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164 滅びの紅砂
しおりを挟む荒れはてた死の森を抜けて、ふたたび命の息吹があふれる地へと足を踏み入れた水色オオカミのルクと子ザルのナナカラ。
川をさかのぼること、さらに一日。
彼らはついに群れを見つけました。
場所は山のふもとにあった洞窟。入り口がからみあったツル草に隠されており、ちょっと見にはわからないようになっている。
ですがその入り口に近づいたとたんに、水色オオカミは雄々しい金毛のサルたちに幾重にもとりかこまれました。背丈が大人の人間の男性ほどもあるでしょうか。みな腕が太くたくましいカラダをしています。
ルクが事情を説明しようと口を開くよりも先に言葉を発したのは、ずっと背中にしがみついていたナナカラ。
「まって! ルクはおいらをここまで連れてきてくれたんだ。オオカミだけど、いいオオカミなんだよ」
仲間の子どもの姿を確認し、少しだけ態度を軟化したサルたち。
すると彼らをかき分けるようにして姿をあらわしたのは、ナナカラの両親でした。
ぴょんとルクの背から飛び降りたナナカラは、そちらへ駆け寄ります。
「お父ちゃん、お母ちゃん」
「ナナカラ、よかった、ほんとうによかった」
「このいたずらもんが。どれだけ心配したと思っている」
数日ぶりに再会した親子。
川に落ちて行方不明となり、その間に住処の森があのようなことになってしまい、さすがにもうダメかとあきらめかけていた両親。
泣きながらありがとうと何度も頭をさげられて、ルクのほうがかえって恐縮しっぱなし。
仲間の命を救うだけでなく、わざわざここまで送り届けてくれたとわかって、水色オオカミはサルたちの群れの客人として迎えられました。
この洞窟はいざというときの避難場所として、彼らが確保していたところ。冬場の食糧の貯蔵庫もかねているそうで、当面の暮らしはなんら心配いらないそうです。
そしていざというときには、ここに向かうようにとの取り決めが、群れではなされていたそうですが、初耳です。
ちらっとルクがナナカラを見たら、プイッとあっちを向いてしまいました。
どうやらすっかりわすれていたみたい。
まぁ、まだちいさいですからしようがないですよね。
こんなたいへんな時にもかかわらず、仲間の無事の帰還と客人のためにと、サルたちは夜にささやかながらも宴会を開いてくれました。
金毛のサルたちは、とっても恩義に厚い性格のようです。
宴のさなかにルクに話しかけてきたのは、足下にまでも届きそうな長いひげのサル。
長老格の一人の彼は古い言い伝えなどにもくわしいらしく、仲間内では森の賢者とよばれているんだとか。
水色オオカミについても知っており、ルクと彼がしばし話し込んでいると、会話の中で出てきたのは今回の一件について。
森の賢者とよばれるサルは、「おそらくこれは『滅びの紅砂』のしわざであろう」と言いました。
滅びの紅砂。
それは過去にも何度か地の国の世界各地で確認されている現象にて、巻き込まれたが最後、生きているモノすべてが死んで、土地が滅んでしまうんだとか。
はるか遠くに紅い砂塵が舞ったとおもったら、あっという間に迫って来て、空をおおいつくし、大地のすべてをたちまち呑み込む。そしてあとには何も残らない。
これまでにいったいどれほどの森や生き物たちが犠牲になったのかは、だれにもわからないという。
なんともおそろしい話を聞いて、ブルルと肩をふるわせた水色オオカミ。
今回、このサルたちが奇禍からまぬがれたのは、たまたま森でも一番高い木の上にのぼっていた若者が、いち早くに西の空の異変に気がついたから。
報告を受けて、古老たちがすぐに災いの前兆と判断し、すぐさま避難をはじめたんだとか。もしも対応が遅れていたら、きっと多くの仲間たちが犠牲になっていただろうとのことでした。
長老格のサルからこの話を聞いて、ルクは感心しきりです。
古い言い伝えを知り、先人たちの教えを守り、若者たちがそれを知るお年寄りにちゃんと敬意を払い、老若男女がお互いに支え合っている群れだからこそ、彼らは無事に逃げおおせることができたのですから。
火の国の弓の街にて、自身の無力さを痛感したルクからすると、とっても頭の下がること。
それと同時に考えずにはいられません。
もしも滅びの紅砂の進路上に人間たちの都や国があったら、どうなるのかと。
はたして彼らはここのサルたちのように、一致団結して、ことに当たれるのでしょうか?
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