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128 査問会
しおりを挟む「フレイアさま、ならびに水色オオカミのルク殿をお連れしました」
白いローブ姿の男女のお使いのうち、女性の方が扉をノックしてそう告げると、中から「わかりました。お入りなさい」との大人の落ち着いた女性の声が聞こえてきました。
お使いの男性の方が扉を開けると、そこは机やソファーとかが並んだふつうの部屋ではありませんでした。
真上から見ると、ちょうどコの字を左に横倒しにしたような形の室内。
周囲を高い壁に囲まれており、部屋にいた六名の人物たちは、その上に設けられた席から、入室したこちらを見下ろすようにして座っています。みんな白いローブ姿。
部屋の中央にある檀上へと誘導されたフレイアとルク。
そこでようやくフレイアさんは拘束の腕輪を外されました。
ウルル姫は、お使いの男性に水色オオカミから引っぺがされて、部屋の隅の方へと連れていかれてしまいました。
そのタイミングでカンカンと鳴らされた木槌。
「では、これよりフレイアおよび水色オオカミに対する査問会を開催します」
宣言したのは落ち着いた雰囲気の黒髪の女性。部屋への入室を許可したあの声の持ち主。
どうやら彼女がこの場をとりしきるみたいなのですが、そんな女性の姿を見て「げっ」と声をあげたのはフレイアさん。
「よりにもよってレプラかよ。いつのまに査問会をまかされるぐらいにまで、出世したんだ」
「私語はつつしむように。わたくしは誰かさんとちがって、プラプラせずに、ちゃんとお務めを果たしていたのです。これはその結果にすぎません」
ツンと澄まし顔にて、そう答えた黒髪の女性。
名前をレプラといい、フレイアさんとはわりと年齢が近くて、幼い頃より二人しておおいに周囲の大人たちの手を焼いていたドラゴン。
かつてはかなりのヤンチャ者にて、東のレプラ、西のフレイアといえば、一時期、竜の谷の若者たちを二分するほどの勢力を誇る集団を率いていたこともある、大姉御。
向かうところ敵なし。そんな彼女の前に立ちふさがり続けたのはフレイア。
何度もやり合ったのですが、どうしても決着がつかない。そこで武者修行だと外の世界へと飛び出したレプラさん。
外でも連戦連勝、ひたすら勝ち星をかさね続けていたのですが、その高くのびきった鼻っ柱をペッキリとへし折る者が、ついにあらわれた。
はじめて知った敗北の味。それと同時にちがう感情にも目覚めてしまった彼女は、一転してしおらしくなり、竜の谷へと戻ってきました。それからはヤンチャはすっかりなりを潜めて、マジメにコツコツと王城での務めに精を出すようになり、現在に至る。
「あなた方はきかれたことにだけ、素直に答えるように。なおウソをついたのが発覚した場合は、相応のバツを与えるので、そのおつもりで」
「へいへい」「わかったー」
ふてぶてしい態度のフレイア。
これに査問会委員長のこめかみがピクリ。だけど表情をくずすことはなく、これをムシ。
素直なルクの方にだけ、にっこりと笑みを浮かべて「よろしい」と言いました。
そんなレプラの顔を見て、「けっ、気色のわるい笑顔だねえ」とぼそり。
それは小鳥のさえずりよりも、なお小さな声であったのですが、厳粛な空気の室内というものは、とっても静かにて、ちょっとした物音もよく響きます。しかもドラゴンは目や耳はかなりいいので、まだまだ若い委員長の耳にはバッチリと届いたよう。
またもや、こめかみのあたりがピクリ。
これを見て、にへらと笑みを浮かべたのはフレイアさん。
チラリとその横顔が目にはいったルク。「あー、これはぜったいに、なんだかイジのわるいことを考えている」と思いました。
風の草原で親しくなった小さなヘビのココムさんが、人間たちを追い払う算段を考えているときの表情に、とってもよく似ていましたから。
「それではいくつかおたずねします。まず、このたびフレイアは、どうして二百近い数もの『竜のしずく』を必要としたのですか」
「それは、こいつの、ルクのケガを治すためさ」
「その子のケガをですか……。だからとてドラゴンの秘薬が二百とはおだやかではありませんね。一本だけでもすごい効能があるというのに。過去に前例がないことですよ、これは」
「くわしいことはウィジャばあさんに聞いてくれ。必要だったものは仕方がないだろう」
「まぁ、ウィジャさまがそうおっしゃるのですから、きっと必要だったのでしょう。それはいいです。ですが問題なのは、あなたのクスリの集め方です。なんでも広場で『おまえら、とっとと家から余っている竜のしずくをもってきやがれ。モタモタしていたらしょうちしないぞ』と、のたまったとか」
「……あー、ちょっと急いでいたし、バタバタしていたから。そのへんのことはあまりよく覚えてないかなぁ。なんてね、テヘ」
「ほぅ、覚えていないとおっしゃるのですね」
赤さび色の髪の毛をした屈強な女傭兵が、舌をだしておどけてみせたのですが、これは逆効果だったらしく、またもやレプラさんのこめかみがピクリ。
どうやらフレイアさんは、わざと彼女をからかって挑発しているみたい。
なんとなくヒュルリと冷たい風が上段から吹いてきたような気がして、シッポの毛が逆立ち、ぶるると体をふるわせた水色オオカミの子ども。
おずおずと「あのう」と口をはさむと、レプラさんは「発言を許可します」と言いました。
「それってボクのためだよね? だったらフレイアさんはわるくないよ。フレイアさんはムチャをしたボクを助けるために、がんばってくれたんだから」
ルクのこの言葉を聞いたレプラ。「あぁ」と悩ましげな吐息をこぼし、「こんな子どもが気をつかって、自分のせいだと健気な態度をみせているというのに、いいとしをしたあなたときたら……」
ヤレヤレ情けないと心底呆れて見せたレプラさん。その態度に、今度はフレイアさんのこめかみがピクリ。
なんとなく流れがおかしなほうに向かっている査問会。
因縁浅からぬ二人の女性の、密やかだけどちょっと過激なやりとりはまだまだ続く。
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