星の勇者たち でも三十九番目だけ、なんかヘン！

193 鬼胡桃

　
　枝垂たちは戦場近くの林の中で敵の別動隊を確認！
　数は三十ほどだ。シュタタタと駆ける姿は軽快にて、ダボっとした着ぐるみっぽい見た目に反して、おもいのほかに動きがいい。
　さっそく殲滅……といきたいところだけれども、鬼胡桃は一定以上のダメージを受けると自爆する。
　対するコウケイ国側は、ジャニスと飛梅さんは剣と拳の接近戦特化型、エレン姫は魔法主体の中遠距離戦を得意としており、十五名の隊員らはいずれもそつなくこなす汎用型、虚弱体質の星クズの勇者である枝垂は遠距離一択にて、赤べこのフセは吸引型？
　このような構成なので、やはり無難に魔法攻撃で仕留めたいところだが、場所が少しやっかいであった。木々が邪魔をする。それに場所が首都近くなので延焼が怖いから火事は避けたい。
　かといって、いきなり接敵して斬りつけたらドカンとしちゃう。
　いったいどうするのかと様子を伺っていたら、何を考えてか抜刀するなりジャニスがいきなり敵のうちの一体へと突っ込んでいったもので、枝垂は「えぇーっ！」

　驚く枝垂を尻目に、ジャニスは駆けながら風の魔法と身体強化を発動、疾風となりて敵を一閃するも、すかさずくるりと相手に背を向けては回し蹴りを放つ。
　これを喰らった鬼胡桃のカラダが盛大に吹き飛んだ。
　でも、直接蹴撃を当ててはいない。足の裏に風魔法で風の渦を作り、圧縮した空気をぶつけたのだ。
　これにより接地面はふにょんと柔らかく、それでいて足にも風をまとわせることで蹴りの威力をさらに底上げ、さらに蹴り飛ばした相手へと追い風をぶつけることにより、ほんの一瞬にして両者の距離が離れた。
　遅ればせながらやられた鬼胡桃が爆ぜるも、その時にはもうジャニスは危険域を脱していた。
　問答無用で斬り伏せては、吹き飛ばすことでジャニスは鬼胡桃の自爆による被害を封殺する。
　そしてすぐさま別の獲物へと狙いを定めては、また……

　ジャニスは前々から強かったが、連合軍に出向中のラジール王太子に模擬戦にて惜敗して以降、いっそう鍛錬に励むようになっており、黒ヒョウ姉さんはさらなる剣の高みへと至ったらしい。
　さすがにこれをマネするのは難しいので、隊員らは三人一組となっては役割り分担をしては、敵に対処する。
　なお風と光の二属性持ちのジャニス姫は単独にて敵を屠り、飛梅さんは殴るのはやめて相手を掴んでは「えいや」と彼方に投げ飛ばしていた。
　でもって、枝垂とフセはみんなの邪魔にならないように、周囲をウロチョロしている。

　いや、だってしょうがないじゃない。
　枝垂の梅干しの種ピストルは威力が貧弱で、せいぜいカーラス払いぐらいにしか使えないもの。相手がふつうの生物とか禍獣であれば、目とかの急所を狙って援護もできるけど、鬼胡桃は着ぐるみみたいな容姿にて、目とか硬質のガラス玉っぽいので当てたところで、目つぶしにもなりやしない。
　より威力のある射撃をしたら枝垂の身がもたないし、当てたら当てたで爆発するし。
　ならばフセによる吸引攻撃といきたいところだが、フセはその気になればなんでもかんでもムシャコラするけれども、これでけっこう好みにうるさかったりする。剣などの鉄製品なんかはガムのように噛んだのちに、「ぺっ」と吐き出したりもする。
　頼み込めばしぶしぶ食べてくれるだろうけど、汚染物質がびっちり詰まった鬼胡桃を食えとは、さすがに枝垂も言えやしないよ。

　鬼胡桃の個々の強さはさほどでもない。小賢しい知恵をつけて戦略を巡らしてきたのにはいささか面喰らったけれども、落ち着いて対処すれば問題ない。
　ましてや攻略法さえ確立してしまえば、駆逐することはたやすい。
　ほどなくしてコウケイ国一行は敵勢の別働体を殲滅し終えた。
　ぶっちゃけ以前に対峙した赤霧・残土穢（ざんどえ）に比べたら楽勝である。
　だがしかし……

「はて？　けっこうな勢いで倒し続けているわりには、全体ではあんまり減っていないような」

　枝垂が不思議がっているとジャニスとエレン姫が厭なことを言った。

「ふむ。もしかしたら残土穢のときと同じく、女王みたいなのがいるのかもしれんぞ」
「そうですね。現状を見るかぎり、鬼胡桃を次々と量産している母体となる個体がいると考えるのが妥当でしょう」

　こういうのをフラグというのであろう。
　現在ゲンウッドに集っている戦力は、かつてイーヤル国での討伐戦時よりもずっと数が多くて内容も充実している。求めればさらなる援軍も可能であろう。
　が、星の勇者がいない。
　もしも残土穢の女王のようなデカ物があらわれたら、はたして対処できるのであろうか？
　枝垂はおもいきり顔をしかめた。