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175 滅びの旋律
しおりを挟む滅びの紅砂からパイロルーサイトの主都を守るために、各国から派遣された五つの軍勢のうち、はやくも二つを失ったところで広域結界を発動。
序盤は一方的に攻められるばかりにて人間たちの完敗。
ですが魔女ミラのカミナリ魔法の助力にて、どうにか総崩れせずにすんだ軍は、すぐさま態勢を整えて動きだしました。
彼らとてダテに異国の地にまで派遣されてきたわけではないのです。
本国では有数の実力者揃いにつき、先の前線での戦いぶりなどをつぶさに観察して、イナゴたちが突進力には優れているが、側面がまったくの無防備だと気がつきました。
そこで主都の結界が発動されたのを受けて、これをオトリとし敵勢を正門前に引きつけたたところを、左右からいっきに叩く作戦をとることにしました。
主都の結界を盾とするならば、迫るイナゴの群れはさながら矛。
はげしく衝突をくり返す両者。
一方的に攻め手がしかけている格好になりがちですが、守る側もおとなしくはしていません。
雷鳴がとどろき閃光が縦横無尽に走る。ミラのカミナリ魔法です。都へと殺到してくれているので敵が一か所にまとまっており、いなづまがよく当たること。
地面に埋め込まれていた火薬を詰めた樽が爆発し、盛大に火柱をあげ、大地にまかれた油によって火の海が出現。
炎と煙にまかれて、数多のイナゴたちがチカラ尽きては、ポトリポトリと地面に落ちて、燃えつき灰となる。
それでも巨大な矛は、その穂先を狂ったように突き動かし続ける。
人間たちの軍勢が、無防備な側面から何度も何度もはげしい攻撃をしかけているというのに、それでも滅びの紅砂はとまらない。
一匹、二匹、それが十匹、百匹となり、やがて千や万を超えるイナゴたちが結界へとはりつき始めました。
設置された魔道具に魔力を注ぎ込み続けなければならないという不便さはあるものの、主都をおおっている広域結界は、大砲の一撃ぐらい軽くはね返すほどに強力な代物。
いかに数が集まったとて、ムシごときのチカラではとても歯がたたない。だからこそのこの作戦だったのですが……。
ドンドンとはりつくイナゴの数が増えてゆき、ついに視界の大半がムシたちの腹に埋め尽くされたとき。
これを結界越しに見ていたミラはゾクリと悪寒を感じます。
「なんだろう、ものすごくイヤな予感がする」
彼女がそうつぶやいた次のしゅんかん、結界にはりついていたイナゴたちが、一斉に薄い羽をゆっくりと動かしはじめました。
無数の羽が上下して、ブブブと不快な音が戦場に鳴りひびく。
あまりの騒音におもわず自分の耳を両手でふさいだミラや、周囲にいた兵士たち。頭の奥にてガンガンと半鐘を打ち鳴らされているようで、とても耐えられません。
それでもなんとか倒れるのをこらえて片ヒザをつき、前方をにらみつけていたミラが目撃したのは、イナゴたちのか弱く、うすく、もろいはずのツバサが、しだいに動きをあわせて、一糸乱れぬ連動を見せた姿。
バラバラだった羽音が完全に一つに重なる時、滅びの旋律が産まれる。
音程、音域、音調、なにもかもが寸分たがわぬ奇跡の合奏。
たった一音、それが大気をふるわせたとき、主都をおおっていた結界に無数の細かいヒビが走り、それがあっという間に全体へと広がったかとおもえば、これを粉々に砕いてしまったのです。
ついに矛が盾を貫く!
紫眼のミラはとっさに自分の周囲を青い閃光でかこみ、身を守るためのいかづちの檻を出現させました。
周囲にいた数人の護衛の兵士らは、運よくこの中にまぎれこめたので、難を逃れましたが、それ以外の大部分の者たちが、イナゴの波に呑み込まれて姿を消すことに。
無防備となった主都に雪崩こんでくる滅びの紅砂。
捕食する側は、たくさんのごちそうを前にして、カチカチとうれしそうに牙を鳴らす。
たちまち怒号と悲鳴が起こって、それが都中へと波及していく。じきにあちらこちらに火の手も。
とうとう城壁の内外にて戦いがはじまってしまいました。
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