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136 祝賀会
しおりを挟む皇龍の城にある大広間。
そこにつめかけていたのは、とてもたくさんのドラゴンたち。くり広げられていたのは、飲めや歌えの大さわぎ。
第二姫ラフィールの石化がとけた祝賀会が開かれていたのです。
奥の上座にてどっしりとかまえて、手にした盃の中身を豪快に飲み干しては、「めでたい、めでたい」と言っていたのは、金色の大きなドラゴン。彼こそが現皇龍王。
そのとなりには細かい刺繍にて複雑な模様がほどこされた銀色のスカーフみたいな布にて、目元を隠している真紅のドラゴンの姿がありました。
彼女が王妃パランティア。至高の竜眼の持ち主にして、ウルルやラフィールのお母さんです。
王と王妃より一段下がったところにある席にいたのは、四男三女の子どもたち。
さらに下の段からは皇龍の一族に連なる者たちが、つらつらと並んで座っており、正面からみるとひな壇のよう。
みんなが喜色にて浮かれている会場。その中央に特設された台の上には、花に埋もれて横たわる水色オオカミの子どもの姿がありました。
ラフィールの精神世界から戻ったルクは、あれからずっと眠り続けていたのです。
だれかの心にじかにふれるというのは、それだけつかれるということ。
こんこんと丸二日も寝り続けていたルク。
時間の感覚がのんびりしており、気が長いはずのドラゴンたちが、これにじれて彼が目覚めるよりも先に、祝賀会を開いてしまったのです。それだけみんなラフィール姫の目覚めがうれしかったのでしょう。
とはいえ、奇跡をなした大恩人をほったらかして、その席に招待しないなんて皇龍の名がすたる。
そこで王さまは、こんな特別席を設けてまで、寝たままの水色オオカミの子どもを宴会へと、半ば強引にひっ張りだしたのですが……。
「あちきには、捧げられたあわれな供物にしかみえぬのじゃ」とは末妹のウルル。
酒を飲んでは陽気に歌って、台座の周りにてはしゃぎ、ずんどこ踊っているドラゴンたち。
幼女の目には、まるでもらった生贄(いけにえ)をよろこんではしゃいでいる姿にしか見えない。
「わたしには、お葬式にみえるわね」とはラフィール。
たくさんの色とりどりの花にうもれている水色オオカミ。
話だけを聞けばすてきにおもえる状況なのですが、実際に目にするとかなり印象がかわってくるから、とってもふしぎ。そなえられた花に囲まれるのと、咲き誇るお花畑にいるのとではぜんぜんちがう。
ひょっとして石像のときの自分もあんな風だったのかしらと、悩ましげな表情を浮かべていました。
「アレはないね」「しゅみがわるい」「いまだから言うけど、石化した我が子をまつるのもヘン」「まえまえから感覚がちょっとおかしいとは思ってた」「あの状況、オレなら気がついても寝たフリでとおすな」
他の子どもたちも、わりときびしいご意見。
「わたくしは反対したのです。せめてこちら側に置くべきだと言ったのに、それをあの人が」と王妃パランティア。
まさかの家族全員からの酷評に、父親の王さまガックシ。
すべてのドラゴンを従える、ドラゴンの中のドラゴン。そんな彼も家族相手ではかたなしです。
と、そんなタイミングで目を覚ましたルク。
なんだかにぎやかだなぁ、と目を開けたら、いきなりドラゴンたちが自分の周りでひょこひょこ踊っている姿が飛び込んできたものだから、すっかりキョトンとなってしまいました。
フレイアとレプラがいきなりケンカをはじめて、逃げた先の皇龍の城にてラフィールの石像にふれて、ラフィールの精神世界へ行ったとおもったら、いろいろあってバタンきゅう。で、起きたらこのありさま。
これをすぐさま理解できるほうがどうかしています。
自分が置かれている状況がわからずに、ポカーンとしている水色オオカミの子ども。
そんな彼のもとへと届いたのは、金色のドラゴンが発した威厳あふれる大音声。
それとともにみな口をつぐみ、さわぐのもやめて、会場内がしんと静まりかえりました。
王の言葉をさえぎるのは不敬に当たるからです。
「おぉ、ようやく目覚めたか! ワシはドラゴンたちの長、現皇龍王ロン・ユニコ・イギス・ホルンギャスパー・イグニット・ヴァンテイン・イーザル・シナート・アンスウェラー・ガルマラ・ドグマ・シルマリル・ギヌス。このたびは我が娘、ラフィールを救ってくれたこと、心より感謝する」
父親でありドラゴンの国の王さまでもあるお方からの、じきじきのお声がけ。
それはとてもとてもありがたくて、尊いものなのかもしれませんが、これを受けてまだ頭がぼんやりとしていたルクが発したのは、ただひと言。
「ながい」
これを耳にして「ぷっ」と最初に吹き出したのは、王さまのとなりにいた王妃さま。
続いて「ガハハ」と笑ったのはひな壇の末席にいた赤さび色のドラゴンのフレイア。つられてウルルやラフィールもくつくつ笑い出して、ついには皇龍一族がみな大笑い。そして会場中からもドッと笑いが起こって、そのまま宴会が再開されることに。
前々からみんな、やたらと長くてめんどうな名前だとはおもっていたのです。
ですが、さすがに王さまに面と向かってコレを口にする者はだれもいませんでした。それをあっさりとやってのけた小さな勇者の登場に、ドラゴンたちはやんやの拍手。
起きたルクのもとへと、さっそく向かうウルルやラフィール、フレイアたち。
そんな女性たちの姿を見ながら、金色のドラゴンがひとり「うぐぅ」と情けない声をこぼしたのを見て、王妃パランティアはコロコロと愉快そうな笑い声をあげずにはいられませんでした。
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