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026 絵馬、二枚目
しおりを挟むホーホケキョ。
空を飛ぶ一枝さん。
導かれるままに辿り着いたのは……
「えっ、よりにもよってココなの?」
案内されたのは門構えが厳めしい南町奉行所――のすぐそば。
路地の物陰より、ちょいちょいと手招きをする骨の手はカクさんだ。
合流した一行。
「みんな無事でよかった。絵馬もちゃんと手に入ったみたいだね。わたしはドジって捕まっちゃったよ」
「やはりミユウは逃げ切れなかったか。だが、その犠牲はけっしてムダではなかったぞ」
「しかりしかり。ミユウの読み通りであったわ」
予想した通り、一番地の壱さん宅の軒先に絵馬は吊るしてあったという。
ちなみに壱さん宅は下駄屋さんに扮していたそうな。
わたしはさっそく手に入れた一枚目の絵馬を見せてもらう。
表に描かれているのは花札の猪(いのしし)であった。裏には『世界が平和でありますように。尾白』と書かれてあった。
絵柄はいかにも渡世人らしいけど、願掛けの方には良いことが記されている。
なんだかんだで、ハチワレの尾白はいいヤツなのかもしれない。
「にしても、こんなところにいて大丈夫なの?」
わたしはキョドキョド落ちつかない。
なにせこちらは追われる身、奉行所といえば敵の総本山である。
でもカクさんはアゴを「カカカ」と震わせ「なあに、昔からよく言うであろうが、燭台もと暗しと」
燭台下暗し、もしくは灯台下暗しともいう。
人は身近なことには案外気がつかないものだというたとえ。
よもや向こうさんも、ドロボウ役の鼠小僧どもが大胆不敵にも、自分たちの本拠地のすぐそばをチョロチョロしているとは夢にもおもうまい。
それに人員があらかた出払っているようで、奉行所はしぃんとしていた。
いまのうちに、わたしは次の問題を解き明かすべく相談しようとするも「その必要はない」とジンさん。
「じつはそのナゾナゾはもう解けた」
二問目は『三人四脚、一日中走っているのに汗をかかないものは何?』というナゾナゾ。
「三人四脚は二人三脚の三人版だ。一日中走るというのは、ずっと動いているということだろう。だからとて、まったく知らないモノが答えではナゾナゾが成立しない。
そこで自分たちの身の回りに置き換えて考えてみたら、条件に合致するのがひとつだけあったんだよ。ずっと動いているものが……」
そこでジンさんはいったん言葉を切る。
ためてもったいぶるジンさん。人体模型のドヤ顔がちょっとうっとうしい。
けど、ここはわたしが大人になって「それでそれで」と続きを促す。
これに気をよくしたジンさんが言った。
「うぉっほん。それはな……時計だよ。もちろんデジタルじゃないぞ、学校の教室にも飾られている針時計だ」
短い時針、長い分針、つねに動きつけている秒針。
三本の針が協力しては時を刻み続けている。
機械だから汗もかかない。
たしかにその通りにて、「おぉーっ」とわたしはパチパチと拍手する。
でも、ここで「じゃがのぉ」とボリボリ頭をかいたのはカクさんであった。
「ナゾナゾの答えが時計ということはわかった。が、ここは下出部映画村のなかじゃ。時計なんぞはどこにもないぞ」
江戸時代っぽい映画村。
人も物も建物や町並みも、すべてがそれっぽいのに変わっている。
時計そのものは江戸時代には伝来していたそうだけど、持っていたのはごく一部のお金持ちの好事家のみ。
もしもどこぞの大店や屋敷の奥とかにしまわれていたら、外からでは見つけようがない。
しかし第二の試練の儀であるケイドロ遊び、これまでの流れからして、そんなイジワルは仕掛けてこないとおもわれる。
ということはナゾナゾの答え、解釈そのものが間違っているのか?
「う~ん」「むむむ」
揃って腕組みにて考え込むジンさんとカクさん。
一枝さんはわたしの頭の上で、一休み中である。
ほんのり伝わってくる小さなぬくもりを感じているうちに、わたしはあることを閃いたもので「あぁーっ!」
いきなりガバっと顔をあげたもので、驚いて一枝さんがパタパタ飛び立つ。
「急に動くんじゃないよ、びっくりするじゃないか」
一枝さんが羽毛を逆立てプリプリ怒っているが、そんなことよりも。
わたし……わかっちゃったかも、ナゾナゾの答えが。
「アレだよ、アレ! さっき鳴ってた鐘の音! あれってば昔の時計台みたいなものなんでしょう」
たしかに時計はないけれど、その代わりの物ならばある。
きっと二枚目の絵馬は、時の鐘を吊るしている鐘楼のところにあるはず。
そうとわかれば善は急げとばかりに、さっそく向かおうとしたのだけれども。
「でかしたぞミユウ、あとのことはそれがしたちにまかせておけ」
と言うなり、カクさんにトンと背中を押された。
わたしは「おっとっと」
路地より表通りに出てしまう。
そこでばったり遭遇したのは、ちょうど奉行所から出てきた黒羽織姿の同心である。目が合った。
「あっ」
「あっ」
まさかの鉢合わせに双方固まったものの、いち早く再起動したのは同心だ。
「おのれちょこざいな! 舐めたマネをしおってからに。えぇい、そこになおれ、刀のさびにしてくれようぞ」
腰の刀に手を当てギロリとにらまれたもので、わたしは「ひょえ~」と脱兎のごとく逃げ出した。
すぐさま追っ手がかかり、「御用だ、御用だ」
捕り方の数がみるみる増えていく。
どうやらまた目くらましの囮に使われたらしい。
「カクさんのバカーっ! アホーっ! 薄情者ーっ!」
わたしは逃げながら憤懣(ふんまん)やるかたなし。
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