4 / 101
04 五十連敗
しおりを挟む
転入手続きへと高校に顔を出した少女を狙う女神さま。
階段の踊り場に仕掛けた魔法陣、上から降りてきたところを、バッチリ捕えようと目論んだのだが、まさかの手すりに腰かけての滑走という手段で突破されてしまった。
映像に向かって、「高校生にもなって、何やってんのよ!」と思わずツッコミを入れる女神さま。四十四回目の転移魔法陣を躱されて、がっくりと項垂れてしまった。
なまじ美貌が整っているから、目の下の隈がかえって痛々しい。
そんな彼女の後ろでは、やいのやいのと騒いでいる一団がいる。
同僚らが、少女と女神の勝負を肴にして酒盛りを愉しんでいたのだ。ちなみにこの場に集まった全員が賭けに参加している。
「あぁー」と悲痛な声を上げたのは四十四回目にて捕縛と、一点狙いで賭けていた男の神様。「よっしゃー!」「でかした!」とひと際大きな歓声を上げたのは、二人の髭面の神様。酒瓶片手に大はしゃぎ。彼らは五十回越えに賭けた、大穴狙いの挑戦者たちである。
背後で騒ぐ連中をキッと睨む女神さま。すぐに気を取り直して次の策に移る。
一本道に誘い込んでから、一面に魔法陣を敷き詰めるという作戦を展開する。
あまりの大人げのなさに観客からブーイングが起こるも、彼女は取り合わない。ただ映像の中の少女にのみ集中していた。
獲物が両側を高いブロック塀に囲まれた路地に入った瞬間に、発動する魔法陣たち。
地面のすべてが光に満ちる。退路も同時に断ってある。いくつも直列に並べられたソレを、もはや一流アスリートですら飛び越すことは不可能、だが少女は事もなげに、このピンチを回避してみせた。
ぴょんと壁と電柱を使って器用に上まで登ると、そのままブロック塀の上をスタスタと歩いて、向こう側まで渡ってしまったのである。
これには映像を見ていた一同唖然である。
四十五回目、失敗。
「そんなバカな……」
必勝の策が敗れて呆然とする女神さまをよそに、観客たちはやんやの喝采を少女に送った。
よほどショックだったのだろう。女神さまは冷静さを失って、侍従が止めるのも聞かずに、転移魔法陣を無策のままに連発、ついに五十回目も失敗に終わり、自失となってへたり込んでしまった。
とっくに宴会もお開きとなり、侍従も就労時間が過ぎたので帰った。
薄暗い室内にポツンと一人とり残された女神さまが、ゆらりと立ち上がる。全身からは妖気が漂い、疲労ですっかり窪んだ眼がギラリと光っていた。
「ふふふふっ、良いでしょう。そこまで抵抗するんだったら、こっちにも考えがあります。次で終わりです。覚悟しておきなさい」
やたらとドスの効いた声が、彼女の口よりドロリと漏れた。
階段の踊り場に仕掛けた魔法陣、上から降りてきたところを、バッチリ捕えようと目論んだのだが、まさかの手すりに腰かけての滑走という手段で突破されてしまった。
映像に向かって、「高校生にもなって、何やってんのよ!」と思わずツッコミを入れる女神さま。四十四回目の転移魔法陣を躱されて、がっくりと項垂れてしまった。
なまじ美貌が整っているから、目の下の隈がかえって痛々しい。
そんな彼女の後ろでは、やいのやいのと騒いでいる一団がいる。
同僚らが、少女と女神の勝負を肴にして酒盛りを愉しんでいたのだ。ちなみにこの場に集まった全員が賭けに参加している。
「あぁー」と悲痛な声を上げたのは四十四回目にて捕縛と、一点狙いで賭けていた男の神様。「よっしゃー!」「でかした!」とひと際大きな歓声を上げたのは、二人の髭面の神様。酒瓶片手に大はしゃぎ。彼らは五十回越えに賭けた、大穴狙いの挑戦者たちである。
背後で騒ぐ連中をキッと睨む女神さま。すぐに気を取り直して次の策に移る。
一本道に誘い込んでから、一面に魔法陣を敷き詰めるという作戦を展開する。
あまりの大人げのなさに観客からブーイングが起こるも、彼女は取り合わない。ただ映像の中の少女にのみ集中していた。
獲物が両側を高いブロック塀に囲まれた路地に入った瞬間に、発動する魔法陣たち。
地面のすべてが光に満ちる。退路も同時に断ってある。いくつも直列に並べられたソレを、もはや一流アスリートですら飛び越すことは不可能、だが少女は事もなげに、このピンチを回避してみせた。
ぴょんと壁と電柱を使って器用に上まで登ると、そのままブロック塀の上をスタスタと歩いて、向こう側まで渡ってしまったのである。
これには映像を見ていた一同唖然である。
四十五回目、失敗。
「そんなバカな……」
必勝の策が敗れて呆然とする女神さまをよそに、観客たちはやんやの喝采を少女に送った。
よほどショックだったのだろう。女神さまは冷静さを失って、侍従が止めるのも聞かずに、転移魔法陣を無策のままに連発、ついに五十回目も失敗に終わり、自失となってへたり込んでしまった。
とっくに宴会もお開きとなり、侍従も就労時間が過ぎたので帰った。
薄暗い室内にポツンと一人とり残された女神さまが、ゆらりと立ち上がる。全身からは妖気が漂い、疲労ですっかり窪んだ眼がギラリと光っていた。
「ふふふふっ、良いでしょう。そこまで抵抗するんだったら、こっちにも考えがあります。次で終わりです。覚悟しておきなさい」
やたらとドスの効いた声が、彼女の口よりドロリと漏れた。
2
お気に入りに追加
1,643
あなたにおすすめの小説
御者のお仕事。
月芝
ファンタジー
大陸中を巻き込んだ戦争がようやく終わった。
十三あった国のうち四つが地図より消えた。
大地のいたるところに戦争の傷跡が深く刻まれ、人心は荒廃し、文明もずいぶんと退化する。
狂った環境に乱れた生態系。戦時中にバラ撒かれた生体兵器「慮骸」の脅威がそこいらに充ち、
問題山積につき夢にまでみた平和とはほど遠いのが実情。
それでも人々はたくましく、復興へと向けて歩き出す。
これはそんな歪んだ世界で人流と物流の担い手として奮闘する御者の男の物語である。
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?
ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。
だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。
これからは好き勝手やらせてもらいますわ。
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
【完結】人々に魔女と呼ばれていた私が実は聖女でした。聖女様治療して下さい?誰がんな事すっかバーカ!
隣のカキ
ファンタジー
私は魔法が使える。そのせいで故郷の村では魔女と迫害され、悲しい思いをたくさんした。でも、村を出てからは聖女となり活躍しています。私の唯一の味方であったお母さん。またすぐに会いに行きますからね。あと村人、テメぇらはブッ叩く。
※三章からバトル多めです。
美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます
今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。
アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて……
表紙 チルヲさん
出てくる料理は架空のものです
造語もあります11/9
参考にしている本
中世ヨーロッパの農村の生活
中世ヨーロッパを生きる
中世ヨーロッパの都市の生活
中世ヨーロッパの暮らし
中世ヨーロッパのレシピ
wikipediaなど
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる