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017 三位一体
しおりを挟む完膚なきまでにパッソに叩きのめされた。
ふりだしに戻ったわたしたちは、すぐさま気を取り直して「うぉりゃあぁぁ」
猛然と四階から二階までの試練をいっきにクリアし、一階まで降りてきた。
ちょっとヤケクソ気味だったのは、ゴール目前でやり直しを喰らってふて腐れていたからである。
でも、さすがに疲れたので休憩してからパッソに挑む所存。
「はぁはぁはぁ」
わたしは立ったままで膝に手をつき、乱れた呼吸を整えている。いい感じに体が温まっているので、床で冷やしたくない。
するとその頭にちょこなんとのった一枝さんが、スポーツタオルにくるんで背負っている品を見ながら「チチチ」とさえずる。
「なんだいミユウ、あんた、またキャベツを拾ってきたのかい?」
わたしは「うん」とうなづいた。
これは二階の試練の最後に落ちてくる品だ。コントのように降ってきては、頭をごっちんしてくる。立派な大玉のキャベツ。昨今の不作のおり、けっこうな数をポンポン落としてくる。いったいどこから調達してくるのかはナゾである。
「だっていま買ったら高いんだもの。この前、お母さんに頼まれてスーパーに買い物に行ったんだけど、野菜売り場で値段を見てビックリしちゃった。
それをせっかくタダでくれるっていうのに、持って帰らないだなんてありえない」
きっぱり言い切るわたしに一枝さんは「さようですか。やれやれ、しっかりしているのか、ヌケているのか。ヘンな子だねえ」と首をくりりっとかしげる。
一枝さんからヘンな子呼ばわりされて、わたしはちょっと傷ついた。
でも、じつはもったいない精神だけで、わざわざ重たいキャベツを運んできたわけではない。お土産として持ち帰りたいというのは本心だが、じつは他にもちょっと考えがあってのこと。
もしもうまくいけば、これでパッソをだし抜けるかもしれない。
そして秘策を考えていたのは、わたしだけではなかったようで……
「ではそろそろ行こうか」
「いざ、出陣じゃあ~」
妙にはりきっているジンさんとカクさん。
ふたりとも体はもろいのに、メンタルは鋼である。
その不屈っぷりだけは、見習いたいとおもう。
わたしも「よし!」と顔をあげた。
〇
さっきは横並びでの同時アタックをしかけたものの、パッソに瞬殺された。
けっして相手の力量を侮っていたわけではないけれど、やはり数の優勢による油断があったのは否めない。
あと付け焼刃の連携も良くなかった。いったん乱されたら、あとはなし崩し的に蹂躙されてしまう。
そこで今回はフォーメーションを変えた。
横ではなくて、縦に!
三人が一列に並んで突進し、パッソに立ち向かう。
先鋒の一人目が仕掛けてすぐに離脱、中堅の二人目が間髪入れずに連撃を与えこれまた離脱、そこへ三人目の大将が追撃し、敵に深手を負わせるという三位一体(さんみいったい)の戦法だ。
先鋒をカクさんが、中堅をジンさんが、わたしは最後尾の大将役である。
とはいえ、実際にわたしが攻撃に加わることはない。
そもそも、わたしは誰かと拳で語り合ったこととかないしね。
わたしががんばるのは、ひたすらゴールである昇降口を目指すことだけ。
カクさんとジンさんがめくらましとなり、パッソの視界を奪い注意を引きつけたところで、わたしがサッと躍り出る。
パッソの脇を抜けての猛ダッシュ、そのまま華麗にトライを決めるのだ。
これこそがジンさんが密かに温めていた秘策であった。
ちなみにカクさんの秘策は「始まってからのお楽しみじゃ」とのことにて「カカカ」とアゴの骨を震わせる。
いったい何をたくらんでいるのやら。
丁字ホウキを小脇に抱えたカクさんが駆け出し、ジンさんとわたしも続く。
三人はまるで一本の串団子のように動いては、廊下を突き進む。
こちらの動きに呼応し、反対側にいたパッソも加速する。
両陣営の距離がみるみる縮まっていく。
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