水色オオカミのルク

月芝

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214 ダスコールの武芸大会

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 大会専用に用意された武具と防具に身をつつんだ者同士が舞台上で戦い、存分に武芸を競っては雌雄を決します。
 ダスコールの武芸大会では一対一の個人戦と三対三の団体戦が行われる。
 競技場につめかけた観客たちの声援の中、ひときわ人気を集めていたのはドラゴンラバーの面々。彼女たちが参加していたのは団体戦のほう。
 女たちの快進撃はとまることなく、これに勝てば次は早や決勝というところまで勝ち上がっていました。

 息つくまもなく、くり出される鋭い槍の穂先をかわし、細身の剣の一撃を相手の胸元に突き入れると、うすい土色をした鎧が赤くかわって粉々に砕けてしまう。

「きゃあー! ステキ―! レプラさまー!」

 先鋒にて勝利をおさめた黒髪の麗人。
 彼女が観客席に向けて軽く手をあげただけで、黄色い声援がまき起こる。
 本日、だれよりも客席にあつまった女性たちから熱く支持をされていたのはレプラでした。
 まるでお芝居から飛び出したかのような、貴公子然としたスラリとした姿に、立ち居振る舞い。冷徹なまなざしにゾクゾクさせられちゃうと、断トツの女性人気を獲得。もっとも本人は困惑を隠せないでいましたが。

 次鋒にて舞台にあがったのは、腰までのびた淡いピンク色の髪が優雅にゆれる美女。
 すると今度は野太い男たちの声援が一斉に客席から起こり、つづいて斧と槍が合体したかのような武器であるハルバートを手にした大柄な対戦相手には「ヒドイことをしたらしょうちしねえぞ」とのおどし文句や「とっととくたばれ」との罵声が飛んでくる。
 相手にとってはなんともやりにくい空気の中ではじまる試合。
 だがひとたび戦いがはじまれば、外野の声なんて関係ないと、真剣に武器をふるう男。
 叩きつけるかのようにして放たれた一撃。あまりの勢いにて、当たり所がわるかったら大ケガになりかねない。
 それをひょいっと軽く手の甲にていなしてみせたのはラフィール。
 彼女は武器を携帯しておらず、手甲やスネあてをつけているだけ。いちおうは徒手空拳を得意とする者用にと、大会側が用意していたモノ。
 しかし素手と武器とでは圧倒的に間合いがちがいすぎるし、この大会ではルール上、うっかり防具に攻撃をもらうと、とたんに鎧の色が赤となり敗北してしまうので、彼女以外には使用している者はだれもいませんでした。
 もっとも似つかわしくない華奢(きゃしゃ)な女性が、もっとも不利な手段で戦っていることだけでも驚愕に値するというのに、それを使いこなしている。
 戦う姿の可憐にして、なんと見事なこと。
 舞踏会にてダンスに興じる令嬢のごとく、軽やかなステップにて舞う。髪が動きにあわせヒラリと弧をえがきゆれている。
 あわせて十八もの攻撃をいなしきったとき。
 ラフィールの細身は対戦相手の懐にありました
 やさしく触れるかのようにて、そっと胸部にそえられた女の左手。
 対戦相手の背筋にゾクリと悪寒が走って、あわてて距離をとろうとしたときには、すでに手遅れ。
 衝撃が全身を突き抜け、たったの掌底一発にて、鎧が赤くなって砕けてしまいました。
 これにて勝負あり。
 次鋒戦もドラゴンラバーの勝利。
 なおこのあと、長らくつづいた「ラフィール」コールにて、なかなか次の試合がはじめられませんでした。

 最終戦は女戦士と男戦士の、ごいつ者同士の対決。
 この団体戦では、一人が連戦してもいいルールなので、たった一人で三人抜きをすれば逆転の目もまだあります。だから相手はまだまだやる気十分でしたが、いかんせんフレイアの機嫌がわるかった。
 レプラやラフィールのときと比べると、あきらかにガクンと減る応援の声。
 火の消えた暖炉のような寒々しさ。
 あまりの少なさにつき、客席から手をふって声援を送ってくれる神官のエリエールの声がよく聞こえるほど。
 べつに見物客の応援なんていらないけれども、こうもあからさまにされると、さすがにおもしろくない。
 で、つい八つ当たり気味にチカラをこめて無造作に横にないだ大剣。
 相手の武器をへし折り、その身ごと場外へと吹き飛ばして試合終了。
 すごいけれども華がない勝利につき、パチパチと拍手もまばら。
 ややくさり気味に仲間のところにもどったフレイアを、「まあまあ」とラフィールがなだめる。
 こうして早々に決勝進出を決めたドラゴンラバー。
 彼女たちが見守る前にて、始まったもうひとつの準決勝戦。
 それを目にしたフレイアが「おや?」とつぶやきました。

「どうした?」

 レプラがたずねると、「知った顔がいる」と答えたフレイア。
 彼女の視線は舞台隅にて控えている一人の屈強な戦士へと注がれていました。

「あいつはガントンじゃないか」
「お知り合いですか?」とラフィール。
「まえに二度ほどいっしょに仕事をしたことがあるヤツだ。傭兵としても冒険者としても一流どころだよ」
「ほぅ、あなたがそれほどホメるだなんて……、さてはホレたクチですね」

 からかう調子のレプラ。
 ですが黙ってうなづかれるとはおもいもよらず、ちょっとビックリ。

「そういえばフレイアは、あの手の道を突きつめた感じの殿方が好みでしたね」

 ラフィールが言ったとおり、フレイアの好みは職人の中の職人とか、剣にすべてを捧げるだとか、寝食を忘れてひとつの道に没頭するような男性。ゆえに戦士の中の戦士も大好物。ですが「フラれちまったけどね」とあっさりしたものです。
 ちなみにフラれた理由は単純にタイプじゃないそうです。
 なお戦士ガントンの好みは、小柄な女性。
 いえ、正しくは小柄で胸のあたりがかぎりなくツルペタな、子ども子どもした感じのかわいらしい女性。
 ウルル姫なんてモロに好みなんじゃないかなと聞かされたラフィールとレプラが、おもわずジト目になったのも無理からぬこと。


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