下出部町内漫遊記

月芝

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007 助っ人登場!

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「はっ!」

 気がついたら六年四組の教室にいた。
 六つの机をくっつけた台の上に寝かされている。
 どうやら気を失っているうちに、またしても二宮金次郎像の手によってふりだしに戻されたらしい。
 でも、これまではポイっと教室に投げ込むだけだったのに……

 わたしが寝起きでぼんやりしていると、枕元で「チチチ」と一枝さんのさえずり。

「おやミユウ、起きたのかい。いきなり白目をむいてバタンと倒れたときには、さすがのあたいも肝が冷えたよ」
「うぅ、ごめんなさい。あんまりにもビックリしちゃって」
「いや、まぁ、アレはあいつらが悪い」と一枝さんはジロリ、にらんだのは教室のうしろの方。
 そこには並んで床に正座をさせられている、人体模型と骨格標本の姿があった。

「ったく、バカもんどもが。くだらないイタズラをしやがって」
「いや、イチエの姐さん。あれはこいつが言い出したことでして。ちょいとかましてやろうとか」
「あぁん? いつわりを申すでないわ。ガツンとビビらせてやれと言い出したのは、其の方ではないか」

 主犯は自分じゃないとの主張をくり返すふたり。
 醜い言い争いを続け、ついには正座のままでポカポカ叩き合いを始めた。
 わたしはその姿に驚くやら呆れるやらで。

「え~と、これが例の助っ人なのイチエさん」
「そうだ。見ての通りあんな連中だからあまり頼りにはならんが、いざというときには盾ぐらいには使えるだろうさ」

 あのパワフルな二宮金次郎像を相手にして、「ここは通さんぞ」とたちふさがるふたりの勇姿をちょっと想像してみたのだけれども……
 う~ん、ダメっぽい。
 ボーリングのピンのように、一撃でバラバラにされる彼らの姿がありありと思い描けてしまった。
 それを踏まえた上で、わたしはいま一度「なるかな?」と訊ねたら、一枝さんは「たぶん」とスイと顔をそらした。
 うぅ、そこはウソでも大丈夫と言って欲しかった。

  〇

「え~、こほん。ではあらためて自己紹介をさせてもらおうか。
 我輩(わがはい)はジンである。
 おもに頭脳労働を担当するつもりなので、よろしく頼む」

 と、人体模型が言った。
 声が大きくてちとやかましい。

「カーカッカッカッ、それがしはカクと申す。これでも元は武士の身にて、武芸百般を納めておる。ちょこざいな敵なんぞは軽くひとひねりにしてしんぜよう。
 なぁにそれがしがいれば百人力よ、ミユウといったか? 大船に乗ったつもりでいるがよい」

 とは、骨格標本。
 掃除用具入れのロッカーから持ち出したデッキブラシを手に言った。

 テッテレ~♪
 わたしこと鈴山海夕は、あらたにジンさんカクさんというお供を得た。
 パーティーは三人プラス一羽になった。
 で、遅れた分をとり戻すべく、さっそく学校迷宮に挑む。

 四階の長い廊下のタネはすでにわかっているからサクサクいく。
 三階の廊下はふつうだ。いちおう三人プラス一羽で用心しつつ進むも、ひょうし抜けするぐらい何もない。
 はて? と内心で首をひねっているうちに、階段へと到着した。
 だからそのまま降りようとしたのだけれども。
 五段ほど降りたところでソレは唐突に起きた。

 パタンという音がしたとおもったら、段が一斉に失せてあらわれたのは坂である。
 階段がすべり台になっちゃった!

 わたしはとっさに手すりを掴もうとするも、そう考えたのはお供たちも同じだったらしい。三人揃ってわちゃわちゃ絡まっては団子となり「あ~れ~」
 シャーッと滑っていった先に待っていたのは、ぽっかり口を開けている穴であった。
 わたしたちは成す術もなく、ストンと穴のなかへ呑み込まれてしまった。

  〇

 気がついたら、狭いところにみんなして押し込められていた。

「なにここ? ちょ、ちょっとヘンなところに触らないでよ!」
「不可抗力である。それに吾輩、まな板娘には興味がない。出るところが出てから出直すがよい」
「ムカっ! なんですって~」
「これ、無闇に暴れるでないわ。というか、誰じゃ? さっきからそれがしの足を踏んでおるのわ」
「チチチ、むさ苦しい、埃っぽい、うっとうしい」

 一行が悪態をつきながらモゾモゾしているうちに、パカンと空間の一角が開いた。
 暗がりから転がり出たところは見覚えのある場所、六年四組の教室だ。
 わたしたちがすし詰めにされていたのは、掃除用具入れのロッカーであった。
 どうやらあの落とし穴は、ここに繋がっているらしい。


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