水色オオカミのルク

101 大物助っ人

　
　まる一昼夜を駆け続けて、夜明けとともに、ついに風の草原へとたどりついた水色オオカミのルク。
　草原につくなり、近くの草むらに顔を突っ込んで呼びかけたのは、地を這う者たち。
　トカゲやヘビやムシなどで構成された組織にて、その情報網は草原のすみずみにまで及び、この地にておよそ彼らの目を逃れての活動は不可能と言えるほど。
　とある一件にてその組織の有力者であるヘビと知り合ったルク。
　その縁を今回も頼ったのです。
　ルクの呼びかけに応じたのは一匹のトカゲさん。

「おや？　誰かと思えば水色オオカミのダンナじゃないですかい。出て行ったとおもったらあわてて戻ってきて」
「うん、ちょっといろいろあってね。それよりも教えてほしいんだけど、ダイアスさんたちって、いまどの辺にいるのかな？」
「デュカ族ですか、たしかいまは北東の方にいるハズですよ。小さな黄色い花が一面に咲いている丘のあるところです」
「北東の花畑だね。わかった、ありがとー」

　居場所を聞くなり駆け出した水色オオカミ。
　あっという間に遠ざかるその背に、「はやっ！」とおどろくトカゲさんなのでした。



　いきなりの水色オオカミの出現に騒然となったのはデュカ族の群れ。
　ですがそれは彼の姿におどろいたというよりも、風のごとき速さにおどろいていたのです。
　なにせここは速さを信奉し、速さを求め、自身が風となることを欲してやまない連中が集う地。
　速さは憧れであり、それだけで興奮したウマたちに囲まれる理由になるのです。
　そんな連中を押しのけて姿をあらわしたのは、巨大な黒馬のダイアスと、彼に寄りそうように並んでいる紺色の馬のセレン。
　さっそく、かくかくしかじかと口早に助太刀のことを説明したルク。
　仲間を外部に出す。
　それ自体は昔からあったこと。
　かつては背にのせるにふさわしい人物が、ときおり風の草原を訪れては、意気投合して出て行く同胞がいたもの。
　ですがここのところは絶えてひさしい。
　ダイアスは天の御使いであるルクには恩義があるので、協力するのは問題ないとの快い返事をしてくれました。
　ただ、そこで問題となったのは「いったい誰が行くのか？」ということ。
　外部には危険も多い。そこでダイアス自らが出向こうと言い出したのですが、それはセレンが反対しました。

「相手はお嬢さんなのでしょう？　あなたが手を貸したら、せっかく勝ってもあなたのおかげとか言われかねないわよ。それにあなたがその競技場とかに姿をあらわしたら、それだけで他のウマたちが固まって、大会どころじゃなくなると思うわ」
「うっ、それは……」
「となると、あまり大きなのはダメね。つり合いがとれて実力もあるとなると、そうねえ……、ビエラ、ビエラはいる？」

　セレンから名前を呼ばれて、のっそりと姿を見せたのは、やや小柄な茶色の牝馬。目がちょっとトロンとして眠そう。

「はーい、ここにいるっすよ。姉さん、ひょっとしてウチをご指名っすか」
「うん。できればあなたに行ってもらいたいんだけど」
「いいっすよ。じゃあ、ルクさん。とっとと行きましょう」

　あんまりにもあっさりと了承。
　これには話をふったセレンのほうが、かえってあわてるほど。

「ちょ、ちょっと待ちなさい、ビエラ。あなたわかっているの？　草原の外に行くのよ。仲間もいないし、人間だらけだし、いくらルクさんがついてくれるからって、とっても危険なの。ちゃんとわかってる？」
「あー、まー、そのヘンは気にするだけムダというか。明日は明日の風が吹く？　みたいな。まぁ、なるようになるっすよ」

　ビエラという牝馬はとっても楽観主義でした。おまけに細かいことは気にしない性格のようで、だからこそいくら天の御使いの願いとはいえ、見知らぬ小娘をのせるのにも、その指示に従うのにも、抵抗がなさそうだと選ばれたのですが……。
　自分で指名しておいてなんですが、とっても不安な表情を浮かべたセレンなのでした。
　なおこんな調子ですが実力はあるそうで、小柄だけど瞬発力があって、小回りも利くそうです。