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10 森の古老
しおりを挟む「前に進んでダメなら、後ろはどうだ?」
野ウサギの兄弟の弟タピカの意見で、来た道を戻ってみることにする一行。
結果は同じ。また五つの小石が置かれた場所へと戻ってしまいました。
「直線の道なりがダメなら、脇へと入っちまおう」
黒カラスのセンバの意見で、道をそれて茂みの中へと入っていく一行。
森で迷う危険もあるので、地面に枝で目印の丸を書きながら進みます。
ですが、しばらく進むとやはり森の小道へと戻ってしまいました。
進んでもダメ、戻ってもダメ、横にそれてもダメ。
試しにルクだけで、一気に真っ直ぐな道を駆けてもらいましたが、そのままの勢いにて帰ってきてしまいました。
こうなると闇雲に歩きまわっても疲れるだけ。
一行はしばし休憩して、落ち着いて考えてみることにしました。
「どうしたらいいんだろう……」
すっかり困ってしまったフィオ。ムズカシイ顔をして考え込んでみますが、なにもいいアイデアが浮かびません。
兄をマネて弟のタピカも眉間にしわを寄せていますが、こちらも同じく、何も浮かばない様子。
「空の上から見たときには、こんなことはなかったんだがなぁ」
カラスのセンバの話から、どうやら魔女の魔法は森の上空にまでは及んでいないみたい。
「いっそのことボクが水で森を押し流しちゃおうか」
ルクの意見は「ぜったいにダメ!」とフィオに怒られた。
「テントウムシのおじいさんが言ってただろう。きみのチカラはとってもスゴイから、よく考えてから使えって。いくら先を急ぐからって、森を壊しちゃダメだ」
友だちに諭されて、改めてそのことを思い出したルク。
素直に「ごめん」とあやまって自分の非を認めました。
とはいえ、打開策もなく、これにて手詰まりです。
目指す場所まで、もうすぐだと思っていたのに。
元気をなくし、しゅんとうなだれてしまう一行。
「せっかくここまで来たってのに、くそっ」
タピカが腹立ちまぎれに、近くの木の幹をコツンと蹴飛ばす。
すると木が突然にしゃべりだし、野ウサギの弟はビックリぎょうてん。
「さきほどから騒がしい。わたしの昼寝の邪魔をするのは誰だ」
木の表面がぐにゃりと形をかえたかと思うと、そこに鼻の高いしわくちゃのおじいさんの顔が浮かびあがりました。
「おや? 何ごとかとおもえば、水色オオカミの子に野ウサギとカラスとは、へんてこな組み合わせだな」
ヘンテコと言われた一行。
ルクはしゃべる木に瞳を輝かせ、シッポをぶんぶん。
タピカとセンバは開いた口がふさがらないほど、おどろいたまま。
野ウサギの兄のフィオだけが、彼が木の精霊だと、いち早く気がついたので、すぐに弟の無礼と、騒がしくして彼の眠りを妨げたことを丁重に詫びた。
これに気をよくしたのか、木の精霊は目元を細めて言いました。
「礼儀正しき野ウサギよ。キミの謝罪を受け入れよう。わたしはトレントのギャバ。その様子では、どうやら森の道で迷っているようだな」
「はい。この森にすむという魔女を訪ねてきたのですが……」
自身らがとっても困っていること。病気の妹のためにも一刻も早く、先へと進みたいと訴えるフィオ。
その真摯な態度にほだされたトレントのギャバ。
「ふむ。そういう事情ならばしかたがあるまい。本来ならば手助けは禁じられているのだが、森の迷路を抜けるヒントを教えてやろう」
「本当ですか! ありがとうございます」
「目印は黄色い葉だ」
「黄色い葉ですか? それをどうしたら」
「それは自分で考えるがよい。わたしが教えてやれるのはここまでだ。では行くがよい」
それだけ言うと、木の表面に浮かんでいた顔は、元のようにぐにゃりと形を変えて消えてしまいました。後にはふつうの木の皮があるばかり。
もう声をかけても、応えてくれません。
ですが森の小道を抜ける手がかりは得られました。
一行はとりあえず、ギャバが言っていた黄色い葉を探してみることにしました。
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