にて、これを迎え撃つ。
 正面から交わる両者の剣。
 剣身が弧を描いては、三合ばかしはげしく打ち合った後に、つばぜり合いに。
 拮抗するチカラとチカラ。
 が、ここでわずかながらにラナは体勢を崩されてしまう。
 その力場の変化を発生させたのはガロンの剣の形状。ラナの持つ剣の形状は真っ直ぐなモノなのに対して、ガロンの持つ剣はやや外側に反りがはいっており、まるで凍った坂道を滑るかのようにして、緑氷の剣に込めたチカラがそらされてしまった。
 翡翠のオオカミは勢いあまってつんのめり、重心が狂う。
 ほんのわずかな隙。いや、ふつうであれば隙とも呼べないほどのモノ。
 しかしガロンはそれを見逃さない。
 ラナの動きにあわせるようにして、自分の軸をズラし、するりと相手の側面へと回り込むと、逆手に切り上げるかのようにしてふるわれた瞬足の一刀。
 狙うは首筋。
 すんでで身をひねってかわした翡翠のオオカミ。
 なんとか致命傷は避けたものの、鋭い傷口からぷつぷつと血がわいて、胸元の毛を赤く染めた。
 だがラナもやられっ放しではない。
 かわすさいに大胆にもカラダ全体をおおきくひねって横回転をし、すくいあげるかのようにして放った斬撃にて、ガロンのアゴ下から右頬へかけてザックリと切り裂く。
 互いに一刀を受けたラナとガロンは、パッと飛び退り距離をとりました。

 剣技による接近戦は、ほぼ互角。
 ならばと次なる水色オオカミのチカラを先にふるったのはガロン。
 小さな水溜まりのような影をいくつも出現させると、周囲にこれを散開。
 そのすべてから一斉に飛び出してきたのは、先端が槍の穂先のようになった影の触手。
 これが翡翠のオオカミのカラダを串刺しにせんと、次々に迫る。
 一本一本がまるで生きているかのように、自在にうねってはヘビのように襲いかかる。
 石の床をもたやすくえぐり貫く破壊力を持つ、嵐のごとき怒涛の攻め。
 なまじ受けるのは危険と判断したラナは、剣を納めると避けることに専念する。
 翡翠のオオカミが黒刃の雨の中を駆け抜ける。
 鍛えあげられた足が、研ぎ澄まされたその感覚が、磨きあげられた武技が、これまでに練りあげたそのすべてが、回避という一点にこめられたとき、ラナは緑の風と化す。
 当たらない。ガロンの放つ攻撃がことごとくかわされるばかり。
 どんなに強力な攻撃とて当たらなければ意味がないと、あざ笑うかのようにラナは足を動かしつづけ、反撃の機会をうかがう。

 はげしい攻防。
 いっしゅんでも気を抜いたら命取りになりかねない状況にて、水面下で次の一手をくり出し、均衡を破ったのはまたしてもガロン。
 狩りの定石。
 それは獲物をやみくもに追いかけ回すのではなくて、より狩りやすい場所へと誘い込むこと。
 狩人は黒まだらオオカミのガロン。
 そして狙われたのは翡翠のオオカミのラナ。
 ワナはとっくに設置されてあったのです。それもいたるところに。
 グニャリとした足下の異様な感覚にラナが気づいたときには、すでに手遅れでした。
 ほんのわずかながらも、右の前足が沈みこんでいたのは水溜まりのような影の中。
 影をあやつり空間にも関与するガロンのチカラ。それを用いたワナ。落とし穴とはとても呼べやしない、少しだけ掘り下げた程度のクボ溜りのようなモノ。
 たったそれだけのモノが緑の風の流れを止めてしまう。
 それとて時間にすればまばたきする程度。
 でもガロンにはそれだけで十分でした。
 狩人の放った漆黒の凶刃が獲物のカラダを刺し貫き、血煙が舞う。
 あたりに死を予感させる濃厚なニオイが立ち込める。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 天剣を産み、これを育て導き、ふさわしい担い手に託す、代理婚活までが課せられたお仕事。 いきなり大役を任された辺境育ちの十一歳の小娘、困惑! 誕生した天剣勇者のつるぎにミヤビと名づけ、共に里でわちゃわちゃ過ごしているうちに、 ついには神聖ユモ国の頂点に君臨する皇さまから召喚されてしまう。 で、おっちら長旅の末に待っていたのは、国をも揺るがす大騒動。 愛と憎しみ、様々な思惑と裏切り、陰謀が錯綜し、ふるえる聖都。 騒動の渦中に巻き込まれたチヨコ。 辺境で培ったモロモロとミヤビのチカラを借りて、どうにか難を退けるも、 ついにはチカラ尽きて深い眠りに落ちるのであった。 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第二部、ここに開幕! 故国を飛び出し、舞台は北の国へと。 新たな出会い、いろんなふしぎ、待ち受ける数々の試練。 国の至宝をめぐる過去の因縁と暗躍する者たち。 ますます広がりをみせる世界。 その中にあって、何を知り、何を学び、何を選ぶのか? 迷走するチヨコの明日はどっちだ! ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」から お付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝
児童書・童話
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 ひょんなことから、それを創り出す「剣の母」なる存在に選ばれてしまったチヨコ。 辺境の隅っこ暮らしが一転して、えらいこっちゃの毎日を送るハメに。 第三の天剣を手に北の地より帰還したチヨコ。 のんびりする暇もなく、今度は西へと向かうことになる。 新たな登場人物たちが絡んできて、チヨコの周囲はてんやわんや。 迷走するチヨコの明日はどっちだ! 天剣と少女の冒険譚。 剣の母シリーズ第三部、ここに開幕! お次の舞台は、西の隣国。 平原と戦士の集う地にてチヨコを待つ、ひとつの出会い。 それはとても小さい波紋。 けれどもこの出会いが、後に世界をおおきく揺るがすことになる。 人の業が産み出した古代の遺物、蘇る災厄、燃える都……。 天剣という強大なチカラを預かる自身のあり方に悩みながらも、少しずつ前へと進むチヨコ。 旅路の果てに彼女は何を得るのか。 ※本作品は単体でも楽しめるようになっておりますが、できればシリーズの第一部と第二部 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!」 「剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?二本目っ!まだまだお相手募集中です!」 からお付き合いいただけましたら、よりいっそうの満腹感を得られることまちがいなし。 あわせてどうぞ、ご賞味あれ。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
児童書・童話
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

こちら第二編集部!

月芝
児童書・童話
かつては全国でも有数の生徒数を誇ったマンモス小学校も、 いまや少子化の波に押されて、かつての勢いはない。 生徒数も全盛期の三分の一にまで減ってしまった。 そんな小学校には、ふたつの校内新聞がある。 第一編集部が発行している「パンダ通信」 第二編集部が発行している「エリマキトカゲ通信」 片やカジュアルでおしゃれで今時のトレンドにも敏感にて、 主に女生徒たちから絶大な支持をえている。 片や手堅い紙面造りが仇となり、保護者らと一部のマニアには 熱烈に支持されているものの、もはや風前の灯……。 編集部の規模、人員、発行部数も人気も雲泥の差にて、このままでは廃刊もありうる。 この危機的状況を打破すべく、第二編集部は起死回生の企画を立ち上げた。 それは―― 廃刊の危機を回避すべく、立ち上がった弱小第二編集部の面々。 これは企画を押しつけ……げふんげふん、もといまかされた女子部員たちが、 取材絡みでちょっと不思議なことを体験する物語である。

にゃんとワンダフルDAYS

月芝
児童書・童話
仲のいい友達と遊んだ帰り道。 小学五年生の音苗和香は気になるクラスの男子と急接近したもので、ドキドキ。 頬を赤らめながら家へと向かっていたら、不意に胸が苦しくなって…… ついにはめまいがして、クラクラへたり込んでしまう。 で、気づいたときには、なぜだかネコの姿になっていた! 「にゃんにゃこれーっ!」 パニックを起こす和香、なのに母や祖母は「あらまぁ」「おやおや」 この異常事態を平然と受け入れていた。 ヒロインの身に起きた奇天烈な現象。 明かさられる一族の秘密。 御所さまなる存在。 猫になったり、動物たちと交流したり、妖しいアレに絡まれたり。 ときにはピンチにも見舞われ、あわやな場面も! でもそんな和香の前に颯爽とあらわれるヒーロー。 白いシェパード――ホワイトナイトさまも登場したりして。 ひょんなことから人とネコ、二つの世界を行ったり来たり。 和香の周囲では様々な騒動が巻き起こる。 メルヘンチックだけれども現実はそう甘くない!? 少女のちょっと不思議な冒険譚、ここに開幕です。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

処理中です...