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37 お世話役

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 土下座騒ぎに始まった一日は、リースさんの来訪で幕を閉じました。
 私のお世話役として、わざわざ砦から来てくれたそうです。私と姉御が出立した翌日にはすでにこちらに向かっていたんだとか。やたらとタイミングが良すぎる気もしますが……、まぁ、細かいことはいいでしょう。

「これからもよろしくお願いしますね。花蓮さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします。リースさん」

 再会を喜び、ヒシと抱き合う私たち。
 まるでパズルのピースが合うかのように、ジャストフィットする市松人形と青肌美人、この魅惑のクビレが人化を解くと、山よりもデカい蛇神さまになるというのだから驚きです。

 夕飯はリースさんの手料理を久しぶりに堪能しました。
 お弁当も美味しいのですが、やはり出来立ての温かな食事に勝るものはありませんね。胃袋だけでなく心も満たされます。それに一人きりの食事はやっぱり味気がありません。ですが今夜からはリースさんがいます。これでもう寂しくありません。

「そういえば私の身柄は魔王様に命じられて、ここに連れて来られたという話だったのですが」

 食後のティータイムを過ごしているときに、私はふと思い出しました。
 そう、紅いドラゴンの姉御に攫われて、砦を経て、物見遊山の後に魔王城にまで来たのは、そのためだったのです。ここのところの快適生活で忘れかけていましたが、肝心の用事をまだ済ませていませんでした。魔王様の匙加減ひとつでどうにでもなる私、ちょっぴり不安です。

「そうですね……、いまは立て込んでいる時期ですし、もうしばらくは面会はないかと」

 リースさんによれば、税収絡みはあと数日程度で落ち着くとのことですが、南部のほうで少しトラブルが起きたらしく、その問題解決次第になるらしいです。種族同士がぶつかる案件は、すべて魔王様の采配を仰ぐことになっているそうで、他種族の寄合所帯である魔族ならではの問題なんだとか。こういうデリケートな問題は下手に間に人を挟むと、よけいに拗れるそうで、トップダウンにて剛腕を振るうのが一番と教えてもらいました。
 魔王様って裁判官の役割もこなしているだなんて、本当に働き者です。この分だと異世界の小娘の相手をするのは、まだまだ先のことになりそう。

 砦のみなの様子なんぞを聞きながら、二人でしばらくの歓談の後、私は日課を行います。
 創成魔法にて、せっせと文房具を造り出します。念じるだけでポコポコ出現する鉛筆やらノートを見て、目をまん丸にしているリースさん。このように何もない空間に物を産み出す魔法というのは、少なくとも自分は知らないのだそうです。
 一度、その辺のことを詳しく専門家にでも話を聞いてみたいものですね、と私が言ったら「手配しておきます」とリースさん。知り合いの学者先生に当ってみるとのことでした。お知り合いに学者先生がいるって、何だかカッコいいと思ってしまうのは、私が子供だからでしょうか。いつかは言ってみたい台詞として記憶しておくことにしておきましょう。

 出した側からリースさんが箱詰め作業をして下さるので、仕事が捗ります。おかげでいつもの半分程度の時間で日課が終わってしまいました。ああ、その箱も創成魔法で出しました。駅弁とかが入っているような紙の箱なら出せることに、遅まきながら気がつきました。もう一つぐらいレベルが上がったらダンボールもいけるかもしれません。物を入れて良し、敷いて寝転がって良し、家を建てて良し、アイデア次第で使い方無限大のアイテムが我が手に! 夢が広がります。

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