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60 闇に生きる女
しおりを挟む再会したアルティナさんと共に魔王様の執務室に呼び出された私は、ついに念願の情報を伝えられました。
「宮原百合を見つけたぞ。いまは王都に戻っているようだ」
「おぉ! 他国に走らなかったのですね。知らない土地に行かれたら大変でしたが、あそこならば土地勘がありますから」
魔王様から教えられた情報に喜色する私。しかし心配な情報も付随していました。どうやら彼女、ストレスと疲労でかなりグロッキー状態なんだそうです。
「お可哀想に。王城の厨房って女の子は入れてくれないんですよね。だから好きな料理も出来ないし、毎食塩味と固いパンですし、甘ったれの現代っ子には厳しい環境かと」
「そのわりには花蓮はまるで堪えちゃいないじゃないか?」とアルティナさん。
そこはソレ、私のウチは真冬に雪山でキャンプするような家だったので、他所様とは事情も環境も違うのです。一緒にしてはお気の毒です。
「うむ。それに引き抜き話だけでなく、勇者らの間でも不和が芽生えているとの報告も入っている。前に花蓮から聞いた話だと、勝手に振り分けられただけの形式上の仲間みたいだし、もともと大した結束なんてなかったのだろう。オレはどのみち関係は破綻していたと思うがな」
魔王様、超シビアです。でも私も賛成ですけれども。せめて二学期とかならば、まだ期待を持てたのですが、いかんせん新入学一ヶ月では絆もへったくれもありません。同じ中学出身とかでもないかぎりは、まだまだ互いに手探り状態であったことでしょう。私に至っては、ほんの数分ほどの接点しかありませんから、果たしてクラスメイトと名乗っていいのかも悩むところです。
「まぁ、でも弱っているなら好都合だ。ちょいと揺すってやれば一発だろう。そのためにアルティナを呼び寄せた。足代わりに使って、サクッと勧誘して来い。それからついでにコイツもつけてやろう」
魔王様が指をパチンと鳴らしたら、私の影からにゅるんと黒装束に身を包んだ女性が姿を現しました。
「お初にお目にかかります。わたしはセラー、影に潜み闇に生きる女。以後お見知りおきを」
忍者でしょうか? シャドウレディ? 女スパイ? とにかく痺れる響きです。超クールです。しかもピッタリとした衣装越しに見えるボディラインが、なんだかエロ格好いい女の人です。
「あー、もっともらしいこと言ってるが、単に夜型ってだけだからな。昼間は基本的に影に引っ込んでいて、夜になると頑張る諜報員だ。そいつをつけてやるから好きに使うといい」
魔王様太っ腹、紅いドラゴンだけじゃなくて、黒い部下までつけて下さいました。
「私は花蓮です。こちらこそよろしくお願いしますね、セラーさん」
旅のお供となる方にキチンと挨拶をすると、ぎゅむっと抱き締められました。
いえ、理由はだいたい想像がついているですが……、たぶん魔族特有の庇護欲が発動したのでしょう。いつものことですから、べつにいいんですけどね。
ちんまい市松人形は無念無想の境地にて、すべてを受け流しますよ。
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