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091 永遠の旅人
しおりを挟むジンさんカクさんと合流すべく探していたときのことである。
三階フロアの方から「ぎゃっ」「うわっ」という叫び声が聞こえたもので、わたしたちは急ぎ向かった。
で、駆けつけるなりわたしも「ぎゃーっ!」と悲鳴をあげた。
なぜならいきなり生首がポーンと飛んできたもので。
出会いがしらだったこともあり、ついドッジボールみたいにキャッチしてしまった。
「チチチ、落ちつきなよミユウ。よく見てごらん」
キャアキャアとやかましいわたしを、肩にとまっていた一枝さんがたしなめる。
よくよく見てみれば首は首でも人体模型のモノ――ジンさんの首――だったもので、わたしも「あっ」
首だけとなったジンさんは「きゅう」と目を回している。
で、周囲を見てみれば、けっこうな惨状であった。
白骨と臓器が一面に散らばっている。
とはいえ、どれも作り物。
いや、骨の方はもしかしたら本物かもしれないけど。
それらは人体模型と骨格標本がバラバラになったもの。
やられたのはジンさんとカクさんにて、やったのは例の青いスーラとかいう珍生物である。
「なんてザマだい。だいの大人がふたりがかりで、だらしないったらありゃしない」
一枝さんから叱られて転がっていたドクロが「面目ない」とカタカタ謝った。
わたしはカクさんの頭蓋骨を拾って、とりあず近くの閲覧台の上にジンさんの首ともども並べては、散らばったパーツをかき集める。
「にしてもずいぶんと派手にやられたもんだね。細かいパーツがヘンなところにまぎれ込んでないといいんだけど」
人体模型のパーツはせいぜい三十個ぐらいだからまだいいけれど。
骨格標本の方は二百ほどにもなるので、組み立てるのがとってもたいへんなのだ。
いかに何度も手伝っているとはいえ、一からとなると手間がかってしょうがない。
そこでまずは上半身と両腕を中心に仕上げる。そうすればパーツさえ集めておけばカクさんが自分で組み立てられるので。
一枝さんも「ったくしょうがないねえ」と回収作業を手伝ってくれた。
ジンさんとカクさんを修復する一方で、ふたりを返り討ちにしたスーラはどうしていたのかといえば……ただただ、ぼんやりしている。
ときおり、プルルンと半透明の身を震わせてはいるものの、じっとしている。
わたしはチラチラと気にしながら作業に精を出す。
幸いなことにパーツはそろっており、ふたりはじきに復活した。烏丸から取り返した腎臓パーツも組み込んだので、ジンさんにいたってはついに完全体となる。もっとも、だからどうしたという話だけど。
するとそれを待っていたかのようにして、ずるりずるり。
スーラがこちらに近づいてきたもので、わたしはおもわずあとずさった。
そうしたらスーラの表面がぐにょりと歪んで、一部がにょろにょろ。
まるでタコの足のようにウネウネ動くそれは触手?
サイダー味のヒモ状のグミみたいでちょっと美味しそう……とか考えていたら、いきなりヒュン!
一瞬の出来事であった。
素早くのびてきたとおもったら、わたしの右手首は触手に掴まれていた。
驚いて振り払おうとするも、うにょんうにょんして、ちっともとれない!
青いスーラに捕まってしまったわたしの身を案じて、仲間たちがはずそうとしてくれるも、軟体ゆえの手応えのなさに成す術なし。
混乱する現場。
でも、そのタイミングで頭の中に響いてきたのが――
《こちらに害意はない。嬢ちゃんに少し訊きたいことがあるだけだ》
男性とおぼしきナゾの声に、わたしは大きく目を見開く。
ばかりか、一枝さん、ジンさん、カクさんらもギョッ!
触手に触れていたせいで、みんなにも声が聞こえたらしい。
こんな見た目なのに意思の疎通がはかれることにビックリ。
念話とでもいおうか、その特殊な方法にもビックリ。
そして意外にも理性的な雰囲気の声音にもビックリ。
あんまりにも驚くことが多すぎてすっかり面喰らってしまった。
そのせいか一周回って逆に落ちつけた。
これはそういうモノ……とストン、受け入れられたところで。
《オレはムーという者だ。ごらんの通りのナリだが、そいつはまぁ、あまり気にしないでくれると助かる》
ムーさんと名乗った青いスーラ。
どうして人間みたいに話せるのかといえば、元は人間だったからとのこと。
彼の物語はいわゆる異世界転生の人外モノというジャンルらしい。
人間以外の何かに生まれ変わって、第二の人生をファンタジーあふれる世界でやり直すというストーリー。
この手のジャンル、物語の過程において、たいていは人化するらしいのだけれども、彼の場合は最初から最後までスーラのまんま。
おかげで、えらくたいへんだったという苦労話はさておき。
ムーさんは言った。
《この頃、ちょっと記憶が曖昧になっていてねえ。昔のことがよく思い出せないんだ。でも、どうしても思い出したい名前がある》
ムーさんはあちこち放浪している旅人にて、見た目からは判別できないけれども、かなりご高齢のようだ。
で、歳のせいか近頃は物忘れがちらほら。
そして忘れているのは、彼にとってはよほど大切な人の名前らしい。
どうやらそれが気がかりにて、こうして彷徨っているようだ。
つまり三冊目にして、最後のミッションはムーさんが忘れている大切な人の名前を取り戻すお手伝いをすること。
でも、ちょっと待って。
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だって……
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